06.ぼくらがすべて、ぼくらが世界
彼は知らない。
竜の姿のあなたを初めて見た時から、私があなたに惹かれていたことを。
彼は知らない。
無理を言って困らせてあなたについてきたのは、今を逃せばきっともう二度とあなたと出逢えないような気がして、それが怖かったからだと。
あなたはきっと、今も何も気付いていない。
何度も何度も襲われるたびに助けてくれたあなたのことを、私がどうしようもなく愛していることに。
人であって人のようでない彼は、こちらが言わなければ本当にいつまでも気付いてくれないのかもしれない。
なぜなら、彼は人に愛されることに慣れていないから。
好き、大好き。
アリシアは小さく呟くと、長居しすぎて見慣れてしまった天井を見上げた。
ま白い天井にちらりちらりと銀の髪が揺れていて、もう一度好きと今度は先程よりもはっきりと呟く。
そうか、とだけ返したミモスの頬にアリシアはそっと手を伸ばした。
「本当はずっとあなたのことが好きだったって言って、信じる?」
「信じないな」
「どうして? 私が嘘をついているように見える?」
「見えない」
「じゃあ、どうして?」
「私が愛されるに値する人物でないからかな」
愛されたことがないからだと淡々と言うミモスの頬をきゅっと抓る。
彼のことは好きだが、こうやっていちいち悲観しているところは嫌いだ。
自らを卑下することをやめさせたかった。
あなたは本当はもっとずっとすごく素敵な人なのよと、人生を懸けて教えたかった。
「あなたはとてもすごい人。私を二度も救ってくれた素敵な人。
私が好きになったあなたは、決して愛されない人じゃないわ。私はあなたを愛しているもの」
「私を愛することは茨の道を進むことと同じだ。嫌な思いをすることも何度も起こる」
「でもそんな目に遭っても私を助けてくれるんでしょう? 自惚れてもいいかしら、私、たぶんあなたに愛されてる」
「・・・私を愛してくれる人を必ず守ると、私はルビスに誓っているのだ」
ルビスはずるい。
私の愛する人から誓われて勝手に愛して、私の方がもっとずっと彼のことを愛しているのに。
私にも誓ってよと拗ねたように言うと、ミモスは小さく笑い頷いた。
元に戻る