01.誰にでも甘い声



 ねぇねぇ君可愛いね、どこの子?
あんまり可愛かったからびっくりしちゃった、僕。
ねぇ、いい加減ちゃんって呼んでもいいかなあ。
ちゃんって呼びたいよおぉと駄々を捏ねる吹雪に、鬱陶しいと一喝する。
何がちゃんだ、いい年下男がちゃん付けなど気持ち悪いだけだ。
は、食堂でみいみいにゃあにゃあとしつこく迫ってくる吹雪の顔面にジャージを押しつけた。
豪炎寺くんのとなんかちょっと混じった匂いがして生々しいよぉとは、あまり口に出して言ってほしくない。
どんなに洗濯しても、こびりついた匂いは落ちなかったのだ。
そんな焦げ臭くて汗臭そうなジャージーを羽織っていると風丸に知られたら恥ずかしいではないか。




「吹雪くん、しつこい男は嫌われるよ」

「僕、顔でそういうとこカバーできるから気にしてないんだ」

「みんながみんなそのお顔で落ちると思ったら大間違いだからね。
 いっぺん女絡みのトラブルに巻き込まれて刺されればいいのに」

「痛いのはやだよおぉぉぉぉ!」




 ひと思いにぐさっとやられるから痛くありません。
じゃあちゃんも一思いにハグしてキスして彼女になってよ!
言うに事欠いてとんでもない要求を突きつけ初め、さらには許可もしていないのに勝手にちゃん呼びを始めた吹雪の顔に、
は今度は食器トレイを押しつけた。




「ハグされない心当たりたーくさんあるでしょ吹雪くん?」

「ハグに見せかけてぱふぱふしたのがまずかったの? でも足りなかったよ、全然」

「こほん! 他にもいーっぱいあるよね?」

「ハグに見せかけて服の中に手を突っ込んだのがまずかったの? でも声上げてたじゃん」

「誰だって上げます! まだまだいーっぱいあるでしょー? ほんといい加減にしないと風丸くんに言いつける!」

「ハグしてほしいだけなんだよおぉぉぉ! うわぁぁぁぁん!」




 嘘泣きを始めた吹雪が勢い良くに飛びかかる。
きゃーやめて近付くなきゃー風丸くんきゃー!
吹雪の頭に、合計4人の拳骨が落下した。




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