仲間




 の家に招かれざる客人がやって来た。
言わずと知れた達一行である。しかも彼らだけではない。
聖堂騎士団の赤い制服を身にまとった青年も。





「誰っ!そこにいるのは!!」




警戒心を露わにして叫ぶ。しかしその声は彼らを見た後も続けられる事はなかった。
とても悪事を働く事が出来そうにない瞳をしていたからだった。
それに彼女の行く手には魔物たちの群れがあった。
彼らと悠長に話している時間は無かった。




「すみません。今、皆さんとゆっくりお話している時間はないみたいなんです。
 私、修道院に行かなくちゃ行けないんです!」




彼らの返事を聞いている暇も無い。
今、修道院では恩人に危機が迫っていたからだ。
人間という生き物は1度煙を吸い込むとたちどころに死の危機に晒される。
は手にした杖を魔物達に突き出した。
そして続けざまに今度は短く口の中でなにやらつぶやいた。
連続攻撃で魔物たちを葬ろうとしたのだ。
しかし、そこにの剣がきらめいた。






と名乗った少女の戦闘を見て思わずため息をついていた。
どこで学んだのかは知らないが、あまり無駄の見られない身のこなし。
さすがに百錬練磨の達に比べるとまだまだ拙い所もあるが、
それでもこの辺りの魔物と1人で対峙するのは一般人では無理な事だった。
魔力も相当あるようだった。ゼシカとも変わらないのではないだろうか。
そして何よりも驚いたのは彼女が自分よりもおそらく年下の可憐な少女だったこと。
思わず見惚れてしまうくらいの。






が、彼らにをうっとりと見惚れているような時間がない事も確かだった。
は戦闘が終わり、今にも修道院の方へ駆け出そうとしているに向かって言った。




「僕達と一緒に来てくれないか。」
と。








 やはり修道院は燃えていた。立っているだけで火の粉がの頬にかかるほどに。
しかし、建物の中は異様なまでに静かだった。
まるで人の気配が全く感じられないようなその雰囲気に、
彼らは不吉な予感がして急いで階段を駆け上る。
幸い、まだ誰も死んではいなかった。






「マルチェロさん!」
「兄貴!!」




と青年――――確か名前をククールといった――――は
同時に同じ人物の名前を呼ぶ。呼び方は明らかに違っていたのだが。





が駆け寄ったその先にはゼシカがイヤミ男と命名した男の姿が。
彼は彼女の姿を見て何事か呟いていたが、すぐに顔を苦痛のためか歪ませた。
そんな彼をまるで庇うかのように立ち上がったはまっすぐと道化師を睨みつけた。




「あの奇妙な姿・・・、や、間違いないわい。
 あの男こそがわしの城をあんな姿にした張本人、ドルマゲスじゃ!!」





どこからか現れたトロデ王がドルマゲスを指差し家臣に叫ぶ。
しかし、そのドルマゲスは王の姿を見ていなかった。
彼の視線の先にはの姿があった。




!危ないっ!!」




の叫び声が部屋にこだまする。
しかしその声もドルマゲスの声に見事にかき消されて。



「お嬢さんのような方の出る幕ではないのですがね・・・。
 しかしここで私に刃向かう以上、手加減はしませんよ?」



そう言うや否や、彼は手にした杖を彼女の方に突き出した。
杖から発せられた光線はへと襲いかかる。
しかし彼女は避けようとしなかった。
そればかりか彼女の体が光りだしたのだ。





「!?」




その光景にドルマゲスは瞬間ひるんだ。
そして王は彼女の光に突き動かされたのか、奇声を上げながら道化師に向かって突進していく。




「王っ!!」




はそんな王の後をすぐさま追いかけた。
その途端にドルマゲスはこちらを振り向いたのだ。
背筋が凍るようなそのニヤリとした笑みに体が強張った。
ドルマゲスは再び杖を突き出した。








全てが遅かった。
またここに、新たなる犠牲者が現れた。









 「・・・という事でよろしくな、ゼシカ。」





数日後、よく晴れ渡った修道院の入り口で、
ククールがゼシカに気障ったらしい挨拶を展開していた。
そんな彼を邪険に扱うのは当然といえば当然の事である。
第一印象が最悪だったのだから。
2人のやり取りに苦笑しながら、はこの、
今日から新しく仲間になるもう1人の少女に言った。




「なんか、結構変わった人たちばっかりだけど、みんなすごくいい人だから。
 だからもすぐに慣れると思うよ。」
「ありがとう。でも私ね、ヤンガスやククールが悪い人だなんて、
 初めてあの小屋で会った時から思ってなかったよ?
 だってみんなの瞳、すごくきれいだったもの。」



そう言うとはにっこりと笑った。
その笑顔には瞬殺されてしまう。
すっかり彼女に一目惚れしてしまったらしい。




「そういえば・・・、ゼシカってお兄さんがいるの?」




先日出会った青年の言葉がどうしても思い出されて、は何気なく聞いてみた。





「・・・うん、サーベルトさんって言うんだけどね、あいつ・・・、
 ドルマゲスに殺されたんだよ。ライラスっていう老魔法使いもね。」



「そう・・・。」




自分に魔法の書物を与え、奴を倒してくれと懇願された老人ライラス。
大切にしているゼシカという名前の妹がいると話してくれたサーベルト。


この2人の共通点は同一人物によって殺されたという事。
そして、




(私は、死んでしまった後の彼らを見たの?
 それとも・・・。)






旅に出る、それはにとって長いものになりそうだった。




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