再び月の世界



 以前は確か願いの丘にあったはずだ。
月の光に照らされて現れたその扉は達を月の世界という、いわゆるこことは違う異世界へと導いた。
そこにいたのは気障なミュージシャン、もとい月の住人イシュマウリだった。
おそらく、いやきっと、今夜トロデーン城図書室に出現した扉の先にも、同一人物が待ち受けているのだろう。









「ヘチマウリ、なんでまたこんな所に来たんでがすかい。」



「イシュマウリさんだよ、ヤンガス。
 でもこの人、タイミングいいよね。困ってる時に出てきてくれる。」








すっかり復活したが丁寧に訂正を入れながら嬉しそうに言う。
彼女の言うとおり、イシュマウリは困った時に出てきてくれるお助け人だ。
だが、は彼にあまり良い印象を持ってはいなかった。
あんな、ククールよりも性質の悪い男に命を同じくらいに大切なを近づけられない。
確かに彼のおかげでの歌声を聴くことが出来たり、弱虫な王を助けたりする事はできたが、
それも半ば強引な手口だったし、やっぱり好きになれないでいた。


























「で、ここは覚悟決めてあいつに会いに行くしかないみたいだな。
 俺としちゃそれは避けたい道なんだけど。」








ため息をつき、仲間達にあの扉の中に入るべく招集をかけようとしたにククールは言った。
どうやらイシュマウリは男の不興を買いやすい星・・・、月の下に生まれた定めのようだ。















、ヤンガス、こっち来て。・・・ゼシカ、そこ埃だらけだから近づかない方がいいよ。
 今からあっちに行くから。・・・本当はものすごく気乗りしないんだけど。」









月の世界を前にしてはついぼそりと本音を言う。
たまたま近くにいたが不思議そうな顔をして彼に尋ねる。








「どうして? イシュマウリさんいい人じゃない?
 きっと今回も船の事、どうにかしてくれるよ。」





それともはあの人嫌い? と聞いてくるの前でまさかうんとは言えない。
はさらに気分を落ち込ませながらも扉を開けた。
目の前に広がる光景は、あの時とまったく変わりなかった。





















































 「これは人の子達と・・・、貴女まで。二度目とは珍しい・・・。」






珍しいとか言っておきながらしっかり笑顔で迎えてくれるイシュマウリに男性陣は作り笑い、ゼシカは無視を決め込む。
彼らの態度を知ってか知らずか、彼はまっすぐにの前に歩み寄り、彼女にだけ尋ねる。









「今日はいったい何の願いを・・・。いや、貴女の口から聞かずとも私にはわかる。
 ・・・・・・船、かな?」







ハープをひと鳴らしし即答する彼には素直に嬉しそうに答える。





「はいっ。私達お城の呪いを解くためにも、どうしても他の大陸に行かなくちゃいけないんです。
 そのためにイシュマウリさんの力を借りたくて。」








できますか、と心配げな顔をする彼女にイシュマウリはなんと片目をつぶってみせた。
いい年した男がウィンクをしても、誰もときめかない。
相変わらずの気障な振る舞いに一同は顔をしかめる。
はすかさずの元へやって来て、さり気に2人の間に割り込む。
そんな彼を見てシュマウリは余裕の苦笑をし、再びハープを鳴らす。
かと思うと、突然ぶちっと音を立てて弦が切れた。
想定外の事態に目を丸くする。外野からは必死に笑いを押し殺す声が聞こえてくる。
はなんとか平静を保って彼に尋ねる。


















「願いが大きすぎて、叶えられないってことですか?」







イシュマウリが無言で頷く。
そして少しの間思案顔になると、思いついたように言った。













「この世界のどこかに『月影のハープ』と呼ばれる幻の楽器がある。
 その魔力を借りさえすれば、貴女の願いも・・・。」


「彼女のでなくて、僕達全員の願いですから。
 ・・・で、そのハープは今どこに? 僕達それ取ってきますから。」













ようやく話が本題に入ったと悟ったゼシカ達も3人の周りに集まってくる。
10の瞳に見つめられ、イシュマウリは少し後ずさりしながらも重々しく言った。





















「どこにあるのかと言うと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、行方不明だ。
 この世界のどこかにあることしかわからないのだ。
 それゆえに『月影のハープ』は幻と言われる・・・。」










なんとも無責任な言い分に不満顔を露わにする4人。













「ちょっと、そんな無責任な事言わないでよ。この世界って言っても半端じゃないほど広いのよ?
 あんたのその力使って場所の特定しなさいよ。」


「いや、でもお嬢さん。私のハープはもうこのように・・・。」



「他にもいろいろ楽器あるじゃねぇか。それは全部飾りもんかよ。」




「これは私のコレクショ」












脅してでも力ずくでも場所の特定をさせようとするゼシカとククールの剣幕に、思わず焦るイシュマウリ。
刃傷沙汰にもなりかねないこの状況にはすがるような目でを見つめる。
その目はもちろんしっかり無意識の上目遣いだ。
の持つ究極の特技とも言えるこの技が見事にヒットしたは、なんとかしようと脳内の活性化を試みる。










(物探し、場所の特定、便利、魔力、すごい力を持つ人、、女の子、恋、・・・占い、

















  
                 ・・・ルイネロさん?)





















「ルイネロさんっ!? トラペッタだ! ! トラペッタ、行ったことないよね!!
 今から行こう、今すぐ行こう!!」



「え!?」























急に目を輝かせ、の両手を握り締めては叫んだ。
何がなんだかさっぱりわからないは、手持ち無沙汰にしているヤンガスにトラペッタって、ルイネロって何、と尋ねる。











「トラペッタはあっしと兄貴が初めて立ち寄った町でがすよ。
 ルイネロっていうのはそこに住んでる占い師のおっさんで、よく当たるらしいでがす。物探しとか。」







ヤンガスの解説を聞き、ぱぁっと顔をほころばせて嬉しげに微笑む











「行こ、! 早くそこに行って、ハープ探そう!!
 ゼシカ、ククールっ、トラペッタ行こっ!!」






















それは鶴の一声だった。イシュマウリ相手に殺気を匂わせていた2人は途端にの方を向き、
美男美女にふさわしい美しい笑顔を見せる。













「そうね。こんないまいち役に立ってくれない奴なんてほっときましょ。」



、いい考えだぜ。つーかお前いつまでそうやっての手握ってんだよ。」










ククールの一言で2人ははっと気付いた。そうだ、はトラペッタのひらめきの時に彼女の手を握り締めていたし、
でトラペッタの奇跡と知った時にすっかり手の存在を忘れてしまっていたのだ。
彼は指摘されて、名残惜しそうに彼女から離れるとイシュマウリに向かって言った。


















「ハープは絶対取ってきます!! 任せてください。」


「頼むぞ、人の子達よ・・・。」
















ようやく解放されたイシュマウリはもうには近づかなかった。
きっともう、これ以上ゼシカとククールの殺気に近づきたくないのであろう。













 達は再びトロデーン城へと戻ってきた。
そしてすぐさまルーラを唱える。行き先はもちろんトラペッタ。
そこで宿を取り、明日のルイネロ家訪問に期待に胸を膨らますのだった。



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