もしかして泥棒



 トロデーン城とは比にならないくらい小さな領土を持ち、おそらくトロデ王よりもかなりの小心者の王は迷いに迷っていた。
彼の座っている玉座の前には、いつぞや自分を悲しみのどん底から救い出した旅の一行の中の1人の少女が、
必死になにやら頼み込んでいるのである。






「お願いします、月影のハープを私達にください!
 私達それが必要なんです!!」


「いや、でも・・・。」







 の頼みに口を濁すパヴァン王。
別にハープを素性も知れない旅の者達に渡すのが惜しいわけではない。
ただ、国を代々受け継がれている宝として、何に使うのかすらよくわからないのに、はいそうですかと簡単に手放す事はできないのである。






さん、皆さん、いったい何にハープを使うのでしょうか。それがわからないと・・・。」


「船を復活させるために必要なんです。」


「お貸しするという訳には・・・。」







 どこまでもぐだぐだと言う王に嫌気が差したのか、はずいっと前に歩み出た。
にこの場を任せていても埒が明かない。
そう思い口を開きかけたところで、がぱっと走り出た。
何事かと思い立ちあがった王に駆け寄ると、自分よりもだいぶ背の高い彼の顔を見つめて一心に言った。
の持つ特技の中でも最強であろう、無意識中でのお願いビームの発動である。








「お願いしますっ、私達それがないと・・・、お城の呪いを解けないんですっ。
 早く探さないといけないんです、ドルマゲスをっ。」





 パヴァンは1歩後退りした。そして心の中で生き続ける王妃に語りかけた。
あぁ、許しておくれシセル、私はこの子に、この子の熱い視線に惑わされたりしていないと思う。
きっとあの子は無意識のうちにあれをやってるんだ。
ほら、その証拠に後ろのさんが怒ってるよ。
あぁ、もういいや、ハープぐらいあげちゃおう。どうせ誰も弾ける人いないんだし。


王は心の王妃に想いを伝えると、なんとか威厳を持って玉座に腰掛けなおし、に向かって言った。





「・・・わかりました。私について来て下さい。
 ハープはあなた方に差し上げましょう。」


「ありがとうございます、王様!!」





達の方を振り返るとにっこりと微笑んだ。
曖昧に笑って返すヤンガス達の胸中は複雑だ。







「またあれやったぞ、『お願いビーム』。ありゃよく効くからな。」


「しかもあんな近くに兄貴がいたのにでがす。
 見たでがすか、あの時の兄貴の顔。」



「ばっちり見ちゃったわよ。
 ククール、あんた今日も被害者ね。荒れるわよ、。」




「なにか言った? 早く行こうよ。」






その声にぎょっとした。
がものすごい笑顔で3人を見ているからである。
こういう時のは極めて危険だ。
もしかしたら今夜、パヴァン王が何者かによって手傷を負わされるかもしれない。
仮にお願いビームを受けた相手がククールだったなら、それは確実に実行されるだろう。






、早く行こっ。ゼシカ達も早く早く。」





階段の下からの声がした。
今行くよ、とが機嫌良く答えて階段を下りていく。
5人が導かれるままにいった宝物庫には、空っぽの宝箱とどでかい穴があった。































 「宝が・・・!! 今すぐに捜索隊を組織して行方を探させます!!
 大臣と相談しなければ! 軍議だ!!」




 王は目の前の状況に慌てふためき、達をその場に残して会議を行うために上へと行った。
残された達は空の宝箱と無理に開けられた穴を見て、現場検証を始める。








 「あっしはこれは泥棒の仕業に違いないと思うがす。」


「私も。でもこの穴、呪文を使って開けた感じしないんだよね。」





が穴の淵を指でなぞりながら言う。
厚い壁はものの見事に破壊され、辺りには石の破片が散らばっている。
地下にこんなに大きな穴が開いていながらも、城に軋みが生じなかったのは、さすがは城と言うべきである。





「んで、あの弱虫王のことだ。いつまで待っても捜索隊は出ないと思うぞ。」



「そうよね。とっとと取り返しに行った方が早くない、?」




言いたいだけ言うと、4人はリーダーであるを見た。
答えはもちろんすでに決まっている。





「行こう。ハープを取り返しに。」





まさかこの時の彼らは、アジトの中でと離れ離れになるとは思いもしなかった。








































 砂煙が巻き起こり、ようやく周囲を見回せるようになって達は愕然とした。
の姿だけないのである。
残されたのは無数の小さな足跡と、の愛用している武器の杖のみ。
足跡が拉致の犯人である事に間違いはなさそうである。









「本当に今日は踏んだり蹴ったりだよ・・・。僕、この国と相性悪すぎ。」



「落ち込むな。この足跡のおかげでの居所がすぐにわかるだろ?
 追うぜ俺は。姫を助けるのは騎士の役だっておとぎ話の定番だもんな!」


「ククールなんかに助けてもらってもは喜ばないよ。
 やっぱり僕が助けないと。」





げんなりとはしているものの、それだけククールに毒舌が吐けるあたりまだ正気のようだ。
の杖を手に取ると、仲間の存在を忘れてアジトの奥へと走り出した。
その後をあわててヤンガス達が追う。
彼らの行く先に魔物が1匹も出なかったのは、4人全員がスーパーハイテンション状態にあったからかもしれない。

















 「いちいちに手を出さないでよ、ククール!!」


「おいっ、敵はあっちだぞ!?
 槍を振り回すな、危ないだろうが!!」





 ドン・モグーラ戦なのか、VSククールのドリームマッチなのだろうか。
ヤンガスとゼシカ、そしてモグラ団に捕らえられたは何も言えずにたたずんでいた。
が狂いたくなる気持ちもわかる。
いつでもどこでも姫との歌声を聞いているのだから、音痴の歌う歌などに縁があろうはずがない。
ドン・モグーラの音痴攻撃を受けて一番混乱に陥っているのはなのだ。
そしてその被害を受けるのはやはりククールだった。
ゼシカの予言は見事に的中したわけである。









、しっかりして!! モグラはあっちよ!!」





あまりの地獄絵に耐えかねるがたびたび大声を上げる。
その度に混乱から回復しては、我を忘れたようにがむしゃらにモグラに攻撃を仕掛ける
しかしその訳のわからない攻撃ローテーションにドン・モグーラが黙っているわけがない。
必然的に彼の怒りはに向けられるわけで。









「小娘風情がわめくな!!」

「え・・・、きゃ・・・!」





 武器も何も持たない、手足も自由に動かせないは自分に振り下ろされてくるモグラの太い腕を、目を離すこともなく見ていた。
周りに居たモグラ達は彼女を置いて早々にどこかに隠れている。
モグラに殺されるかもしれないという恐怖が全身を走る。
声も出ない。








に触るなぁーーーーーーっ!!」







 が叫びながらドン・モグーラに突進した。
彼の鋭い槍先は狙い過たずモグラの巨体を刺す。
モグラが地響きを上げながら倒れ伏した。
あちこちから子分モグラ達が出てきて、親分を取り囲む。
親分が最後まで手放さなかったハープを残すと、彼らは親分をどこかへ連れて行った。









・・・?」


「ごめんなさ・・・っ!!」






が近くによるとはへたり込んで泣き始めた。
弱くてごめんなさいと泣きじゃくる彼女をあやすように抱き締めてぽんぽんと背中を叩く。
いつもならすぐに回されてくるはずのの腕がないことに気付く。






「あのね、外してくれると嬉しいんだけどなぁ・・・。」





の困ったような声を聞いては頭に血が上った。
すっくと立ち上がると武器の点検をし、モグラ達が消えていった方へと歩き出す。
彼の考えはにはすぐにわかった。





「ゼシカリレミト! ヤンガス、を抑えてあげて!!」




波乱のハープ争奪戦はこれにて終了した。



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