白光の導き



 たちは海に岩が乱立している地にいた。
ここはかなり昔、マイエラ修道院でマルチェロから貰った地図にも。でかでかと×がついていたポイントである。
何もない場所に×なんてあるはずがないと常々考えていた彼らだったが、その直感は的を得ていた。
光の海図を手に入れ、2枚の地図を重ね合わせると、不思議なことに×印から白い線が未踏の大地に向かって伸びていったのである。
地図に異変が起きたということは、×印になんらかの変化があったのだろう。
そう推測したたちは、すぐさま目的地へと船を急がせた。
そして今、彼らは目の前で起こっている超常現象を目の当たりにしているのだった。
海が真っ白な一筋の光を作り出し、それは前方に見える大陸へと伸びていく。
まるで、道を照らしているかのようなその光に、たちは魅せられた。







「行こう
 あの隔絶された大地に、レティスの手がかりはあるよ。
 ・・・ううん、あるからこそ、あそこの大陸は外界から閉ざされていたんだよ。」



「そうかもしれないね。
 とにかく、進もう。
 今の僕たちに示された道は、これしかないんだから。」








 船がゆっくりと進みだした。
徐々に大陸の切り立った崖に近づくに連れ、たちの顔が青ざめていった。
まずい、このままでは崖にぶつかる。
光の導く先には、硬く立ちはだかる断崖しかなかったのだ。
たちの混乱を余所に、どんどんと壁に引き寄せられる船。
どんなにの暴走呪文を喰らっても壊れなかったタフでも、真っ向からまともにぶつかれば、船はただの板切れと化してしまう。
たち乗員は、数十秒後に訪れるであろうメリメリと船が砕ける音を簡単に予想で来た。







「・・・もし、もしもこのままぶつかるようなことになったら、その時は直前に各自ルーラするように。」



「あ、兄貴!!
 あっしはどうなんるんでがすか!?」



「心配するなヤンガス。
 このキメラの翼を使うがいい。
 ベルガラックで落ち合おう。」






 絶望的な言葉を優しくかけるククール。
死ぬかもしれない間際にだけ優しくするなんて、遅すぎるというものだ。
そうこうわいわいと騒いでいると、不意に目の前が薄暗くなった。
あまりに大陸に近づきすぎて、ついに影がかかったのだ。
だめだ、もう逃げられない。
ルーラもキメラの翼も忘れ果て、たちは身体を強張らせた。
もうだめ、と小さくゼシカの声がする。
迫り来る断崖絶壁からゼシカを守るような立ち位置にいるのはククールだ。
こういうところはさすがは自称騎士というべきか、抜け目がない。
は少し離れたところで呆然と崖を見つめているを、がばっと抱きしめた。
崖に背中を晒して立っていれば、もしかしたらは軽傷で済むかもしれない。
そんなくだらない憶測が、の心中にあったかなかったのかはどうでもいい。
胸の中で、が呟いた。









・・・、この先には何があるんだろうね。
 人は住んでるのかな、町はあるのかな。
 ・・・レティスはいるのかな。」


・・・。
 どうだろうね、実は僕も初めて行く土地だったから、ドキドキしてたんだ。
 まさかこんな恐ろしい目に遭うとは思わなかったけど。」



「そうだよね。
 ・・・あのね――――――――。」








 に告げようとしていた。
あなたが大好きです、と伝えようとしたのである。
しかしその告白は、船を包み込んだ不思議な感覚によって遮られた。
海上を走っているのか、陸上を進んでいるのか、それとも浮いているのか。
目が見えなくなったのか、あるいは辺りが真っ暗闇なのか。
の肩越しに前方を見つめた。
仄かな光が暗闇の中、ぼんやりと光っている。
光が急に大きくなる。
目を開けていられなくなった。





まばゆいばかりの光が身体に降り注いだ。
チチチ、と鳥のさえずりも聞こえる。
はうっすらと目を開けた。
船はゆっくりと海上を走り、波打ち際でひとりでに止まった。
楽園、そう呼んでも差し支えないほどに、自然豊かな光景が視界に飛び込んできた。
見たこともない色鮮やかな小鳥たちや、天高くその葉を茂らせる木々。
見るものすべてが新鮮で珍しくて、は思わず歓声を上げた。
そして未だに目を閉じたままのを揺さぶる。







「ねぇ!!
 見て、すごく綺麗っ!」


「え・・・?
 あ・・・・・・・、ほんとだ・・・・。」







 次々と船を降りる。
草原へ出ようとなだらかな坂を上る。
視界を妨げるものがひとつもない、むき出しの岩と緑の大地に、思わずため息が漏れた。
その時、なにやら巨大な鳥の形をした影がたちの足元に広がった。
反射的に顔を上げる。
しかし、鳥はおろか、蝶すら舞っていない。






「今の影はなんなの・・・?」






 ゼシカが不思議そうに言うが、誰も彼女の問いに応えられるはずもない。





「さてっと、日が暮れちまう前に休める場所を探しとかねぇと。
 てかあるのか?」


「うん、この先行ったところに、村っぽいのがあるみたいだよ。」


「そうか、じゃあキラーパンサー呼んでさっさと行くか。」





 そう言うとククールはバウムレンの鈴を取り出し、鈴を軽く振った。



しーん。



猫一匹現れない。
どうやらラパン氏はこの隔絶された大地にはキラーパンサー網を張っていなかったらしい。






「・・・歩くしかないのね。
 この日陰ひとつ見つからない草原の中、日傘も差さず。」


「たまにヒャドしながら進もうよ、ゼシカ。」






 たちの向かう村落は、まだ遠い。



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