バカンス未遂事件



 それは、ほとんど災難だった。
世界が平和になってほんの少し経った頃、は夏休みにと2人っきりで旅行に行く計画を立てていた。
2人で旅行だから静かな所にしようという話になり、場所も三角谷付近に決めた。
手作りの弁当だってちゃんと用意をした。
後は出発するだけ・・・、そんな時に思わぬところから、思わぬ横槍が入ったのだ。





、有給なんかとってどこかへお出かけですか?」


「はい。両親の墓参りと、と旅行にでも・・・。」





 旅行、と聞いてミーティア姫の顔がぱあっと明るくなった。
ちょうど良かった、とか言っているのは聞き違いか、もしくは空耳だと激しく思いたい。





「もしかして、涼しい所に行こうかな、なんて思ったりしていません?」


「・・・思ったりしていますが。」


「まぁ! ミーティアもお父様と一緒に涼しい所に行くんですの。
 たちも一緒に行きませんか!?」




 ミーティアはそう言うと、さも嬉しそうにくるくると回り、手をぱちんと叩いた。
気分はもう、4人でバカンスなのだろう。
は家からお弁当箱を抱えてやってきたに目配せした。
彼の困惑ぶりを目にしたもまた、彼と同様に困ったように小首を傾げた。




「あのですね姫様。
 僕たちには僕たちの予定があって・・・。」


「でも涼しい所に行くのでしょう?
 大丈夫、誰も2人の仲を邪魔しようだなんて思いません。
 勝手にいちゃついていればいいのですよ、いつもみたいに。」


「だったら僕らを放っておいて下さい。」





 はきっぱりはっきり断言すると、の体を引き寄せた。
そして、すぐさまルーラを唱え始める。
ここは逃げるが勝ちだ。



っ!?」


「お父様、ミーティアは夏はたちと過ごしますわ!!」





 ルーラ発動直前、ミーティアがの服にしがみついた。
ぎょっとしたのはである。
このままでは三角谷にミーティアまでついて来てしまう。
僕の計画が根元から崩れちゃったじゃないか。
どうしてくれるんだよ、姫様。
しかし、もう全てが遅かった。
はようやく城から出てきたトロデ王に向かって、声を限りに叫んだ。




「急いで三角谷に姫様の身柄を取りに来て下さい、王っ!!」




ルーラの光は、たち3人を容赦なく三角谷へと導いたのだった。

































 浅瀬に阻まれた入り江に、たち一行はいた。
お手製の弁当を広げ、まるでピクニックだ。
ただ、の機嫌があまりよろしくなかった。
それもそのはずである。
愛する妻と2人で行こうとした旅行なのに、姫様までおまけのごとくついて来たのである。
女性2人は楽しそうだからいいが、これでは自分が馬鹿じゃないか、とは心中で毒づいた。
夜中にミーティアだけルーラでトロデーンへ送還させようかと考える始末である。





は泳がないのですか?」


「はい。そもそも泳ごうだなんて思っていませんでしたし、涼めればいいかなあってぐらいの気持ちでしたから。」






 はミーティアと会話をしつつ、ちらりとを見やった。
彼女に背中を向けて座ってはいるが、その顔の表情は容易に察することができた。
ものすごく不貞腐れているに違いない。
は陽の光に晒され、うとうとと船を漕ぎ出したミーティアの頭を確認すると、の隣にちょこんと座った。






「ごめんね。」


「何が?」


「お姫様にばっかり構っちゃって。」





 は無言のまま、の肩に寄りかかった。
重みで横に傾く彼女の体を、片腕でしっかりと支えつつ。





「2人で来たかった。」

「うん、私もだよ?」


「今夜、姫様をトロデーンに帰してくるよ。」


「ラリホーマ唱えとく?」


「さっきこっそり唱えて姫様を寝かせたでしょ。
 ほんとに器用だね、は。」





 うふふ、あははと満面の笑みで顔を見合わせる。
の手にかかれば、呪文に対する効力などさして持たない姫ぐらい、簡単に眠らせることができる。
呪文もたまに使わないと威力は落ちると考えている彼女は、修行と称して竜神王への道で戦うこともよくある。
というか、そこは既にたちのデートスポットと化していた。





「三角谷は早めに切り上げて、竜神族の里に行こっか。」


「うん。」





 その夜、はラリホーマによって眠りについたミーティアを、トロデーンへと護送したのだった。






























 誰かが激しく体を揺さぶっている。
、と繰り返し名前を呼んでいる。
キスでもすりゃ目覚めるんじゃねぇの、という物騒な発言に、すかさずメラミと唱える声がした。
辺りの騒がしさに、はゆっくりと目を開けた。
真っ先に目に飛び込んできたのは、頭上を過ぎる巨大な火の玉だった。





「きゃあっ!?」


「あ、起きた?」





 むくりと上体を起こし、周囲をめぐらす。
ヤンガス、ゼシカ、ククール。
なぜ3人がいるのか、の頭は軽く混乱に陥った。
これは夢なのか、そうなのかもしれない。





は?」


「さぁ、見てないけど。」


「・・・まだトロデーンにいるのかな。」





 ミーティアの姿もない。
はなぜだかここにいるヤンガスたちに、事の次第を説明した。
と2人で旅行に行こうとしたこと。
旅行にミーティアが乱入してきたこと。
ラリホーマで眠らせて、がトロデーンに強制送還させたこと。
そして今、彼がまだ帰ってきていないことなど、荷造りをしながら話した。






「あっしらはトロデのおっさんに姫様を連れ帰るよう言われて来たんでげす。」


「でも着いたらしかいなくって。
 もまだなのよねー。」





 はこくりと頷くと、3人の先頭に立って外に出た。
1人でここにいる必要はない。
の待つトロデーンに帰ろう。
旅行はまた別に機会に連れて行ってもらえばいいのだ。





「私、トロデーンに帰るね。
 みんなもせっかくだから遊びに来て? おもてなしするよ。」



「え、いいの? お邪魔じゃない?」


「平気だよ。旅行はまたできるし。」






 がヤンガスたちと共にトロデーンへ帰ってきた頃、はミーティアと熱いバトルを繰り広げていた。



























 「、いまさらもうの所へは帰しません。」


「朝になったじゃないですか。
 彼女が不安がります。」





 ミーティアをトロデーン城へと無事帰した直後、彼女は目覚めた。
ひどいと叫び、それきり彼はミーティアの部屋から出させてもらえなかった。
彼女を振り切って外に出ようと思っても、外には同僚たちが行く手を阻んでいる。
有給取って可愛らしい奥方と旅行に行くなどと、奥方はおろか、恋人すらいないような連中に言ってしまったのだ。
そのせいで、普段から彼の惚気っぷりに当てられている兵士たちは、『してやったり』とか『ざまあみろ』と一致団結していた。






「ミーティアのことを除け者にして、はひどいです。」


「除け者なんてそんな。
 大体姫様は、僕が何のために有給取ったと思ってるんですか。」






 埒の明かない口論を繰り返す2人の耳に、聞き慣れた声が聞こえた。
あれはではないのか。
それに、あの集団がなぜここにいる?
は思わず立ち上がった。
部屋の扉が開き、やヤンガスたちが入ってきた。






、なんでここに・・・。」


「三角谷でゼシカたちと会って、もう帰って来ちゃった。
 がずっと戻らないんだもん。」


「ごめん・・・、姫様が。」


「いいの。その代わり、明日みんなで海に行こう?
 お姫様もゼシカたちもみんな。」


「え・・・、僕との2人でバカンスは?」





 また来年にしようね、そうにこやかに言うの前に、がくりと崩れ落ちただった。



あとがき

ギャグなのか甘いのか、どっちにも転べませんでした。
姫様が何をしたいのかが、私にもわかりません。




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