終わりの始まり   4





 仲間と歩いたはずの道を1人で進む。
群がる魔物を難なくねじ伏せ、竜神王の待つ部屋へ通じる巨大な扉を押し開ける。
階段の先にぽつんと竜神王がぽつんと立っている。
が近寄ると、彼は閉じていた目を開きじっと見据えてきた。






「1人で来たのか」


「そう言われたので。なかなかの力試しになります」





 僕の母は竜神族だったんですね。
そう呟くと、竜神王はこくりと頷いた。




「お前の父もまた、力尽きはしたが強い男だった」


「知ってるんですか・・・?」


「ここから見ていただけに過ぎぬ。ウィニアに会うために単身異世界へと乗り込んだ。
 ・・・意志の強い男だったのだろう」


「僕は誇りに思います。そうまで母を愛した父も、命と引き換えに僕を産んでくれた母も」


「そうか・・・。・・・白翼族の娘は、そなたにとってなんだ?」





 竜神王の問いには俯いた。
今までこんなに単刀直入に尋ねられたことがなく、戸惑ったのだ。
大切な人である。何にも代えがたい、愛情を捧げている人である。
黙ったままのに竜神王は言葉を続けた。
ほとんど独り言かと思われるくらいに、低く微かな声だった。





「あの娘の身体は、中身である魂がないまま遥か昔の世に捨て置かれている。
 今の世に持ち出すことはできるが、媒体となるものがなければそれすら叶わぬ」


「・・・また媒体ですか」


「人の魂を現世に呼び戻す杖がある。それに力を注げば、本来の身体で再び地上に舞い降りよう」





 竜神王の言葉にははっと顔を上げた。
魂を呼び戻す杖に心当たりがあった。
崩壊した聖地ゴルドでと再会した時から彼女が持っていた新しい杖。
マルチェロからもらったとか言っていたが、確かあれは復活の杖ではなかったろうか。
当時世界の権力の頂点に立っていた男からの贈り物だ。
そのくらいの珍品名品をに渡していたとしてもおかしくない。





「・・・その杖は今ここに。彼女が使っていたんです、消える直前まで」





 背中に背負っている布に包まれた長い棒を取り出す。
これがと再び会うための道具だったのか。
いったいどこまで彼女との仲に介入してくるのだ、あの憎き男マルチェロは。
はマルチェロに対して若干の嫉妬を抱きつつも、愛用の杖をそっと撫でた。







「・・・白翼族の娘と結ばれる覚悟はあるのか」


「覚悟・・・? 僕はずっと昔から彼女を愛してきました。今までも、そしてこれからも。
 だいたい、覚悟がないとこんなとこ来ません」


「竜神族と白翼族は対極に在る者。いくら互いに人間に血が流れて愛し合っていようと、反発することもありえる。
 それに、気の遠くなるような年月を娘と共に歩むことが出来るのか?」






 今はまだいい。
何十年か経って気づくはずだ。
自身が友人である人間たちと違うことに。
齢を重ねると共に老いゆく彼らを知り、人間とそうでない種族との違いを目の当たりにするのだ。
そうなった時、果たして違う時空を生きる者が人間界に住まうことができるのか。
最悪魔物扱いをされ、迫害を受けるのではないか。
同じく寿命の長い愛する女性を、周囲の好奇の目から守ることができるのか。





「・・・できぬのであれば、このまま眠らせるのも優しさだ」


「優しさ・・・・・・」


「そうだ、愛することは優しさに直結しない。もっとも、優しさよりも大切なものもあるのかもしれぬが」






 は竜神王の言葉に再び押し黙った。
反論できなかったのではない。
これから待ち受ける運命を、今まで考えたことがなかったのだ。
竜神族の時間の感覚でいうほんの少し後に訪れるであろう現実を。
仲間が老い死にゆく時になっても堪えられるか、は自信がなかった。
しかし、断言できることもあった。
そしてそれは、あるいは優しさをも越えるかもしれなかった。




「僕独りでは堪えられないと思います。でも、彼女と2人ならどんな壁だって超えて壊して進んで行ける。
 ・・・優しさだけじゃ生きてけないんですこの世界」


「困難に遭わせないようにするのではなく、むしろ共に乗り越えてゆくということか。
 やはり人の子というのは面白いものだな。儚き生き物なのに、強くたくましく生きようとする」


「儚いってわかってるからこそ、後悔しないように生きてるんじゃないかと思います。
 人間ってケチでシビアなんです」






 竜神王はの手から復活の杖を取ると、なにやら呪文を呟いた。
ぼうっと青い光が杖を包みすぐに消える。
杖を再びに渡すと、口元に淡く笑みを浮かべて口を開いた。




「娘をもっとも近く感じられる場所へ行き、この杖を掲げよ。さすればそなたの望みが叶うはずだ」


「心当たりはあります。小さなお墓が1つ」


「なればそこだろう。そなたの前に現れるのは幻でも死人でもなく生きた彼女だ。
 外見に多少の変化はあるかもしれぬが、それが彼女本来の姿だと思うがいい」






 再会した暁には必ずここへ連れて来い。
竜神王はそう言い残すと、を里へと送り返した。
を助ける鍵を手に入れたたちが、真っ先に三角谷にある墓へと向かったのは言うまでもない。



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