迷える少女 1







 「そういえばってさ、どうしてマイエラ修道院にいたわけ? しっかもあんなぼろい所に住んでさ・・・」






 私があの人との事を話すのは、そんなの言った言葉がきっかけだった。
実際、どうしてと訊かれてもそんなこと私にだってわかんない。
気が付いたらそこにいたんだから。
ゼシカはあの人のこと無茶苦茶嫌ってるし、ククールは仲の良くない兄弟でいろいろあるって言うのは聞いてたから、私もたちに出会う前のことは話さなかったんだけど。
それでも、いつかは言わなきゃいけないってことはわかってた。
私があの人と知り合いだっていうのは、もうみんな知ってることだったし。
それにもし誤解されているような事があれば、それこそ一大事だから。
こうして私は話しだした。
私があの人に出会った経緯を。















 「離して下さいっ!! 私は何も知らないんですっ!!」





 いつもは厳かな威厳に包まれているマイエラ修道院に。場違いな少女の悲鳴が響いた。
どうやらそれは巡礼者も訪れることのないような、建物の影から聞こえるようだ。







「知らないと言われても、どうして君のような女性がこんな場所にいるんだ。どこから入ってきたんだ?
 私たちに全てを包み隠さず言いなさい。神はお許しになられるだろう」






 嘘だと少女は直感した。
今、彼女の目の前にいるのは真っ青な制服に身を包んだ若い屈強な男たち数人だった。
彼らはたった1人の少女を建物の隅に追い詰め、なにかと因縁をつけている。
が、少女は自分がなぜここにいるのかもよくわかっていないようだった。
それを男たち、おそらく聖堂騎士団の者がニヤニヤとした目つきで、今にもこの少女に何か仕出かそうとしていた。
少女は彼らのそんな挙動を本能で危険だと察したのだろう。






「ごめんなさいっ! 私本当にどうしてここにいるのかもわからないんで! さ、さようなら!!」





 少女はそう叫ぶと、その場から逃げ去ろうとした。
しかし、彼女の必死の抵抗も男たちの前では何の役にも立たなかった。
叫び声を上げようとする彼女の口を塞ぎ、手が彼女の服に伸びる。
少女が恐怖で思わず目を閉じた時、どこからか別の男の声が聞こえた。









「お前たち何をしている。自分の仕事はどうした。持ち場を離れるな」


「だ、団長!!」


「マ、マルチェロ様・・・っ!!」







 凍てつくような冷たい声。
男たちは彼の声を聞いて、蜘蛛の子を散らすように少女を置いてどこかへ行ってしまった。
そして、ただ1人残された彼女は否応なしにその冷たい声の持ち主と目を合わさなければならなかった。
男が彼女に近づいてきたからだ。





「あ、あのっ!」


「先程は私の部下が失礼した。しかし貴女にも非はある。ここは貴女のような者が来るような所ではないはず。
 私はなぜ貴女がこのような場所にいるのか理由がわかりかねる」






 一切の不平不満を許さないような声の響き。
少女は彼のその声に怯えながらも、なんとか言葉を絞り出した。





「あのっ、助けていただいてどうもありがとうございました。おかげで助かりました。
 でも私、本当にどうしてここにいるかわからないんです。こんなこと言ってもきっと信じて下さらないでしょうけど、私、気が付いたらここにいたんです。
 その前にどこにいたのかもわからなくて・・・。
 ・・すみません。こんな非現実的な話、信じてもらえるわけないですよね。本当にどうもありがとうございました。じゃあ私・・・」







 そう言い残して少女は修道院から立ち去ろうとした時、男の口から意外な言葉が漏れた。
しかも顔にはほんの少しの微笑を浮かべて。







「私は信じよう」


「え・・・? え、だって・・・」






 少女が信じられないような顔をしてなおも言い募ろうとするのを、彼は手で制して言葉を続けた。




「どこから来たのかわからないのだろう? それならお前は今からどこに行こうとするのだ。
 外に行っても魔物の餌食になるだけだ。それにお前はこの話は本当だと言った。ならば、なぜ私はお前の話を嘘だと言わなければならない?」





 心なしか、彼の言葉からは先程までの冷たい感じがなくなっていた。
優しい、労わるような声とさえ感じられた。
少女はもう1度男をじっと見つめた。






「ありがとうございます。」





 ぺこりと頭を下げてにこりと微笑んだ少女の笑顔に男はどきりとした。
改めて少女をよく見る。黒髪に黒目。歳は16か7そこらだろうか。
もっとも彼には女性の年齢を見極めようとする能力など必要ない。
そして彼が何よりも驚いたのは少女の声の美しさだった。
この修道院にも何人もの女性の巡礼者も訪れ、もちろん声を聞く。
しかし、彼が今まで聞いたどんなに素晴らしいと言われる聖歌隊のそれよりも、彼女の声は澄んでいた。







(天使の声、とはこういう声を言うのか・・・)




 男は言った。




「私は聖堂騎士団長のマルチェロだ。お前の名前は何と言う? 名前はわかるだろう。」


「マルチェロさん・・・。 はい、私の名前はです」











 こうして彼らは出会った。







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