肝試し in修道院





 最近、ここ、マイエラ修道院付近では妙な噂があるらしい。
しかも若い女性達の間だけで伝わっていると言うなんとも奇怪な噂だ。
季節は夏の暑い真っ盛り。刺激が欲しいからこそ生まれた話なのかもしれない。
当然、そんな噂は達の耳へも入ってきた。







「最近、この辺りで金髪の若い男の人が、夜な夜な若い女の人を引っ掛けてるらしいよ。
 ゼシカ、気をつけてね。」
もね。」




彼女達はそう言ってはいるものの、本人達は実際、噂はあまり信じない性質だ。
ただ単に口に出しただけだろう。が、ここにこういう類の噂が大好きな男がいた。
ククールである。彼は女性陣の話を聞き、思いついた様に大げさに言った。





「その女性の心を弄ぶけしからん男をとっちめに行こうじゃないか。
 肝試しも兼ねて。」
「いいねそれ。」





いったい誰がそんな破天荒な提案に賛成するのだろうかと思った彼女達であったが、
ククールの元に意外な助っ人が現れた。である。
普段は人当たりのいい爽やかな笑みで人々と接している彼だが、
その実体は手が付けられないほど恐ろしい、一途にを愛する男である。





「いいんじゃない、その考え。たまにはみんなも息抜きしたいだろうし。
 それに肝試しと悪党を捕まえるので一石二鳥だと思うよ。」




かくして、肝試しと悪党退治は開催される事になった。










 日もとっぷりと暮れた数時間後、彼らは旧修道院へと続く道の前に立っていた。
とククール、そしてヤンガスの手にはそれぞれロウソクが握られている。
肝試しのルールはいたって簡単だ。
最奥部にある修道院の跡地にそのロウソクを置いてくればいいだけなのだ。
ちなみにペアで行動する事になっている。






「それじゃあ、私達からね・・・。ほら、ククール、さっさと行くわよ。」




1番手はククールとゼシカだった。
道中に特に何も無かったのだろうか、あっという間に帰ってきた。





「悪党、出た?」
「いいや全然。まぁ、暗くてそれなりに肝試しっぽかったけど。」






2番手はヤンガスとトロデ王だった。
この2人の組み合わせに悪党が出る事はまず無い。
理由はひとつ、どう見たって女性かいるようには見えないからだ。
が、彼らはずいぶんと経ってから戻ってきた。喧嘩をしながら。





「何でただ行っただけで喧嘩してんの。何も無かったんでしょ?」
「あったでがすよ。おっさんがいつまでもぐずぐずと錬金レシピを見つけたと言って、
 駄々をこねていたんでがす。」
「何を言うか。おぬしが宝の匂いがするなどと言いおってからに、
 こんなになったのだろうが。」



埒のあかない喧嘩を繰り広げ、周囲の者が呆れ返っている時、
はふと、この場に相応しくない笑い声が聞こえた。




『はん。あいつら本気で馬鹿だろ。
 およそ人間らしくない格好してたからいったいどんな奴だと思ってからかったのにさ、
 どっちともお互い相手のせいだと思ってんの。』



声はヤンガスと王の背後から聞こえた。
がはっとして見る。
するとそこには多少ぼやけてはいるが、夜目にも目立つ金の髪をした青年が笑い転げていた。





「・・・誰?」
、そこに誰かいるの?」



どうやら仲間たちにその青年の姿は見えていないらしい。




「あなた・・・、もしかして幽霊?」




はある確信を持ってその声に問いかけた。
青年は彼女の声に反応し、笑う事をやめ、それからまじまじと彼女を見つめた。




『へぇ・・・、今の状態でオレの姿が見えるんだ・・・?』
「うん。ヤンガスと王様にこんないたずらをしたのもあなたの仕業?」
『他に誰がこんな事すんの?』






そう言うと彼は旧修道院の方へ走り出した。
幽霊の癖して、足はちゃんと付いていた。
生きている者の気配はまるで感じられなかったが。



「あっ、待って!!」




もつられるようにして走り出した。
青年の姿が見えていない達にとっては、
これらの彼女の行動は不思議極まりないものだった。



!どこに行くんだい!?」




あわてても彼女の後を追うようにして走って行った。
あっという間に二人の姿は消えていった。














 が行き着いた先は廃墟となった旧修道院の前だった。
埋もれかけた瓦礫に幽霊青年の座っている姿があった。






『改めてこんばんは。オレの姿がこのまんまで見えたの、あんたが始めて。』





そう言うと彼はの前に握手を求めるように手を差し出した。
は一瞬握手をしようとしても、手がすり抜けてしまうのではないかと思った。
そしてそんな考えが顔に出たのだろうか。
青年は笑いかけながら言った。



『あんたさ、今、手がすり抜けるんじゃないかって思っただろ。
 そんな事はないぜ。』



自分の考えていた事が青年に当てられて彼女は瞬間驚いたが、
すぐに思い直して握手を交わした。
が、彼は手を握り締めたまま離してくれない。



「どうしてさっき意地悪したの?」
『なんとなく。でも希望としては、あんなムサいおっさんじゃなくて、
 もっと若い女の子にいたずらしたかったな。あんたみたいな。』



青年はそう言うと、に顔をぐっと近づけた。
は思わず後ずさりする。
しかし青年はしっかりと彼女の手を掴んでいるのでそれも容易ではない。



『あんたの近くにいるとさ、なんかこう生きてる感じがしてくるんだよね。
 霊力強いから?いつもだったら自力でしないとオレの姿、他人には見えないのに。
 それにあんた、よく見なくてもかわいいし。』
「い・・・、離して下さい。」
『やだ。』




気が付くと青年の姿はどんどん鮮明になってきていた。
始めは幽霊らしくぼやけた感じだったのに、これでは生身の人間となんら変わりない。
青年は端正な顔に品のいい笑みを浮かべて彼女のあごに手をかけようとした。









そんな時だった。







!!
 ・・・!お前に何をっ!?」





彼女の後を追いかけるようにしてやって来たが姿を現した。



『何ってあいさつの印に。邪魔するなよ?』
「邪魔するに決まってんだろ!!」



そう叫ぶと彼は得物であるブーメランを思い切り青年めがけて飛ばした。
ブーメランは見事な弧を描きながら、確実に青年の元へと近づいていく。



『げ。』




青年がの手を離した途端に、
彼女はの元へ駆け寄った。
ブーメランは結局青年に命中することなく再びの手に戻ってくる。



、あれ誰。」「幽霊・・・。ってえっ!? 見えてるの!?」



『だから言ったじゃん。あんたの近くにいると生きてる感じがしてくるって。
 でも惜しかったな。後ちょっとだったのに。』
「失せろ幽霊。」




の全身からは殺気が滲み出ていた。
放っておけばこの青年を殺しかねない。
もっとも彼はすでに死んだ身なのだが。
彼の方もさすがにのその凄まじいまでの殺気を読み取ったのであろうか。
再び元のぼやけた姿に戻って言った。




『ま、もう思い残す事はないし、そろそろこの世界からさよならしよっかな。
 あんたにも会えたし。もう満足満足。
 あんた、だっけ?
 今まで引っ掛けた女の子の中で1番かわいかったよ。』
「そんなことないよっ!?」





すでに青年の姿はには見えていないのだろうか。
不機嫌そうな顔でさっき幽霊のいた場所をいまだに睨みつけている。
が、そこにはすでに彼の姿は無かった。













 「あっ!!
 悪党いた?」





帰ってきた2人をゼシカは質問と共に出迎えた。




「・・・いた。ククール以上の女たらしが。」
「へ?俺以上?そいつはすごい。」
「自分が女たらしだって自覚してんじゃないわよ。」



感心するククールにすかさずゼシカが突っ込みを入れる。
彼女を見て、は微笑みながらヤンガスと王に向かって言った。





「2人が喧嘩したのには、どうやら悪党が一枚かんでいたみたい。
 だからあまりお互いを責めないでください。」


一応報告はしたものの、すでに2人は自身が喧嘩していた事を忘れていた。
そんな彼らを見て、今度は苦笑した。















 その後、この地に金髪の若い男に関する噂は消えてしまった。
周辺に住む若い娘達は安心したとかちょっぴり残念がったとか。








あとがき

結局とヒロイン以外は悪党が幽霊だったってこと、知りません。
王の話し方が微妙に中途半端です。





DQⅧドリームに戻る