黄金ならぬ、メタル伝説


貧乏勇者の0ゴールド生活







 マヒャドも得意、バギマも得意、回復呪文もルーラも得意。
だが、何よりも得意なのは車に火をつけることだ。
定期的に魔物を倒してそれなりに稼いでいる。
しかし、収入と同じだけ支出が多いのだから旅の財政はいつでもどこでも火の車である。
思えば、旅でお金が余っていたのはフィルを連れて移民の町へと向かっていたあの頃だけだった。





「もう少し金になる物盗むと思ってたけど薬草ばっかりだったし、賢者になったら魔力ばっか浪費するし、大体使えない奴だな」


「・・・こうさ、もうちょっとだけ優しい表現してくれるかな。さすがの俺でも泣いちゃうぞ」


「泣いて金になるんならいくらでも泣け」





 懐が寂しくなると、人はこうも冷たくなるのか。
おぞましい勇者の姿にバースは本気で泣きたくなってきた。
結局世の中金か、金がなければ冷遇されるのか。
そこまで考え、そういえばいつもこんな扱いだったと気付き安心した。
本来なら安心できる要素はどこにもないが、バースは深く掘り下げないことにした。
掘り下げて傷つくのはこちらだ、知らなくていいことはたくさんある。





「リグ、ちょっと来て」




 先程からエルファと2人で食料袋を覗き込んでいたライムが声を上げた。
リグが近付いてくると、ライムは袋を逆さまにして振った。
何も出てこない、パンひと欠片すら出てこない。





「・・・何もないわけ?」


「全然。薬草と毒消し草はあるから、それでサラダにする?」


「やだよ、薬膳料理とか瀕死でもごめん」






 リグはあまり薬草を食べたことはなかった。
旅に出てからはずっとエルファが回復呪文を施してくれていたし、薬草の苦味に頼る必要はほとんどなかった。
そうでなくても甘党なのだ。夕食が薬草サラダなど、到底耐えられない。




「こんな時間だから家に帰っても母さん怒るだけだしな」


「うちも同じく。・・・ロマリアくらいなら宿代足りるけど・・・」

「あそこは駄目だ、俺は二度と行きたくない」





 ロマリアはリグにとって鬼門だった。
強引に王座に据えられ、帝王学を何一つ教えられぬまま一国の政治を任された。
一度でもあそこに行けば、また王にさせられかねない。
失踪という形で行方をくらました以上、いくら宿代が安いからといって気軽に足を運べる場所ではなくなっていた。





「おいバース、ちょっとあそこの森の中に入ってイオラ2発くらいぶつけてこい」


「俺パス。もうダーマでいいじゃん、ちょっと通気性良すぎるけど」


「ダーマはまだ復興途中でほぼ野宿だから却下。エルファ、食べられそうなやつ落ちてる?」





 草むらにしゃがみこんでいるエルファをリグは顧みた。
難しげな顔をして野草や木の実と睨めっこを続けているが、成果はあまり良くないらしい。
小動物が食べていそうな小さな実など、何百粒食べたら腹が膨れるというのだ。
牛か魚か、人が食べる穀物が食べたかった。




「ライム、大王イカって食えるかな」


「私嫌よ、夜の海は前が見えないから危険だもの」


「マッドオックスって結構締まった肉してそうじゃね?」


「バース、ベギラマはしてくれるかしら・・・」





 完全に息絶えて消滅してしまう前にベギラマで焼いてバーベキュー。
聞こえはいいが、魔物を気絶させる力加減が難しいことをリグたちは知っていた。
初めてやる作戦ではないのだ。
いつかも貧困に喘ぎ、バリイドドッグ相手にそれをやって失敗していた。
あの時は食への探究心が強すぎて、力任せに殴ってしまった。
食を得るための狩りで余計に力を使い悔しい思いをしたことは、教訓として深く心に刻まれていた。






「あっ、リグ、ご飯見つけたよ!」





 マッドオックスの皮を剥ぎ肉を切り刻むため支度を始めていたリグとライムの元に、エルファが駆け寄ってきた。
籠の中にはやたらと大きなキノコが入っている。
赤に白い水玉、紫に白い水玉。
もしかしなくてもおばけキノコやマージマダンゴか。
甘い息を吐いたり毒性を持っているそれらを食えと。
リグはにこにこと笑顔でキノコの素焼きとか美味しそうだよねと口にするエルファを見つめた。
本心で美味しそうと言っているのだろうか。
本当に美味しいと信じているのだろうか。





「・・・エルファ、これ、食えると思ってる?」


「毒とか大丈夫かなって思ったけど、さっき熱と氷で滅菌したからたぶんいけるよ!」


「エルファ、ちょっとバース呼んでこい。俺、奴と話したいことあるんだよ」





 料理の準備してくるねと言い残しライムを連れ焚き火へと向かったエルファを見送り、リグは大きなため息をついた。
元々は魔物なのだ。
いくらメラミをぶつけてもヒャドで凍らせても、魔物そのものが持つ毒は消せないだろう。
それもわからないとは彼女の頭が弱いのか、それとも無邪気なだけなのか。
リグはどんよりと疲れきった表情を浮かべやって来たバースに向かって口を開いた。





「自称保護者だろ、食べ物の管理くらいできるだろ」


「・・・俺、もう少し日頃からエルファには美味しいもの食べさせとくべきだったと後悔してる」


「・・・まさか日常出てるキノコスープに入ってるのもあいつらじゃないだろうな・・・」


「それは違う! いつもはちゃんとそこらに生えてる普通のだから!」





 キノコが焼ける匂いが漂ってくる。
もう逃げられなかった。
良かれと思って作られたエルファの料理を拒否することなどできるはずがなかった。
エルファの隣にいるライムの顔も引きつっている。
止められなかったのだろうが、彼女を責めることはできなかった。





「『勇者一行山中で見つかる。死因は食中毒』とか、そんなの嫌だからな」


「俺だってやだよ、死ぬならエルファを守って逝きたい」


「そのエルファに殺されるかもしれない現実に直面してるけど」






 食卓に並んだキノコスープと焼きたてのキノコを見つめる。
食中毒への恐怖からなかなか手をつけようとしない3人を尻目に、エルファは躊躇うことなくそれらを口に運んだ。
やっぱり旬のものは美味しいねと満面の笑みで感想を述べている。
おばけキノコに旬はないと、誰も突っ込みを入れることはできなかった。




「エルファ・・・、お腹痛くなったりしない? 気分はどう?」


「え? 美味しいよ、材料あったらシチューにもしたいな!」


「エルファ・・・・・・!! 俺、もっと精力的に魔物狩って、エルファに立派なもの食べさせるから・・・!」


「わぁ、バースいつになくやる気だね!」






 ほとんど味を確認せず、ただ腹を満たすことだけを目的に食事にかぶりつくバースを、リグとライムは無言で眺めた。
賢者というのはやはり、根本的にどこか人として大切な部分が欠落しているらしい。
例えば食に対する安全意識や、自身の体調管理能力など。
明日は有り金はたいて医者を呼びきちんとした料理が提供される宿に泊まろう。
リグはおばけキノコスープを口にして、軽い眩暈を覚えた。








あとがき

秋といえばキノコだよね、食欲の秋ということで貧乏勇者一行の食事風景をお届けしました。
ドラクエ界の主食って何だろう、西洋ファンタジーっぽいから、ジパング以外はパンなのかな。
私は、レベルが低くて旅を始めたばかりの頃は夕食はいらないくらいに薬草を貪り食ってると思います。



ブラウザバックでお願いします