白銀の街
アリアハン地方に記録的な猛吹雪が発生した。そしてその頃に帰省したリグ達がいた。
精神力をさして使うことのないルーラを使ってはるばる砂漠のど真ん中からの帰宅である。
「ただいま・・・。」
まさか故郷がこんな、暴風雪に見舞われているなど思いもしなかったリグ達。
この世界にテレビや天気予報などはないので、知っているはずがない。
「寒い・・・。砂漠に戻りた・・・。熱いよ・・・。」
「エルファしっかり!! ちょっと、すっごい熱!!
リゼルさん、エルファが熱出した!!」
猛暑から厳しい寒さの土地へとほんの数秒のうちに舞い戻ったためか、エルファは体調を崩してしまった。
向こうでうっすらとかいていた汗が急激に冷やされ、寒すぎて凍えた体を温めるために熱が出すぎた、というのが医者の診断である。
急いでリグの家のベッドへ寝かされるエルファ。
呼吸も荒く、とてもきつそうだ。
「クリスマスだからせっかく帰ってきたのに、これじゃね・・・。」
「ホワイトクリスマスは良さげな雰囲気だけど、吹雪はやりすぎだって、バース。」
「俺のせいにするなよ。つーかなんで俺のせい?」
いつぞやのクリスマスの過ごし方についての意見交換会で、バースがたまたま言った言葉をリグとライムがからかって言う。
バース本人にしてみれば、とんでもない濡れ衣だし、せっかくのエルファが寝込んでしまったのだから全然楽しくない。
それに仮に同じ呪文をかけるならホイミでもベホマでもかけてやりたいぐらいだ。
バースは1人寂しくため息をついた。つくづく運のない男である。
そしてクリスマスイブ。屋根や道の脇に積もった真っ白な雪を背景に、リグはフィルと会っていた。
家で養生しているエルファの具合も心配と言えば心配だったが、彼女にはバースや母がついているし、
リグ自身もフィルに会いたかったので、あえて放っておいた。
ああ見えて自然治癒能力がすこぶる高いエルファだ。その強さは初対面の時に実証済みである。
熱も大分引いてきたし、今日の夕飯あたりからは同じ食事を取る事もできるだろう。
「でもエルファかわいそうだね。せっかくのクリスマスなのに。」
フィルが残念そうに言う。ライムはレーベに戻って教会の飾り付けの手伝いなどをしているか、城の兵士相手に腕を磨いているし、
エルファは熱で臥せっている。せっかくのクリスマスなのに、話し相手がリグしかいないのだ。
「かわいそうなのはバース。病気に回復呪文はそんなに効果ないし、どっかに行ったら行ったで落ち着ける場所ないってぼやいてたし。」
「バース見た目ならリグなんか目じゃないくらいかっこいいもんね。
かわいそう。」
彼女の言葉に気分を害したリグを見て、フィルはけらけらと笑う。
笑いながらも彼を見て、でもリグが一番素敵だけど、と付け加える。
素敵とかっこいいは若干違う。
「ま、あの2人とライムの事は放っておいていいよ。エルファも今日あたり治るし。
母さんに任せとけば治らない病気だって治るよ。」
そっかと頷くフィルに微笑み、リグは戦いの合間の休息を思う存分楽しんでいた。
「エルファ、気分は?」
その頃バースはリグの家にいるエルファの見舞いに訪れていた。
アリアハンに戻った時と比べると、ずいぶんと顔色も良くなり、時折笑ったりもする。
経過は順調のようだ。
「うん、もう大丈夫。バースごめんね。
せっかくのクリスマスなのに。」
すまなそうに謝るエルファにバースは苦笑して言った。
「いいや。エルファが回復しないと俺も楽しめないし。
リゼルさんの看病が効いたみたいだな。さすがはリグのお母さん。」
「そうなの。いろいろお話聞いたのよ。初めて雪見た時の感想とか、熱に良く効く薬草とか。
私が知らないような草の名前だったけど、それで昔、リゼルさん一晩で病気治ったんだって。すごいよね。」
ホイミじゃ熱下がんないし、と言うエルファにバースは微笑んだ。
これはどうやら彼の予想以上にエルファは回復しているらしい。
彼はそれから他の仲間たちがどうしているかを話して聞かせた。
レーベの飾り付けがライムの手伝いの解あって例年よりも美しいと評判になっているとか、
リグとフィルがさっきまで仲良くしていたかと思えば、氷の張った水溜りでこけたフィルを助けもせずにリグが笑って喧嘩をおっぱじめたなど、
何とも微笑ましい話ばかりだった。
それから・・・、とバースはついでのように言い足した。
「今夜レーベの教会に恋人同士で行ったら木彫りのペアのペンダントくれるんだって。
あそこの神父様が清めたらしい。リグ達もひょっとしなくても行くんじゃないかな。」
「へぇ〜、じゃあ行く? 私教会の装飾見てみたいな。」
「へ?」
予想外のエルファの言葉に今度はバースが驚いた。エルファはにこにこと笑いながら続ける。
「だってリグ達も行くんでしょ? ライムも手伝った装飾なんだし、私も行きたい。
具合ももう平気だし、今から出れば充分間に合うよ。」
すっかり行く気満々のエルファ。今すぐにでも外へと出て行きそうな勢いだ。
本当に大丈夫なのかと再三尋ねるバースにも平気平気と言い、武器は持っていかなくていいよね、と荷物の確認まで始める始末だ。
「あったかくしていかないと、熱が戻ってくるぞ。
・・・じゃなくて、とりあえずリゼルさんに許可取ろうよ。無茶したら身体にまずいって。」
「じゃあ晩ごはんの時に聞いてみる。もう少ししたらリグ達も帰ってくるだろうし。」
どこまでもマイペースなエルファにバースは嬉しいのか不安なのか。訳がわからなくなってきた。
「きゃーーー!!すごいきれい!!」
小さな村の中に嬉しげな声が響いた。水色の長髪に青い瞳をした少女は隣にいる銀髪の美少年を満面の笑みで見つめる。
誰であろう、エルファとバースである。
「ああバース。エルファまで。もう具合はいいの?
無理は良くないわよ。」
前方からコートに身を包んだ美女がやって来て2人に話しかけた。
すごく綺麗でしょ、と微笑むライムの顔は達成感で輝いている。
実はクリスマスの装飾はレーベの伝統行事なのだが、今年は例年以上に雪が積もったので、いつもとは一味も二味も違った装飾になったのだ。
ちなみに木彫りのペンダントはついでだ。
しかも数も少なかったのでバース達が来た時にはもうなくなっていた。
「リグ達はあっちにいたけど。なんかさっきも喧嘩してたみたいだね。
本当によく懲りない、飽きないわよね。」
「喧嘩するほど仲がいいって言うし、リグとフィルはあれぐらいがちょうどいいんだよ、きっと。」
ライムとエルファの会話が聞こえたのだろうか、どこからかリグとフィルがやって来た。
フィルがにこにことバースに話しかける。
「こんばんはバース。エルファとデート?
いいわね、仲良さそうで。」
「リグとフィルほどじゃないけど。・・・しかもデートじゃないし。」
「でもバースが連れてきてくれたんだよ。私のわがまま聞いて。
本当にありがとう、すごく嬉しい。」
素で照れるような事を言うエルファに一同は笑い声を上げた。
もちろんその中には本当に照れているのか、苦笑している1名も含めておく。
クリスマス当日、バースはエルファの呼ぶ声で目を覚ました。
枕元を見るとなにやら袋が置かれている。
中を取り出してみるとそこには、新品の手袋と一緒にカードが入っていた。
”バースへ
ハッピークリスマス!!プレゼント考えてみたんだけど、暑さと寒さでその皮の手袋かなり劣化してるよね。
どんな色がいいかとか、厚さとか大きさとかわかんなかったけど、私なりに選んでみた。
よかったら使ってね。
エルファ”
早速手袋をはめてみる。色もよければサイズもぴったりだ。
(今度からこれ使おう。絶対に失くさない、破かない。)
もらいたてのプレゼントを手にし、笑いがひとりでにこみ上げてくるバースだった。
あとがき
本当にエルファは強いんです。2日足らずで風邪は完治です。
レーベって林業盛んそうですよね。そういう産業で生計立てているのかなと思いました。
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