だって器用なんだもの


履歴書にも書いてない





 実はずっと黙っていたことがある。
白状したところでこちらの利益にはならず、ただひたすらに酷使される未来だけは見えたからだ。
過去を遡ることしかできない能力でも、我が身に降りかかる災難は察知できる。
盗賊として活躍していたその実態は賢者、だけではないんだよなあ。
バースは周囲に誰もいないことを確認すると、お〜いと大きな声を上げた。
お呼びでございますかと、旅の商人がどこからともなく姿を表す。
荷物の整理がしたくてさと袋の中身をばら撒くと、商人が手慣れた様子で仕分けを始めた。



「これはまた随分と溜められましたなあ」
「野宿が多くて町はおろか、村にも寄れなくて」
「宿屋もお呼びすればよろしいものを」
「『おおごえ』で呼べるって仲間は知らないんでね」



 賢者の力を喪ってから、まず初めに就いたのは盗賊だった。
単身である程度生活できるようになるための最低限の力と金策が必要だと考え、どちらにも秀でた盗賊を選んだつもりだった。
浅はかな考えだった。
魔物からアイテムを盗むのは想像以上に難しく、それを売り払って得られるゴールドも僅かだった。
これはまずいと考え直し、商人に転職した。
意外と戦えたし、生活にゆとりができた。
来たるべき再会と出会いの日に備え、それなりの装備を整えることもできた。
商人同士の確かな情報網も有用で、いっそのことずっと商人でいようかなと心が揺らいだほどだった。
盗賊に戻ったのは、そちらの方が装備がおしゃれだったからだ。
男の商人の装備は少々見栄えが悪い。



「では今回はこのお値段で」
「こちらこそ」
「こんなもんか、まあ次の町でエルファの装備買える足しにはなるかな」
「またご贔屓に」



 音もなく消え去った商人を見送り、ゴールドが詰まった袋を懐に仕舞う。
商人の経歴があり、いつでもどこでも大声で呼びさえすれば教会も商人も宿屋も呼べるなんて我らが勇者リグ様に知られてみろ。
酷使されるに決まっている。
これ以上なんでも屋にされたくはない。
「なんでも屋」という職業はない。
今でさえ宝の気配を探知しながらマヒャドの連続行使を強いられ、手が空いてなくても回復しろと厳命される過酷な現場だ。
ベホイミ終わったら光るのお願いと戦闘が終われば終わったで宝物探索で床中にレミラーマを施し、口を閉じている時間があまりにも少ない。
この上さらに大声を張り上げろなんて言われたら、さすがに堪えられない。
魔力より先に喉が潰れる、声が嗄れる。
リグもライムも底なしの体力を持っているから、賢者の本当の力を知らない。
賢者はそれほどタフにできていない。
穴掘りなんてしたら腰まで壊れる。
だから絶対に、特にリグには言えない。
エルファにも隠している。
彼女は純粋に褒めてくれるから、恋人の素晴らしさを仲間たちに語って聞かせる。
気持ちは嬉しいがやめてほしい。
エルファに励まされても心しか癒されない。



「バース、そろそろ交代」
「お、もうこんな時間か。おやすみリグ」
「なあ、さっき誰かいた?」
「いや、誰も?」
「ふぅん・・・・・・、ま、いいけど」



 リグの勘は鋭い。
じいと見つめられると、心の中が見透かされているように感じる。
今が夜で良かった、細かな顔の動きが見られないから。
バースは立ち上がると、リグに焚き火の前を譲った。
商人が渡した買い取り伝票が懐から零れ落ち、リグが身を屈める。
まずい、消さなければ。
バースは早口でメラと唱えると、リグの手の中の紙切れを消し炭にした。





あとがき

宿屋に会いたくて大声で呼んでいるのに、何度呼んでも旅の商人しか出て来てくれないのはご愛敬。
大声出すのもそりゃあMP使うよなあと、高地のど真ん中でただただ減っていく魔力を眺めていました。



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