1周年記念

メタルvs毒針





 カキーンと固い金属音がしてリグの剣を弾いた。
剣を振り下ろしたリグはその場で震えている。
彼の手が、身体が、ピクピクと小刻みに振動しているのだ。
彼の目の前にいたそれ、メタルスライムはそそくさと草むらへと去って行った。







「おい、リグ?」




バースが横から軽くリグを小突いた。
剣を取り落としガクッと膝を折るリグ。
心配そうに彼の顔を覗き込んだバースに一言言った。







「手が・・・、痺れた・・・。」




メタルスライムの守備力はとても高い。
剣など弾き返してしまうのが常である。























 「1度でいいから倒してみたいわよね、メタルスライム。」


「だよねー。でも私のホーリーランスじゃとてもとても。」







戦う相手が逃げ、ゆっくりと武器を収めながらライムとエルファは語り合った。
ダーマ神殿の近くにはメタルスライムが多く生息している。
リグ達も何度か対峙したのだが、いまだ1匹も倒した事がなかった。
メラを唱えるだけ唱え、さしたるダメージを与えさせてはくれず、無言で去っていく彼ら。
彼らのどこに闘志を燃やしたのだろうか、パーティーのリーダーであるリグが打倒メタルスライムに執着してしまったため、今はこうしてダーマ神殿に入り浸っている。
が、リグの努力虚しく収穫はゼロ。
言いだしっぺの彼は攻撃はするものの、そのあまりの固さに武器を取り落とすという始末だ。









「・・・バース、メタルスライムに守備力減退呪文は。」


「効かない。
 あいつら呪文全然受け付けないしな。
 てゆーか効いたら初めからエルファに唱えさせてるし。」


「じゃあどうやったら倒せる?」



「・・・打撃攻撃?」







 予想していた通りの回答にリグは素直に落ち込む。
鋼鉄の身体に鉄の斧で挑んでいるのだから、早いところ奴を倒さないとリグの武器が使い物にならなくなる。
常に財政難で喘いでいる彼らにとっては痛すぎる話である。
メタルスライム狩りだけで刃こぼれしたというのも馬鹿げている。





「寝込みを襲うとか。」


「馬鹿、夜は魔物が活発化するだろ。
 エルファが怪我でもしたらどうすんだよ。」






 本気になって否定するバースに苦笑しながらリグは冗談だよ、と言った。
しかし本当にメタルスライムを倒したい。
ここまで追いかけているのだ、今更後には引けない。
そうやってどうしたものかとため息をついていたところに、エルファがやって来た。
手にはナイフのような、そうでない武器が握られている。






 「バース、あ、リグもいたんだ。
 さっきね、袋の中チェックしてたら毒針出てきたんだけど、これ要るかなぁ。」



「毒針? どうせ装備しても一か八かでしか倒せないし、俺も別の武器使ってるし・・・。
 売っていいよな、リグ。」






 毒針でもなんでもいいから売って、少しでも懐具合を暖めておいた方がいいだろうと判断したバースはリグに同意を求める。
が、リグはそれには答えずじっとエルファの手元を見つめている。
少ししておもむろに立ち上がると、彼女の手の中の毒針を手にとって2,3度刺す真似をしてみた。
そして毒針に視線を向けたまま、逆にバースに尋ねる。






「これさ、俺も使えるようになるかな。
 これでメタルスライムをぐさっと。」



「「は?」」




どこまでもミステリアスで我が道を行く勇者様である。

























 草原に一陣の風が巻き起こった。
風がリグの黒髪を、マントを揺らす。
メタルスライムがメラを唱えた。
その途端にだっと走り出し、一気にメタルスライムとの間合いを詰める。
左腕には青く輝く宝石を散りばめた腕輪がつけられている。
あれこそいつぞやイシスの城内で勝手に持ち去った素早さを飛躍的に上昇させる星降る腕輪だ。
あまりの素早さにきょとんとしているメタルスライムめがけて、リグは右手に握られている毒針を振り下ろした。
ぶすっと中まで突き刺さる音がする。








「きゅ〜・・・。」




メタルスライムがへにゃりとなり消滅した。
リグと毒針がメタルスライムに勝利した瞬間である。




「やった!! 見てたかみんな!!
 ついに、ついに奴を倒したぞ!!」



ガッツポーズをしてライム達の待つ方へと駆けて来るリグは満面の笑みで毒針をエルファに手渡した。




「なんか・・・、毒針持ってる勇者ってリグだけだと思うわよ・・・。」


「しかもそれもってガッツポーズつけたりしてるとことか、
 かなりフィルには見せられないし・・・。」





 毒針入手以来、リグは毎日いかに上手く突く事ができるかに重点を置いて、ひたすら特訓に特訓を重ねてきた。
その甲斐あってかただの運の良さか、なんとか一人前に毒針を使いこなせるようになった。
毒針の名手となったリグは実戦も兼ねてメタルスライム頻出スポットへと足を運んだ。
何度も攻撃する前に逃げられ、それを避けるために星降る腕輪を装着した彼は完全武装で奴に挑んだ。
その結果がこれである。
こうまでしても1匹も仕留められなかったら、さすがのリグもとっくに諦めていただろう。






「よかったなリグ。
 メタルスライム倒せて。」



「ああ。俺、これからは奴に遭遇したら全部この奇跡の毒針使うことにするから。」





 それから先、メタルスライム+αで現れる魔物達との戦闘でライムとバース、エルファの3人は大いに苦労していた。
当りもしないのにやたらとメタルスライムばかり毒針で突く事の代償である。
ちなみに毒針がその真の効力を発揮したのは後にも先にも1度きりである。








あとがき

毒針は勇者が装備する事はできません。確か盗賊と魔法使いだけだったと思います。
メタルスライムを低レベルの時に倒したら、下手するとふたつレベルアップしました。





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