あけましておめでとうございます

New Year’s Sunshine





 宿屋のカウンター越しに2人の少女が話している。
片頬をつき、もう片方の手で所在無く宿泊名簿をめくっている少女が、退屈そうに空色の髪の少女に尋ねた。









「初日の出ってさ、どこが一番きれいに見えると思う?」




「そうだな・・・、ピラミッドのてっぺんはすごく眺め良かったし、あそこなら綺麗に見えるんじゃないかな。」






さらりと答えるエルファにフィルはますます尋ねた。





「じゃあさ、リグに頼んで連れてってもらおっかな。ピラミッドのてっぺんに。」








いいんじゃない、と言いかけてエルファははっとしてフィルの顔を見つめた。
彼女の水色の瞳はうきうきと楽しそうに輝いている。
フィルはばっと立ち上がった。つられるようにしてエルファも腰を上げる。
カウンターを一気に飛び越えると、フィルはエルファの手を引きつつ、リグはどこ、ああお城ね、と1人合点し、そのまま城へと駆け出した。
ぐいぐいと腕を引かれながらエルファはリグにひたすら心の中で謝っていた。








































 「はぁ? ピラミッドのてっぺんで初日の出を見たい?
 なに馬鹿な事言ってんだよ。」








練習用の木刀を置いて帰って来たリグは、不機嫌さ丸出しの口調で切り出した。
顔も苦み走っている。それもそのはずだ。
ライム相手に剣術を磨き、彼女の隙を突いていざとどめをささんとしたその時、
大事な仲間を引きずり、自分の名前を大声で呼ばわりながら乱入してきたのだ。
おかげで空振りはするし、逆にこちらが負けてしまうとまさに踏んだり蹴ったりだ。
しかしそんな事お構いなしにフィルはリグにひたすらねだる。









「ねぇ〜、連れてってよ。絶っ対に迷惑かけないし、文句も言わないからっ。」



「でもねフィル。そんな簡単に言うけど、ピラミッドの頂上まで結構歩くわよ。
 それに朝は寒いし、魔物は出るし。」





ライムの忠告にも耳を貸さない。フィルはリグにねだり続ける。






「お願い〜。どうしても見たいの。ねえリ「帰る。」









彼女が言っている途中でリグがいきなり立ち上がった。手早く荷物をまとめると、そのまま城門へと向かう。
残されたライム達を振り返る事もせず、すたすたと外へと出て行くと、そこでリグは大きくため息をついた。
そして一言、ぼそりと呟いた。







「バースの奴探して、回復中級呪文といくつか攻撃呪文習っとかないとな・・・。」






リグの孤独な短期集中呪文講座が始まった。













































 そして大晦日の夜。あれからリグと1度も口を聞いていないフィルは面白くなさそうに部屋のベッドに潜り込んだ。
せっかく大好きな人と初日の出を見たかったのに、その計画がもろくも崩れ去り、かなりご機嫌斜めだ。










「もう、リグなんか知らない。」




「へぇ。じゃあピラミッド行くのやめるか?」



「それとこれとは話が別・・・って、リグ!?」











聞こえるはずのない恋人の声を耳にし、しかもそれがかなりの近距離でだと知り、フィルはがばっと身を起こした。
慌てて、枕元の燭台に火をともすと、ぼんやりとリグの顔が浮かび上がった。
リグはてきぱきと起きたばかりのフィルに指図する。







「コートと帽子と・・・。出来るだけ暖かくしていくんだ。
 早くして。日が昇るぞ。」





日が昇る、と聞いてフィルはぱぁっと顔を輝かせた。そうだ、彼は連れて行ってくれるのだ。








「リグ、私嬉しいっ。でもなんでここに来れたの?」



「そんな事どうでもいいから。急げ。行くぞ。・・・ルーラ!!」






あっという間にリグとフィルはアリアハンから消えた。
























































 「リグ、強いね〜。本当に私何もしないうちにてっぺんだ〜。」








途中何度かあった戦闘をあっけなく終わらせていくリグにフィルは素直に感想を述べた。
リグは当然のように答える。







「そりゃ、この日のためにどんだけ勉強したか・・・。エルファいないからすごく困るし。」



「ちょっと。なんでエルファいないと困るわけ。まさかリグ、エルファの事・・・。」





「あのなぁ、回復呪文唱えてくれる子がいないと戦えないだろ。
 ・・・ほら、気をつけろ。頂上だ。」










 リグがフィルの腕を引っ張り上げた。まさにピラミッドの頂上に立つ2人。
日が今にも顔を覗かせそうだ。2人はじっと見守った。やがて少しずつ、少しずつ太陽が上に昇ってきた。
フィルの桃色の髪が光に照らされキラキラと輝く。
リグはそっとフィルの肩を抱いた。フィルはすぐに気付きリグの方を見たが、そのまままた前を向いた。
身体はリグにぴったりと寄せている。








「来年も、来たいな。」



「次は魔物がいなくなってる予定だな。」


「頑張って、私の勇者さま。」






太陽が完全に昇りきるまで、リグとフィルは寄り添いながら朝焼けに染まる空を眺めていた。

































 翌日、リグはバースと会っていた。






「どうだ、少しは役に立ったか? 俺の呪文講座は。」



「まあまあ。でもこれ多分これからの旅でも役に立つし、ありがとな、バース。
 おかげでフィルの機嫌損ねずに済んだ。」









そう言うとリグはフィルとエルファがいるであろう宿屋へと視線を移した。
今頃フィルはエルファ相手に惚気話の2つや3つ聞かせているのだろう。
そう思うとリグは苦笑した。フィルの機嫌の良くも悪くもとばっちりを受けるのは、最近ではもっぱらエルファだ。










「エルファもかわいそうだな。毎回毎回帰ってきたら帰ってきたで惚気話聞かされて。」






リグがそう言うと、バースが白けた様子で言った。








「その原因を作ってんのは他でもないお前。
 ったく、天下の勇者様が人の家に忍び込む方法尋ねるか、普通。」



「それをわかりやすく、かつ丁寧に教えたのはどこの盗賊だよ。
 ・・・まあおかげでフィルに会えたんだけどな。」









バースが呆れたようにもういいよ、お前らと言ってどこかへ行く。
ちょうどその時、宿屋からフィルが出てきた。彼女の後ろでは何がおかしいのか、クスクスと笑っているエルファの姿も。
フィルがリグに気が付いて駆け寄ってくる。エルファもその気配に気が付き、先ほどバースが行った方向と全く逆の方向へと足を向ける。
その後バースがエルファを追いかけたのかどうかは知らないが、リグは今年こそフィルと仲良く、喧嘩をせずに過ごそうと決心した。








あとがき

甘めを希望されていた皆様、ごめんなさい。私にはこれがいっぱいいっぱいでした。
かといってギャグがあるわけでもなく、別に初日の出の必要もなかったよね〜と思ったのでした。





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