フリーその1

砂漠のひととき





 イシスの人々の服は他の地域ではまず見ることの出来ないこの土地特有のものだ。
風通しの良さそうな服はいつまで経ってもこの暑苦しい衣装から抜け出せないリグ達一行には大きな魅力だった。
それと同時に彼らの興味の的となる。
まもなくイシスの土地とも別れを告げる頃、彼らはなりきりイシスの民になってみることにした。












「なんかさ、リグは髪の毛の色といい肌の焼け具合といい、
 その服着てたらここの人達とあんまり変わんないな。」

「それは目立たないってことか?」




両親譲りの真っ黒な髪を持つリグの容姿は確かにあまり砂漠の人々と変わらない。
明日からでもこの地で普通に暮らしていけそうだ。
彼はもしかしたら家の母さんはここの人だったのかも、とぼんやりと考えながらバースを眺めていた。
そして小さくため息をつく。
彼自身は別に自分の容姿にこだわる方でもないし、恋愛についても今は特に何も考えていない、
というか既に相手がいるのでまず気にはしていないが、
それでもやはり、自分の近所にライムやバースといったような、
明らかに周囲の人々の目を釘付けにするような人がいたら、ちょっと切なくなったりする。
今回だって、いい男は何を着ても似合うものだ、とか何とかバースを見ながら思っていた。
リグはまた小さくため息をついた。








「何をそんなにため息ばっかりついてるの?
 せっかく素敵に着こなしてるんだから、もっと堂々としてればいいのに。」
「そんな事言ったってさ・・・。
 ・・・あんた、誰?」





突然見ず知らずの自分とそう歳の変わらない少女に声をかけられ、リグは久々に自分が人見知りであった事を思い出した。
栗色の髪に茶色の目をした少女はにこにこと笑いながらリグに構わずに言葉を続けた。



「あなた、あそこにいる旅の人達のお仲間よね?
 だって皆さんここの人じゃないもの。」


「・・・旅をしてるから。
 海を越えてきたんだ。たぶん。」



妙に親しげに話しかけてくる少女にリグは辟易していた。
彼がもっぱら年頃の少女と話すのはエルファとライムと、それからアリアハンに置いてきたフィルぐらいである。
後は彼の生来の人見知りの性格からあまり関わらないようにしてきた。
どうしたものか、早くこの場から立ち去りたいリグは困ったようにライム達3人の方を見つめた。
しかし彼らはなにやら楽しそうに笑いながら彼の方を見ているだけである。
・・・どうやら傍観者を決め込んだようだった。
たまに薄情者になる仲間達を持ったことをリグはこのとき少しばかり恨めしく思った。
つまりはこの少女の処置については彼自身が何とかする事。
きっとずるずると彼女といては、アリアハンに帰った時にバース辺りがフィルに事の顛末を吹き込むに違いない。
それだけはなんとしても避けたい事である。
リグは本気でフィルと痴話喧嘩をする事が嫌だった。
勝ったためしがないからである。





「あの、さ。なんか用?
 俺これでも忙しいんだけど。」
「用?そうねぇ・・・、あなた、すごくかっこいいと思って。
 それでつい話しかけちゃったのよ。」



「かっこいい?それはあっちの銀髪の奴と間違えたんじゃ・・・。」


「そんなはずないわ。
 私がかっこいいって思ったのはあなたよ。
 どうしてもお近づきになりたくって。
 我ながらすごい勇気を出したもんだわ。
 ねぇ、あなたいくつ?名前は?彼女とか、いたりする?」



リグはだんだんイライラしてきた。
本当に彼は忙しいのだ、これでも。
当初の予定では、イシスの服を着たまま薬草などの旅の必需品を買い揃えて、
出発への準備をしっかりとしておきたかったのだ。
彼はこの自分の気持ちはいざ知らず、勝手にしゃべり続ける少女を思い切り睨みつけた。
彼のあまりの剣幕に少女は離していた口を閉じる。




「あのさ、悪いけど本当に忙しいから。
 友達になるのはいいけど、俺、一応故郷に彼女残してきてるから。
 それよりも、ここら辺でいい品揃えてる道具屋知らない?
 万全の状態で出発したいんだ。」




あまりに情け容赦のない言葉に少女は一瞬息が止まったような顔をした。
たいていの女の子は彼のこの言葉を聞くとそそくさとその場から立ち去るだろう。
が、少女は苦笑しつつも、



「道具屋?うちんち一応ここら辺では結構有名な道具屋だけど?
 あ〜あ、私彼女持ちには興味ないのよね。
 残念、せっかく久々にいい人見つけたと思ったのにね。
 ま、でも少しの間だけどいい夢見させてもらったお礼として、
 うちの商品安くしとくわよ?」




「本当?助かったな。
 ありがとうお嬢さん。おかげで安心してこの町から出発できるよ。」






いつの間にか彼の隣にいたバースが瞬殺スマイルで少女に礼を言う。
彼の微笑を見て少女は思わず顔を赤くした。
あぁ、やっぱり。リグはそう思った。
どうせ彼が現れたら自分の存在など忘れてしまうのだ。
少女はまた、彼に初めて会った時と同じ笑顔を振りまきながら、例の道具屋へと帰っていった。










「はっ、やっぱり本家には適わないな。」


「何の事、リグ?」
「エルファ、悪いこと言わないから、こんな男になびいちゃ駄目だぞ。
 こいつ誰にも彼にも笑顔を振りまくスマイルキラーだからな。」



「なんだよリグ、エルファにあること無いこと吹き込むなよ。
 俺がいつ笑顔振りまいてるかよ。
 ったくもう・・・。」




予想以上にいい買い物のできたリグ達は、宿屋の一室でワーワー言い合っていた。
彼らの服はいつの間にか元に戻っている。
あれからいろいろと外を歩いてみたのだが、逆に目立つばかりで容易にうろちょろ出来るものではなかったのだ。
ふと、ライムが言った。






「リグってさ、あんなに女の子への扱い方うまかったっけ?
 前はもっと・・・、むしろ無言だったじゃない。」



「あ〜!! リグ、お前こそ俺達の知らない所で浮気してんじゃないだろうなぁ?
 アリアハンのフィルっていう可愛い子がいるのに・・・。」





彼らの恋愛話は結局は同じところに行き着くらしい。
リグは思った。
たまにはこういうのもいいかな、と。








あとがき

なんでもいいですけど、リグだってかっこいいんです。
ただ、バースやライムに比べたらどうしても・・・ってことです。彼は浮気はしない人です。





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