お父さんシンドローム




 人生始まって以来、一番ド下手くそな冗談を言われた。
と言ってしまえば確実に怒られてしまうので、とりあえず口を手で塞ぐ。
え~マジで!?
反射的にそう口走らなかったこの身に、よくやったとお褒めの言葉を頂戴したいくらいだ。
はぽかんをホメロスを見上げたまま、硬直していた。



「お前もデルカダールに長く住むようになったし、そろそろ頃合いだろう。娘になれ」
「私が? 将軍の? 将軍ってば私なんかを養女に迎えるなんて疲れてます? 仕事の量やっぱり控えた方がいいですって。最近お店にも来てくれないじゃないですか、寂しい~」
「だから娘にしてお前を城近くに住まわせれば、寂しい思いをさせることもない」
「いや寂しいってのは言葉の綾で、別に将軍が来ないなら来ないで羽根も足も伸ばせて快適なんですけど」
。私は冗談で言っているのではないのだ」



 の顔をそっと両手で包み込み、正常な角度へ戻す。
地獄のような掃き溜めから拾ってきて数年、もデルカダールに馴染んできた。
常識を与える前に世俗に染まったおかげで少々日常行動に不審な点は多いが、それも彼女の個性と思えば引きつり笑いで見ていられる。
幸いにして自分以外の他人に迷惑をかけることもなかったので、家に入れることへの障壁はなさそうだ。
元々根無し草で行くあてもないなのだ、彼女がこの先どうなろうと誰も何も気にしない。
おそらく本人すら、自分の今後など考えたこともないだろう。



「私の家族になるのは嫌か?」
「だって将軍まだ38でしたっけ?」
「36だ」
「でしょー。これからぴちぴちギャルをお嫁さんに迎えられるのに、なんでもう養女とか考えちゃってるんですか」
「ギャルも嫁も考えていない」
「今考えてないだけで、遠征先でぴちぴちギャル見つけたらお嫁さんにしたいなあとか思うって!そうなった時、自宅にはもっとぴちぴちしてる私がいるんですよ?私めっちゃ気まずい」
、その言い方はやめろ。・・・私の提案は受け入れる余地はないのか?」
「そういうわけじゃないんですけどー、あっ、いっそ将軍私を娘じゃなくて嫁にしたら?」



 年齢差的にそっちの方が自然だと思うんだけど、将軍どう、結構名案じゃない?
歳の差を指折り数え始めたの肩に手を置き、正気に戻れと軽く揺する。
自分が何を言っているのか、おそらくは何も気付いていない。
今はプロポーズをしたいのではない、これから先もその感情を抱くことはない。
は、なぜもっと自分を大切に考えないのだ。
こんな馬鹿娘の親になるには、覚悟がまだ足りない。
この程度で動揺していては、が爆弾発言をするたびに家庭が崩壊する。
ホメロスはを見下ろすと、苦々しい表情で冗談だと呟いた。




「最近将軍面白くない冗談言うんですよ~グレイグ将軍どう思います?」「不機嫌の原因はお前か」



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