日陰を求め木の下へ座り弁当を広げていると、目の前にぬっと人影ができる。
誰がやって来たのかは風に靡くマントらしき影でわかるが、わかっているからこそ顔を上げず食べ続ける。
何の嫌がらせか、隣に座ってきても振り向きすらしない。
心落ち着くリフレッシュタイムになぜ奴の顔を見なければならないのか。
隣で同じように口を開くことなく黙々と昼食を食べていた鬼道の顔が、ふと何かに気付いたように上を向く。
上に何があるのだ。
気になるが、つられて顔をあげると負けたような気分になるので頭の角度を固定せざるを得ない。
「・・・」
「・・・・・・。食べてるから後にしてって言うか、話すことなんかない」
「本当に聞く気はないのか?」
「今まで一度だって話聞きたいと思ったことないから」
「・・・そうか」
いつの間にやら弁当を空にしていた鬼道がおもむろに立ち上がり、座ったままのの前に立つ。
人を見下ろすとはどういう料簡をしているのだ、不愉快極まりない。
鬼道が背を屈め、顔をの額へと近付ける。
ちょっと待て、こいつは何をしようとしているのだ。
TPOというものがわからないのか。
こちらはまだ食事中で、男に迫られるような状況を受け入れる態勢はちっとも整えていない。
鬼道の片手が木の幹を突き、もう片方の手がの顔へと伸びる。
暑さで頭がいかれた鬼道が何を企んでいるのかはわからないし知りたいとも思わないが、とりあえず保険でガーリックフライでも食べておくべきだった。
触れられると思い、は思わず目を閉じた。
「・・・・・・やっぱり苦手なのか」
「・・・は?」
「頭に虫がついていたと教えるつもりだったんだが話を聞かなかったからな。大丈夫だ、もう逃がした」
「鬼道・・・・・・、何てことを・・・・・・」
「何もしていないだろう? それとも何だ、は何か期待していたのか?」
「してない! どっか行け鬼道、二度と私と弁当食べるな!」
鬼道の真意がどこにあるのかわかったものではない。
は意味深な笑みを浮かべこちらを見下ろしてくる鬼道の向こう脛を蹴り飛ばした。
鬼道さんには! ニヤァって! 笑ってほしいのです!