風通しのいいとっておきの場所を見つけ、ほんの少しだけ涼しい気分に浸り弁当箱の蓋を開ける。
体が本調子でなく、もっと丈夫になるようにとの思いから詰めてもらったおかずは栄養のバランスがよく取れている。
お母さん今日もありがとう、いただきます。
じっくりと味わうべく箸でつついていると、背後から美味しそうだなと声をかけられる。
隣座っていいかと一声かけ腰を下ろした風丸は、と同じように弁当箱を開くとこれまた同じように卵焼きを持ち上げた。





「同じ卵焼きなのに焦げ具合とか違うんだから、やっぱそれぞれの家庭の味ってあるんだな」
「風丸のも美味しそう。おばさんが作ってくれたの?」
「そう。自慢じゃないけど母さん料理上手なんだ。食ってみるか、ほら」
「えっ」





 口の前にずいと突き出された風丸の箸に刺さった卵焼きを見つめ、は一瞬戸惑った。
箸渡しをするよりもマナー違反にはならないと思うが、しかしまさか、真面目で厳格な風丸があーんなど言うとは。
連日の暑さで頭がいかれたのかとは、鬼道ならともかく風丸相手には訊けない。
そもそも風丸は大人びて思慮深い性格だから、頭はおかしくない。
だとしたらこれは、風丸にとってはごくごく当たり前で自然な行為なのだろう。
は意を決して風丸の卵焼きを口に含んだ。





「美味しいか?」
「ん。風丸もはい、お返しあげる。あ、あーん・・・?」
「あーん。美味しいな! 俺、今度のおばさんに弁当作ってもらおうかな」





 うちの息子になるつもり?
体験入門とかないのかな。
互いの弁当を食べ比べしながら、風丸とは顔を見合わせにっこりと笑い合った。






さんとこの風丸さんは、こんなこと言わないとわかってる




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