この広告もフィクションです
えー、なんで!?!?
ソファーでのんびり横たわっていたから素っ頓狂な叫び声が上がり、食器を洗っていた手を止める。
泡だらけの手を洗い、水気を拭き取りソファーへと急ぐ。
ここにいるのになんでなの!?
振り返るなり必死な表情で悲鳴を上げたに、今はうるさいとは言ってはいけない気がする。
豪炎寺は取り乱しているの隣に並んで座ると、どうしたと柔らかく声をかけた。
「フィールドでは紳士的に振る舞える修也がレッドカードもらうなんておかしいとは思ったけど、けど!」
「ああ、見たのか。すごかったろう、俺も震えた」
「非実在だからレッドって何? 私の目の前の修也って何者? イマジナリー幼なじみ? やばすぎ」
「そこは深く考えない方がいいと思う」
「修也がイマジナリー幼なじみだとしたら、私のマジの幼なじみって誰?」
「やめよう、この話」
の話を聞いているこちらも不安な気持ちになってくる。
あくまでも広告内の架空の設定だと伝えても、今のには通じないだろう。
元々聞き分けも頭のつくりも良くないだから、既に支離滅裂な言動が目立つ今の彼女に難しい話を受け入れる余裕はないはずだ。
豪炎寺は、家族友人知人公認の幼なじみの頭の出来が良くないことをよく知っていた。
「ていうかなんで爆熱トルネード?」
「クライアントの要望がそれだったんだ。エイリア学園との戦いを中継で観ていたのかもしれない」
「そっか、爆熱トルネードだったからひょっとしたら修也じゃなくてマジンの方を非実在認定したのかも」
「、審判の判定は絶対だから」
「次の試合からは念のためマジンも選手登録しといた方がいいんじゃない? あれが審判団のスタンダートになったら修也試合出れなくなっちゃうし」
「そうだな、円堂に言っておく」
絶対に言うものか。
こんなこと言ってみろ、あの円堂ですら心底気の毒そうな目でこちらを見てくるに決まっている。
お前も苦労してるんだなと今度こそ声に出して言われるかもしれない。
心の中に秘めておいてほしい本音もある。
広告の撮影を終えた時は、もっと晴れやかな気持ちだった。
は今回も驚くだろうなとか、ファイアトルネードではなかったことに文句を言うだろうなとか、どうせまたこっそりと録画してるんだろうなとか、ポジティブな気持ちばかりが胸を占めていた。
レッドカードを突きつけられることに憤るもある程度は予想していたが、噛みつき方がまったく違った。
鯛焼きは頭から齧りつく至って平均的な食べ方をするなので完全に油断していた。
豪炎寺はぶつぶつと呟き続けているの背中におずおずと手を伸ばした。
払い除けられないのは信用の証と捉えることにする。
「俺はここにいるから妙なことを考えるな。眠れなくなるぞ」
「羊が83匹、羊が84匹・・・」
「・・・手遅れだったみたいだな」
「うう、私の真のスーパーイケメンキラキラ王子様みたいな幼なじみは一体どこに・・・」
「一生考えてろ」
付き合っているのが馬鹿馬鹿しくなってきて、途中で放り出していた食器洗いを完遂すべく台所へ足を向ける。
やだぁ、行かないでー!
滅多に投げかけられることのない無邪気なおねだりに、豪炎寺は再びソファーの住人になった。
「ごめんな豪炎寺、ベンチ入りの人数決まってるから・・・」「手遅れだったか・・・」