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 大人は意地悪で汚い生き物だと思う。
子どもを使えば違法性が薄れるとでも考えているのか、ただの子どもを宇宙人に仕立て上げたりハイソルジャーとかいう戦士に変身させたりと、えげつない。
扱いやすく言うことを聞かせやすいから子どもを利用するのだ。
ひとたび手中に収めれば、正真正銘宇宙の不思議な力で洗脳して、痛めつけて傷つけて。
許せない悪行だ、誰がこんな奴に手を貸すものか。
散々人をストーカーし襲った挙句風丸たちを人質に取り、これで屈するのは相手の思う壺ではないか。
は研崎を鋭く睨みつけた。




「風丸くんたちを帰してあげて。あんたらが狙ってたのは私でしょ? どこに目つけてんの、間違ってんわよ」
「確かに私たちはあなたを探していました。ですが、あなた1人では意味がないことも事実」
「そりゃないに決まってるじゃない、私はサッカーできないもん。でも、だからって風丸くんたち利用しなくていいでしょ」
「では、彼らが彼らでなければ我々に力を貸していただけますか?」
「は?」
「ご存知ですか、エイリア石は人間の思考を操る力も持つのです。あなたが今の彼らの力になれないというのであれば、彼らをあなたが知らない人格へと変えましょうか?」
「ちょっ・・・、やめてよ! どうしてそんなことするの!? そんなことしてまで偉くなりたいわけ!?」
「ひとつ、私と取引をしませんか?」




 研崎はアタッシュケースの中から妖しくきらめくエイリア石の1つを取り出すと、の胸元に押しつけた。
忌々しさと苦痛で表情を歪める様子が気に入ったのか、にやりと更に笑みを深くする。
どこまで悪趣味な男なのだろう。
拉致監禁は以前も2回ほど経験したことがあるが、あの時はまだ自由に動けた。
あちらは拘束プレイが好きなのかもしれないが、中学2年生のいたいけな乙女にそういったアブノーマルなプレイを強要してほしくない。
両手両足が使えたら、今すぐにでも張り手と蹴りをお見舞いしているところだ。





「あなた1人と引き換えに、彼らを助けて差し上げましょうか?」
「そんなの割に合わないじゃない」
「そうですか? ここであなたが大人しく私たちの言うことを聞いて下されば、彼らは助かるのですよ? 助けたくないのですか? このまま捕らわれていてほしいのですか?」
「いいわけないでしょ! でも、今更あんたらみたいな汚い大人が優しいこと言うわけないもん」
「本当に元気な方ですね・・・。先にあなたから壊してしまうこともできるのですが」
「私は人間で物じゃないから、壊すとか言わないでくれる?」
「壊れますよ、人間も簡単に。・・・特に、あなたのように1人きりでいる方は」




 やめて、近付かないで。
その気味悪い石を押しつけてこないで。
頭の中がぐるぐると強引にかき回されたような気分に襲われ、はきつく目を閉じた。






























 この世には、直視したくない現実というものがいくつか存在する。
例えば、エイリア学園。
奴らによる校舎破壊と戦いの日々は、様々なものを失ってしまった辛い戦いだった。
仲間を傷つけられ貶され、戦えなかった彼らの分も合わせて戦ったのが宇宙人との戦いだった。
やっとすべてを終えて晴れて雷門中に凱旋したというのに、これはどういうことだろう。
笑顔で出迎えてくれるはずの彼らはどこにもいない。
総理大臣にも感謝されるようなことを成し遂げたのに、誰一人として笑ってくれない。
それどころか、敵意に満ちた目で睨まれている。
俺が、俺たちが風丸たちに何をしたというのだろう。
心当たりがまったくない円堂たちは久々の再会に喜ぶ間もなく、いつの間にやらエイリア石の虜となっていた風丸たちを呆然と見つめていた。 




「風丸・・・? お前ら・・・、何やってんだよ! エイリア石なんてどうして持ってんだ!」
「・・・・・・」
「彼らは真の、究極のハイソルジャー。私が作った最強のハイソルジャーなのです! 彼らなら、君たち雷門イレブンを完膚なきまでに叩きのめします」
「叩きのめす・・・? 何言ってんだよ、風丸たちがそんなことするわけない! なあ風丸、嘘だろ? お前たちは騙されてるんだろ!?」
「・・・触るな! ・・・円堂、サッカーやろうぜ?」
「お前ら・・・! ・・・・・・わかった。絶対に勝って、お前たちの目を覚ます」
「勝つ? 本当に勝てますか、彼女を相手にして」





 研崎に促されたもう1つの黒フードが円堂たちの前に進み出る。
まだいるのか。しかも彼女とは誰だ。
ゆっくりとフードを外した人物を認識し、円堂たちの間に衝撃が走った。




・・・・・・? なんでが・・・!?」
「さあ、なんでだろ」
に何をした! 答えろ、彼女は関係ないだろう!」
「彼女のような才能溢れる方を除け者にするとは、あなた方も見る目がない・・・。ご存知でしょう? 彼女の力を」




 知らないわけがない。
にずば抜けた戦術眼があることは、雷門中サッカー部員なら誰もが知っている。
しかし、なぜなのだ。
部員でもなんでもないが、どうしてあちら側についているのだ。
少なくとも、先日と会って話して告白した時はまだ彼女は正気でいた。
鬼道は縋るような思いでを見つめ、口を開いた。




「どうしたんだ。どうして奴らと一緒にいる? 風丸たちと何があった?」
「うーん・・・」
「目を覚ましてくれ、俺が知るはそんな子じゃない」
「・・・鬼道くんが知ってる私・・・?」
「そうだ。優しくて明るくて、俺たちをいつも励ましてくれるのがだ」
「・・・本当にそうなのかな?」
「え・・・?」




 はことりと首を傾げると、鬼道をじっと見つめた。
本当に自分は、鬼道が言うように明るくて優しい子なのだろうか。
そもそも鬼道は、何をもってそう評しているのだろう。
電話はしてくれても自分のことしか話さず、こちらのことなど一切聞いてこなかった鬼道の評価は正しいのだろうか。
本当は何も知らないくせに知ったような口を利いて、鬼道が見ているのは本物の『』ではなくて彼が望む『』ではないのか。
そうだ、そうに違いない。
だから何も訊いてこないのだ。
聞いて自分が望む答えと違ったものが返ってきた時にそれを認めるのが怖くて受け入れることができないから、あくまでも彼自身が考える像しか見つめないのだ。





「鬼道くん、私のこと知らないのにどうしてそんなこと言うの? 今の私は嫌い?」
「嫌いじゃない。今でも好きだから元に戻ってほしいんだ」
「でも私、アフロから悪魔呼ばわりされるような子だよ? 不動くんには疫病神とも言われた。・・・鬼道くん、ちゃんと私のこと見てる?」
「見ている! 頼む、元に戻ってくれ。俺はとは戦えないし、戦いたくない」
「そうだよ! 入院してる半田たちのことに任せてたのに、が駄目になったら誰が・・・!」
「円堂くん、そもそも私に任せることが間違いだったんだよ。私、サッカー部員でもなんでもないただの一般人なのに任せきりにして、どういうつもり?」
「でもは半田たちの友だちだろ!?」
「うん、友だちだよ。でも私は仲間じゃない。サッカー部員の半田たちの面倒見るのは仲間の役目でしょ?」






 自分には、仲間と呼べる人がいない気がする。
どこの部活にも属さず、外部の組織にも与しない自分は世界中の人々の取り残されているといってもおかしくはない。
1人でいることは別にどうとも思わない。
元々、そういったしがらみが嫌いだから仲間は必要なかった。
だから、代わりに友だちは大切にしてきたつもりだった。
けれども、もしかしたら友だちだと思っていた人は実は友だちではないのかもしれない。
鬼道のことは友だちだと思っていたが彼はそうは見ていなかったようだし、しかも、何も話を聞こうとしてくれなかった。
話さなかったのも悪いし鬼道も忙しかったのだろうが、少しくらい時間を割いてくれても良かったのではないか。
訊かれれば話したいことはたくさんあったのだ。
半田たちのこともサッカーのリハビリについても日常のことも、いくらでも話すネタはあったのだ。




「鬼道くん、もっぺん考えてみない、私のこと。今からでも遅くないよ、私のこと嫌いになるの」
「やめてくれ・・・。何をされても俺は、を」
「うん、だからそうまで思ってくれる優しい鬼道くんに私は合わないんじゃないかな」




 話が終わったと思ったのか、研崎がにやりと人の悪い笑みを浮かべの隣にやって来る。
試合の指揮を執ってくれますねと有無を言わさぬ命令口調で言われると、精神がエイリア石の支配下に置かれているせいか頷くことしかできない。
本当は今でも心のどこかでは早く解放してほしいと思っているのだが、この調子では鬼道はきっとそこまで考えが及ばないだろう。
は覚悟を決めると、風丸たちへと向き直った。






こっちを採用していれば鬼道さんルートだった(かもしれない)




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