世界の中心は移動する
駅近くの待ち合わせ場所として有名な噴水の前。
ではなく、そこから数十メートル離れた何の変哲もない電信柱の前が賑わっている。
ああ、今日はそこに陣取ったのか。
豪炎寺は先着していたらしい同行相手を迎えるべく、噴水から背を向けた。
人だかりをドリブルよろしく切り抜け、目的の人物の前へ躍り出る。
案の定、人間のみで構成された円形劇場の中心にででんと仁王立ちしている見飽きた顔がいた。
「待たせたな」
「おそーい! ほら、ちゃんと私の連れ来たでしょ。見てよすごいイケメンでしょ、まあ見た目だけなんだけどね」
放っておけばこのままそこそこの人数の観衆に向けて罵詈雑言を演説しそうな勢いのを、包囲網から引きずり出す。
待ち合わせをするたびには包囲されている。
ひとりならどこかへ遊びに行かないかと、熱心に誘われている。
迎えに行くまで囲まれっぱなし、まるで何かの撮影会のようだ。
豪炎寺は駅から遠ざかりようやくの腕を離すと、どうして噴水の前にいないんだと詰問した。
「だってみんなあそこで待ってるから、修也がうっかり私じゃない子に声かけちゃうかもしれないじゃん。それってナンパだよ、口下手な修也が振られるのは見たくない」
「そんなことしない」
「修也が先に来てたら女の子みんな修也に目がいっちゃうだろうし、見た目だけイケメンな修也のせいで世のカップルが破局する地獄も見たくない」
「そんなことはない」
「後はまあ、噴水は遠くから見た方が好き」
「そうか」
電信柱の前でぽつんと立っていただけのの方がよほどカップル間の風紀を乱しているような気もする。
噴水の前で誰々くん来ないね~とガールフレンドらしき女子から心配されていた顔見知りの誰々くんが、の周囲にいたなんてそんな、きっと誰々くんは分身フェイントの使い手なのだ。
見えていない聞こえていない、はただそこにいただけなので直接手は下していない。
「ていうか、何もなくて朝から電信柱に張り付いてるわけないって話」
「電信柱を待ち合わせ場所に選ぶのは、探す俺に対しても失礼だと思う」
「ていうかマジでよくわかったよね~。もしかして修也、私に何かつけてる? 背中痒いのはそのせい? んん?」
わかるに決まっている。
世界の中心が私の居場所ねと言わんばかりの目立ちようだった。
豪炎寺はしきりに背中を気にしだしたの背後に回ると、真っすぐぴんと伸びた背中に付いていたてんとう虫をそっと叩き落とし、何もと答えた。
え~服に染みついてんじゃん!