嘘と本音の境界線




 好きと言われたことは、あまりにも衝撃的な出来事だったが嬉しくてたまらない。
しかし問題は、その言葉を引き出すに至った過程だ。
自意識欠乏のお前を1人にしておくと危ない、今どこにいるんだと電話越しに尋ねられたは言葉に詰まった。
不審者もストーカーもいない。
隣にいるのは悪戯の首謀者から恋のキューピッドにクラスチェンジを果たした南沢だけだ。
ここは一か八か、おねだりしてもいいだろうか。
ひょんなことから恋愛成就したお祝いとして、キューピッドにストーカーになれとおねだりしてもいいだろうか。
いや、おねだりして何がなんでもそうなってもらうしかないのだ。
は南沢に向き直ると、ひょこんと頭を下げた。




「南沢先輩っ」
「礼なんていらねぇよ。こっちも明日から倉間をからかうネタが増えたわけだし」
「お、お願いがあります!」
「いいぜ言ってみろよ」
「ほんとにいいんですか!? 私結構滅茶苦茶言いますけどいいんですか!?」
「可愛い後輩のわがままくらい、たまには聞いてやらないとな」
「じゃあ、じゃあ・・・! 南沢先輩、どうにかして私の後つけてたストーカーになって下さいありがとうございます!」
「・・・断る、礼は聞かなかったことにしてやる。断る」
「倉間に嘘ばれて、意地張った倉間がさっきの告白も嘘だったとか言ってきたらどうするんですか!」






 そんなこと言うほどあいつ馬鹿じゃないよ。
いいえわかりません、倉間は馬鹿じゃないけど意地っ張りの捻くれ屋さん入ってます!
一度はわがままを聞くと言ってくれたにもかかわらず尻込みし、心の狭さを見せつける南沢の胸をはどんと押した。
しかし細く見えてもサッカー部で鍛えている南沢の腹筋は固く、あの倉間にしてチビと言わしめるの体はあっけなく跳ね返される。
この先輩野郎、案外腹筋が割れているのかもしれない。
細マッチョのフェロモンストーカーもいていいではないか。
新感覚のストーカーは新鮮味に溢れていて、なかなかに注目度が高いと思う。
ひょっとしたら、内申書ではないかもしれないが公的な一生残る文書に新感覚ストーカーとして名が刻まれることもありうる。
ホクロだか汚点だか知らないが、オプションはつけていて損はないはずだ。
後ろに倒れ危うく尻餅をつきかけたの腕をつかみ引き上げた南沢は、背後から感じた視線に一度救出したから腕をぱっと離した。





「南沢さんが、不審者・・・!?」
「倉間・・・、お前馬鹿か?
「いや、馬鹿はと・・・・・・はぁ?」
「くくくく倉間! 違うよ、南沢先輩が勝手に不審者になっただけで私は浮気とかしないからね! 指切りする? する!?」
「ああ、うん。・・・えぇ?」






 あれ、この人って南沢先輩が言っていたようにほんとにお馬鹿さんだったのかな?
事態を飲み込めずとりあえず言われ流されるままに指切りをする倉間を、は安堵と不安な思いで見つめた。






「2人とも頭の中が揃ってバカップルか・・・」「付き合って1時間しか経ってないのにその称号は早いです!」




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