星屑の戦士たち




 結構長くまで走れるもんなんだねとベンチに戻ってくるなり言われ、首を横に振る。
ちっとも長くはなかった。
前後半フルタイム出場してもまだ足りないくらいなのに、後半途中で交代させられるなど短いなんてものではない。
一之瀬は震える膝を見破られないようベンチで待っていたの隣に腰を下ろすと、虚ろな瞳でフィールドを見つめた。
マークやディラン、土門たちはまだ走り続けているというのになぜ自分はここにいるのだろう。
なぜ、いたくもなければ侍らせたくもないベンチでの隣に座っているのだろう。
嫌だ。
そう小さく呟いた一之瀬の頭に、ひんやりと冷えたタオルが乱暴に乗せられた。




「そりゃサッカーバカには辛い仕打ちよねえ、カズヤが嫌がるのも当然」
「だったらどうして! 俺はまだ戦える、まだ走れるのに!」
「その足でほんとについてけんの? 私のマークそんなに甘く見ちゃやぁよ」





 グランフェンリルやってユニコーンブーストもやって、今も元気にかっこよく走り回ってるマークについてける体力まだ残ってんの?
の情け容赦ない問いに即答できず、うっと言い淀む。
はずるい。
マークのことしか見ていないように思わせておいて、実はこちらのこともよく見ている。
マークの周りはマーク同然とでも思っているのかもしれないが、それにしては隙のない完成された洞察力だ。
頼りになるような苛々もやもやさせるような彼女に目に、いったいどれだけの試合で救われてきたか。
一之瀬は、フィールドへ視線を向けたまま淡々と語るの言葉に耳を傾けた。





「私はドクターじゃないから難しいことわかんないけど、ここに来る前の地区予選とかリトルリーグの時のカズヤはもうちょっと打たれ強くて体力あったよ。
 マークたちの動きにももちろんずっとついてけてたし、そりゃ今日は前半飛ばしすぎたってのもあるだろうけど、カズヤ強くなって弱くなった」
「それで俺がわかると思ってる?」
「わかってるからつっかかってこないんでしょ。フレイムダンスする余裕もないんでしょ」
さあ、ほんとはマーク見てるふりして俺ばっかり見てるんじゃない? 俺のこと好きでしょ」
「は?」
「でも残念だったね。俺には秋っていう、ただの観賞用にすぎないとはまるで違う可愛い幼なじみがいるからね・・・」
「カズヤ、そのおめでたすぎるナルシスト脳も手術してもらってくれば?」




 私はマークが一番。
だって、勝って喜んでるマークも負けて悔しがってるマークも、一生懸命でかっこいいじゃない。
高く飛びすぎてマークの羽がもげちゃったら、また飛べるようにするために私が縫い直してあげるんだ。
は試合終了の瞬間まで走り続け、そして力尽きたマークを見やると、柔らかな笑みを湛え立ち上がった。
俺と、膝の震え方が一緒だ。
なんだ、俺もばっかり見てるじゃないか。
一之瀬は膝を抱えうずくまっているマークにそっと寄り添い、声をかけたと同時にしがみつかれているを頭にかけられたタオルの隙間から眺めた。


































 せっかく上げた評価を自らの手で再び下げるとは、やはり先日の優しいは幻だったようだ。
一之瀬は初めて会った秋に興奮しきゃっきゃとはしゃいでいるを嫉妬の籠もった目で睨み、はあとため息をついた。
マークはなぜ飼い犬を繋ぐ紐をすぐに離してしまうのだ。
もっと幼なじみを躾けようとは思わないのか。
一之瀬は穏やかに笑いながらを見ているだけのマークに窮状を訴えた。





「マーク、次会う時にはをもっとましな子にしててくれよ」
「ほう、カズヤのことだからてっきり次はを連れて来るなと言うと思っていたんだが、違ったな」
「・・・マークがいるところに必ずはいるんだから、来るなって言っても無駄だろ」
「そうかな? は気まぐれだから、忘れられる前に早く帰って来てくれ」
「当たり前だよ。散々言われっ放しのまま忘れられたら言われ損じゃないか。次こそ優勝するんだ」





 優勝して、今度こそあの口さがないを黙らせるような華々しい結果を見せつけてやるのだ。
うっわあ秋ちゃんカズヤにもったいないくらいに超いい子!
えっ、あ、ありがとうえっと、ちゃん?
きゃーこれが大和撫子かっわいー!
ようやく自身が紛い物の大和撫子だと認めたに向かって、一之瀬はうるさいと一喝した。






(カズヤ、 って言ってばかりでちょっと妬けちゃうな)




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