継ぎ接ぎだらけのフレンドシップ
テレビの影響力は、総帥のカリスマ性よりも絶大なものなのか。
あいつらが、最近流行りの男の姿をした乙女に見えてならない。
鬼道はチームメイトの鞄にぶら下がっているとてつもなく可愛らしいころころとしたぬいぐるみを一瞥し、持ち主の美的センスを疑った。
見た目と相反して、中学サッカー界に君臨するキングオブゴールキーパーは優しい心根の持ち主だ。
ぴよぴよきゃんきゃんと小鳥のようなさえずり、もとい喧しさで支離滅裂な無理難題ばかりを押しつけてくる幼なじみの要求にも笑顔で頷く、銀河のように広い心を持っている。
しかし、嫌なものは嫌とはっきり言うべきだ。
は手先が器用だなあと暢気に笑い、言われるがままに鞄にぬいぐるみをぶら下げる源田のことがたまにわからなくなる。
そして、源田のぬいぐるみを羨ましがりペンギンも作ってくれと頼み込む佐久間のことももっとよくわからない。
鬼道はゆらゆらと楽しげに揺れているぬいぐるみの持ち主2人にいいのかと、実に38回目の質問を発した。
「いいってああ、これか? やっぱり鬼道も欲しいんだろうぬいぐるみ」
「余計なお世話だ。・・・女子じゃあるまいし、そんなものをつけて恥ずかしくないのか?」
「が見て見て次郎くんみたいでしょそっくりって言ってくれたんだ。どこに恥ずかしがるんだ? 嬉しいの間違いだろう」
「そうそう。さんが見てみてまじろうくん皇帝ペンギン1号の右から1番目のペンギンさん作ったよって言ってくれたんだ。この、目がちょっととろんとしたとことかそっくりじゃないか、可愛い」
「まじろうって何だ。いつからそんなあだ名をつけられたんだ」
「源田と俺を区別するために俺のことは佐久間次郎の『まじろう』を取ったんだよ。さっきゅんでいいって言ったんだけどまじろうくんも可愛いだろ、ぶっ飛んだネーミングセンスで」
「ああ、まるで泥仕合だな」
何がさっきゅんだ、何がまじろうだ。
こちらなんて最初から今までずっと鬼道くんだ。
クラスが一緒になろうが座席が隣になろうが夏季合宿の肝試しでペアになろうが、嘘か真か口が滑って好きだ付き合ってくれと言っても鬼道くんだ。
そればかりか呼びも許可もしていないのに練習を見学し、挙句鬼道くん血がないと暴言を吐き散らかす。
源田や佐久間にはまともな声援を送っているのに、こちらに対しては冷たいだの人形だのと言いたい放題だ。
それもこれも源田が、ちょっと幼なじみが可愛かったあまり野放しにして好き勝手させのびのびと育てたからだ。
鬼道はスタンドからに褒められだらしなく頬を緩めている源田に無性に苛つき声を荒げた。
なぜだろう、を前にするとゴーグルをかなぐり捨てて感情を剥き出しにしたくなる。
このままだといつか殺意という名の感情が牙を剥きかねない。
これが最近流行りのヤンデレというものかもしれない。
「源田! キングオブゴールキーパーの名が泣くような顔をフィールド上で見せるな!」
「えっ、俺今どんな顔してた?」
「私に褒められたのが嬉しくて幸せいっぱいよーしこれからも気合い入れてやるぞって顔」
「なんだ、じゃあいい顔じゃないか」
「、源田に嘘ばかりつくな! 見学及び入学希望ならまずはキャプテンの俺を通せ」
「こーんないいスタンドあるのにサポーター1人もいないなんて寂しいだけでしょ。鬼道くんの金属音しか聞こえない練習見に来てあげてる貴重なファン、しかも女の子に何言ってんの」
「そうだぞ鬼道。いいじゃないか応援くらい、なあ佐久間」
「さーん、練習終わったらハッピーペンペン2観に行こうぜー」
「ここを待ち合わせ場所にするなハッピーペンペン2なら俺も行く」
ほら、やっぱり鬼道もと一緒にいたいんだ天邪鬼だな鬼道は。
ペンペンはダブル次郎くんと行くから次郎くん以外はお断り改名して出直してくること。
『ろ』と『う』はあるから大目に見ろというかなぜが決めるんだ!
仲間を、友人を苛めて何に愉悦を覚えるのか図に乗る女帝に同調し練習そっちのけでやんややんやと騒ぎ始めたぬいぐるみ組を、鬼道は羨望と怒りと寂しさと憎たらしさの混じった目で睨みつけた。
「妹のためにピンクのクマのぬいぐるみ作って下さい」「皮剥いで肉剥き出しのグロテスクテディベアは管轄外ですう」