百の愛より義理が欲しい!




 これは水泳部の西園寺さんからもらった包み。
あの箱は放送部の有栖川さん。
その袋は確か、隣の学校の女の子からもらったやつだったかな。
相変わらず大層おモテになる奴だ、みんな見る目がない。
はひと月経っても片付かない色とりどりの箱と袋の山を見つめ、それら所有者の澄ました横顔へと死線を移した。
サッカーボールを追いかけている時だけ目がいいのか、彼の視界には箱の山は入ってこないらしい。
薄情な男だ、こんな奴を彼氏として傍に置きたい乙女心がちっとも理解できない。
ちゃんはいつも一緒にいるからわかんないのよ、豪炎寺くんの良さが!
そう理不尽に詰られたのも、すべては文字通り外面がいい幼なじみのせいだ。



「ねえ、修也の良さって何?」
「・・・今日は何だ」
「修也のよくわかんない良さとやらのせいで私の友情の危機なのよ」
「意味がわからない」
「それはこっちの台詞なのおおお」



 立ち上がり、めいっぱいの力で体を揺さぶってもソファの上でくつろぎながら雑誌を読んでいる豪炎寺の体はびくともしない。
この細マッチョめ、そういうところが女の子に大人気なのか、そうなのか!?
細マッチョなら染岡も土門も該当するはずなのに、何なのだこの差は。
やっぱりファイアトルネードか?
確かにファイアトルネードは少年サッカー界ではぶっちぎりの一番に超絶かっこいい必殺技だが、それだけであんなに大量のバレンタインがゲットできるのか?
ちょろすぎるではないか、世の女の子!
見るなら必殺技以外にも注目してほしい、当たり負けしないタフなところとか疲れ知らずの体力バカとかもおすすめなのに。




「そうだ、
「なぁに、むっつりなのに超絶モテてモテて仕方がない修也くん」
「いきなりどうした、毎年このくらいじゃないか。別に珍しくもない」
「そういうとこ! いーい、知らないみたいだから教えてあげるけど修也はもらいすぎなの! 半田なんて秋ちゃんからの義理チョコ3つ! かわいそうだから私も特別にスペシャル友チョコあげたけど、それでも4つなの!」
「半田に? おれはもらってないのに」
「は? 欲しかったの? てか私に言うことあったんでしょ、なぁに?」
のチョコはどこにあると訊こうとしたんだが」
「ああ、ない」



 あ、動いた。
さっきまでびくともしなかったのに、今度は押しても引きずってもいないのに起き上がった。
見えていなかったはずの箱の山をひとつひとつ取り上げ送り主を確認しながら、本当にと念押しされる。
こんなくだらない嘘はつかない。
毎年2人でせっせと消化しているバレンタインの贈り物に、何が悲しくて処理の手間を増やす必要があるのだ。
が本当にないよと返すと、豪炎寺は眉を潜めた。
なぜ悲しそうな顔をするのかわからない。
欲しいなら欲しいとなぜ事前に言わなかった、もらえて当然と思っていたのかこのイケメンは。
半田など、プライドも何もかも捨てて土下座して上履きを舐める勢いで縋ってきたというのに。
あまりの真剣さに、初めから渡すつもりで用意してたんだけどねとは言い出せなかった。
言えなかったから、半田はそれを女王様からの下賜品のように大切にしているそうな
ちょっと怖い、引く。神棚とか仏壇とか祭壇とかに飾られてたらどうしよう。




「欲しかったの? そんなにたくさんあるのに欲しがりさんなんだから」
「どれだけもらうかじゃない、誰からもらうかが大事なんだ。、そんな態度でテニス部の副部長を振っただろう」
「テニス? ああ、修也ほどじゃないけどたくさん貰ってたみたいだから今更私のなんていらないでしょとは言ったっけ。え、なに、駄目だった?」
「・・・いや、合ってる」
「だったらいいじゃん。いいんだから修也も別に私からのなくていいでしょ。モテなくなったら上げるから、その時をありがたく待ってること」



 せっかく存在を思い出したらしい箱の山が、また置き捨てられている。
かわいそうに、幼なじみには誰に何も見えていないのだ。
は山から零れた箱を開けると、甘そうなお菓子を口に放り込んだ。




「いや、食ったら普通に箱は捨てたけど」



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