彼ジャージー争奪戦




 いついかなる時もファンはいるものだ。
それでこそアイドルだ、天使だ。
はふんふんと上機嫌でベンチへやって来ると、たまたま休憩を取っていたのか、はたまた場所取りをしていたのか先客の不動に今日の戦利品を突きつけた。





「見て見てあっきー、これだーれだ」
ちゃん」
「あったりー! えへへ、描いてもらっちゃった!」
「そうかそうか良かったなー。・・・世の中ほんと物好きばっかだな」
「んん? 何か言ったあっきー」
「いいや?」





 練習見に来てるイナズマジャパンのファンかと思ってたら私のファンだったんだね、超納得。
自重と謙遜を知らないのか、さも当然のように自身の人気ぶりを肯定するに不動はツッコミを入れる気概すら失くした。
のような思い込みの激しい子に対しては、後から他人が何をどう言っても聞いてはくれないのだ。
自分の考えが一番だと信じているに訂正を入れるだけ無駄なのだ。
そもそもきっと、また聞き流される。
不動はに一般常識を叩き込む家庭教師業は廃業すると決めていた。





「ていうかさー、やっぱ私にもジャージーの一着くらい支給してくれてもいいと思わない? 修也のジャージーちょっとぶかぶか」
「意外といい値段するもんな、ジャージー」
「そうそう。でも100均とかで買ったやつはすぐ破けちゃいそうじゃん? あっきー修也よりもちっちゃいし、もしかして私サイズの持ってたりしない?」
「持っててもこっちないからあげられません。つーかよく男のジャージー着れるよな」
「だって洗濯するからお下がりでもいいでしょ。修也センスはまああるし、お泊まりする時はたまに服借りてるから今更どうってことないよ」






 どうしよう、の幼なじみに嫉妬心しか抱けない。
ここはひとつ、強行軍で一度家に帰ってでもサイズのお古のジャージーを持って来るべきだろうか。
不動は洗濯したはずだというのに仄かに香っている気がしないでもない旧豪炎寺、現のジャージーからふいと顔を背けた。






ちっちゃいちっちゃい言ってるけど、悪意はない




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