甘さ合成甘味料由来
折れてしまいそうと言うほど華奢ではないが、お世辞にも肉付きがいいとは言えない体を壁と自身の間に閉じ込める。
何なのどうしたのと無邪気に尋ねてくる悪友の顔は、中身とはかけ離れた天使のような可愛らしさだ。
こんな状況になってて何がどうしただ。
もっと慌てるなり焦るなり照れるなりしろよ、こっちはそれなりに緊張してんだから。
半田は壁にぺたりと張りついているを見つめると、あのなあと声を上げた。
「自分が何されてるのかわかってんのか?」
「半田との鬼ごっこに捕まった感じ? きゃー捕まっちゃったーとか言やいいの? きゃー」
「んな棒読みで言うな、あと悲鳴は聞きたくない」
「じゃあどうすりゃいいっての。おやめになって半田くん、私には既に決めた人が・・・!とか言って半田突き飛ばせばいいの? よーしいくよー」
「違うよ。てかいないだろそんな奴。・・・あのな、今俺、に迫ってんの」
口に出して言うと恥ずかしさが3割増しだ。
半田は顔が熱くなるのを感じながら、壁をついている両腕に力を込めた。
こうでもしなければはこちらの要求を呑んでくれない。
本当はやりたくないような実はやってみたかったような、とにかくこうでもしなければならなかった原因はにある。
半田は大きく深呼吸すると、珍しくも大人しく壁と体の間に挟まっているの髪を一房手に取った。
「あの・・・さ、欲しいものがあるんだ」
「髪?」
「いや、これは雰囲気読んだだけ」
「そうなの? 私はてっきり半田が戦場にでも行くのかと」
「ここ日本だよ。俺、からそれをもらわなかったらに酷いことするかもしれない」
「いいよ」
「やけにあっさりだな!」
「受けて立ったげる」
「そっちかよ」
「大体何が欲しいの。私が半田にあげてもいいものなんて今日の宿題と修也のお守り役くらいなんだけど」
しっかたないなあそんなに欲しいなら鞄の中の宿題あげるからと鞄を指差すに違うと即答する。
どこまでボケていれば気が済むのだ。
と漫才をしたくてこうしているのではないのだ。
半田は意を決するとにぐいと顔を近付け、雑誌に書いてあったマニュアルを思い出しながらたどたどしく今日の本題を囁いた。
「欲しいんだ・・・。からじゃないといけない、じゃないと駄目なんだ」
「だから何が欲しいのか言ってよ、親友オプションであげるかもしれないでしょ」
「くれ。の・・・」
甘く、口に触れた途端に蕩けてしまいそうな柔らかな何かが唇を割り口内に押し込まれる。
人に強請るってことはそっちもそれなりに対価用意してんでしょうねぇ半田くん?
頭を動かせば額か鼻が触れてしまいそうなごく近い距離でがにやりと笑う。
しまった、間合いを詰めすぎて完全にの攻撃範囲内、しかも逃げられない。
から欲しかったものを手に入れ慌てて反転しようとした半田は、駄目よ半田どこ行くのと風丸以外には聞かせない甘えた声音で呼び止められ、悲しいかな男の本性でぴたりと足を止めた。
「もらい逃げはやぁよ。ねぇ半田、私にも何か渡すもんあるんじゃない? くれなかったら私半田にえへへ、どんな悪戯してほしい?」
「すること前提じゃね?」
「そうよう、いたいけな可愛い女の子に半田ごときが迫るなんざ、半田じゃなかったら今頃その顔フツメン以下になってたわよ。
ま、半田は元がフツメンだから変わり映えしなかったけど」
「フツメンで悪かったな」
「ったく、何読んだか知らないけどそういうのはいつでもほいほいやっちゃ駄目よ。
半田にだってもしかしたら半田のこと好きな物好きな子いるかもしれないんだから、そういう子キープする時に使わなくちゃ」
「ほんっといちいち余計なことしか言わないのな!」
「ああ?」
「とっ、とにかくほら、これやるからとりあえず向こう一年俺を貶すな弄るな! いいか、渡したからな!」
「これじゃせいぜい3日ってとこ?」
「ああもうじゃあ3日でいいからちょっとは大人しくしてろ! それにな、のさっきのだって保って5日「半田?」い、1ヶ月だよくそっ、観賞用の安売りしやがって!」
思った以上に小さくて大人しくて可愛く見えて調子狂わせやがって、これが観賞用の毒か。
恐ろしい毒だ、危うく捕食されるところだった。
先程までのなんちゃってプレイボーイごっこはどこへやら、いーっと顔をしかめ教室を逃げるように飛び出していった半田の背中をぼんやりと見送る。
油断していた。
どうせまた半田の独り相撲だと思い高を括っていたら、思いの外奴の攻撃力は高かった。
これがフツメンのギャップというものかもしれない。
イケメン幼なじみがこれをやると、逆にその顔を歪ませたくなり確実に手が出ていた。
半田のくせに、あれを私以外にも3日後以降にやろうとするなら邪魔しちゃお。
は半田から投げ渡された飴玉を口に入れると、むうと頬を膨らませた。
話題の壁ドンをやってみた!と思いきや、世は既に蝉ドンだったとはこれいかに