家庭教師ゲームメーカー・トライ




 真帝国学園対雷門中で発覚した詐欺事件以来、幼なじみとは口も利かなければ顔すら合わせていない。
相変わらず不良とサッカー選手の二足の草鞋を履いた生活を送っているのかもしれないが、長年付き合ってきた幼なじみを騙すくらいの性悪なので、
気にしたところでどうせまたのらりくらりと欺かれるのが落ちだろう。
は居間のテレビに映っていたフットボールフロンティアインターナショナルの日本代表イナズマジャパンの試合をぼんやりと眺め、楽しくないと呟いた。
相手が強いのか日本代表が弱いのか、相手の必殺タクティクスとやらへの対応策が常に後手に回っている。
調べればいくらでも出てくるであろう敵の行動パターンやフォーメーションを、研究した上で事前に封じるということを考えないのだろうか。
後手に回っては先制点を許し、リカバリーが今は上手く機能しているからいいが、攻略できないままだったらどうするというのだ。
明王くんならそこらへんの気配りできるんだけどなと呟き、無意識のうちに考えていた音信不通の幼なじみを思い出しは顔を伏せた。
彼は今、どこで何をしているのだろうか。
学校へも来なくなったおかげで、今の真帝国学園は誰が次の不良界の頂点に立つかで果てしない抗争が続いている。
決着がつく前に真帝国学園が帝国学園に統合されるという話もちらほらと聞くし、世の中先行き不透明なことが多すぎる。






「サッカーって、こんなにつまんないもんだったっけ・・・」





 楽しいと思えない試合を観るのは時間と電気の無駄だ。
は躊躇うことなくテレビの電源を切ると、編入先と噂されている帝国学園の学校案内パンフレットを開いた。
編入試験の理科がネックで、無事に編入できる気が微塵もしない。
家庭教師をつけてもらいましょうかと母は本気で話しているし、未来は不透明なはずなのに真っ黒だ。
頭ばっかり良くても人間できてないと意味ないもんと悔し紛れに喚いてみるが、所詮それも頭が弱い人の遠吠えにすぎない。
チャレンジとトライとヒットマンとどれがいいちゃんと尋ねてくる母から逃げるように今を飛び出し自室へ向かったは、タイミング良く鳴った来訪を告げるベルを聞きつけ玄関へと引き返した。
自分宛ての書留が届くなど初めてかもしれない。
手紙を受け取り差出人名を見たは、きっと顔を引き締めると極めて慎重な手つきで手紙を開いた。
一息に最後まで読み、同封されていた様々なチケットを見つめる。
本気なのか。今度は本当に、騙すつもりなく本心から言っているのか。
もう、騙されて痛い目を見るのは懲り懲りだ。
来てほしい、観てほしいと懸命に綴られた必死さが窺える不動からの手紙を、は黙ってじっと見つめた。
































 無事に手紙は届いただろうか。
いや、届いたという知らせは先日メールで着たので家にはちゃんと届いているのだが、は中身を読んでくれただろうか。
不動はベンチからスタンドを眺め、捜している人物が見当たらないことに肩を落とした。
やはり来てくれるはずがなかったか。
あんな酷い目に遭わせて悲しませてしまったのだから、が来たがらないのもよくわかる。
真帝国での出来事以来、とは疎遠になった。
初めのうちは誤解を解いてもらいたくて、に見せている姿が本当の自分でそれ以外の連中に見せている姿こそフェイクだったと弁解を試みた。
しかし騙されていたことがショックだったは顔も耳も貸さず、こちらも弁解を諦めてしまっていた。
一度は諦めたはずなのに、なぜもう一度トライしようとしたのかは不動も実のところはよくわかっていない。
確かに、がいなくて寂しくはあった。
嬢とお姫様のように大切に可愛がっていたの不存在は、想像以上に不動に精神的ダメージを与えた。
がいなくなったことでいつしか本当の自身を見失い、ますます荒れた偽りの性格に拍車がかかっていた。
歯止めが利かず自棄になっていく自分が嫌で、止めてほしかった。
本当の姿を見失っている自分に、光を当ててほしかった。
しかし、光はやってこない。
光に見放された現実は暗く、足元すら覚束ない。
思い通りにならない現実に嫌気が差し、更に荒れていく。
代表入りをしているにもかかわらず試合に出してもらえず、ようやく試合に出ても誰もついてきてくれない。
抜け出せない負のスパイラルに不動は完全に参っていた。
が離れた時から人生の歯車が狂い始めていた。





「太陽と北極星が見えないとこで生きてけるほど、俺は器用じゃねぇんだよ・・・」
「・・・・・・自業自得、だよ」
「・・・・・・」
「・・・明王くんの、馬鹿! 嘘つき! 何回私に嘘ついて騙したら気が済むの!? 嘘つきやめるって書いてたじゃん、やっぱり嘘しかつけないわけ!?」
嬢・・・?」





 馬鹿馬鹿嘘つき詐欺師と投げつけられる罵声に、不動はスタンドを仰ぎ見た。
送ったチケットに印字されていた場所へ目をやると、立ち上がった少女がしきりに叫んでいる。
絶叫しているを視界に入れた瞬間、不動の耳は彼女の声しか拾わなくなった。
じっと見つめると、相手が怯んだようになり言葉を切る。
しかしすぐに、先程よりも力強く真っ直ぐとこちらを見据え再び口を開いた。





「ここでもまた嘘つくの? 私に見せたいプレイはこれなの?」
「違う! 俺が嬢に見せたいにはこんなサッカーじゃない!」
「だったら早く見せて。もう、約束破らないで・・・」





 勝っても負けても構わない。
は、不動がもう嘘をつかないと宣言したことが嬉しかった。
嬉しくて、期待して愛媛からここまで足を運んだ。
しかし今までが見てきた不動のプレイは嘘つき時代と同じで、ぶっきらぼうながらも協力をするという本来の不動のプレイスタイルとは程遠いものだった。
この期に及んでまたもや嘘をつくのか。
嘘に嘘を重ねてもいいことは何もないというのに、不動はなぜ自らを解放しないのだ。
これが最後だ。
今日不動が嘘つきを返上しなければ、今後一切不動とはかかわらないし交渉も拒絶する。
お互い後がなかった。





「・・・嬢、嬢ってほんと勘違いばっかだな」
「は?」
嬢の前で証明しないと信じてくれないだろ。嬢は自分が見ないと信じない。ずっと待ってた、この時を」





 は今でもまだ信じてくれている。
信じているからここへ来てくれた。
が見捨てていないとわかっただけで、これからどうなるかはわからないが今だけは生きていける。
やはり、光を失った船は目的地へ辿り着けず彷徨ってばかりだ。
不動は鬱屈していた心が綺麗さっぱり晴れ上がったのを感じると、気分良くチームメイトへとパスを送った。






























 試合が終わり、一足先に合宿所へと引き上げていった仲間たちを見送りスタジアムを振り返る。
入場口からゆっくりを現れたに駆け寄ると、が一歩後退する。
どこにも行ってほしくなくて思わず手を握ると、がふっと頬を緩める。
何がおかしいのかわからず嬢と尋ねると、は顔を上げへにゃりと笑みを浮かべた。





「明王くん、今もそうやって呼ぶんだ」
「可愛いだろ、嬢って」
「うん、好き。・・・試合、お疲れ様でした」
嬢も、遠くから来てくれてありがとう。来てくれるか不安だったけど嬢見たらやる気になった」
「ずっと見てたもん、明王くんのこと。まあ、お手紙もらうまで明王くんが代表入りしてたって知らなかったけど」




 ずっとベンチにいたから当たり前だよねと痛いところを的確に刺してくるに苦笑を返した不動は、すぐさま真剣な表情に戻りごめんと言って頭を下げた。
嘘をついていたこと、を大切にしたくて偽りの姿を作っていたことが結果としてを悲しませたこと。
謝らなければならないことがたくさんありすぎて、何に対しての謝罪なのかよくわからない。
は小さく笑うと、もういいよと告げた。
きつかったでしょと逆に尋ねられ、不動は首を傾げた。





「明王くん不器用なのに、二重人格者みたいなことやって疲れたでしょ。これに懲りたらもう、面倒なことしないように」
嬢にはほんと敵わねぇな。あっち帰ったら帰ったでまた絞られそうだ」
「あっち? 真帝国学園なくなるって知らない? 帝国と統合するって話だけど」
「いや、初めて知った何それ編入届とかおふくろ知ってる?」
「うーん、どうだろう・・・。私、帝国の編入試験受かる気がしないから家庭教師探してるの。明王くんのせいだよ」
「なんで俺? あ、さては俺と離れたから勉強は身に入らなくなったとか」
「明王くんが理科教えてくれないから。帰って来たらまた教えてくれる?」
嬢が望むものならなんでも教えてやる。優勝トロフィー土産にするから、もう無視はやめてくれる?」
「仕方ないなあ、私はどっかの明王くんと違って嘘つかない、いいよ」





 帝国のこと詳しくなるために、サッカー部のイケメン2人にいろいろ教えてもらっとこうっと。
イケメンイケメンとほくほく顔で計画を立て始めたに、不動はすかさず今日出発の愛媛行きの航空券を握らせた。






凱旋帰国を果たした後は、密室でのかてきょープレイが幕を開ける




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