旗を掲げろ星を奪え




 ペテン師でもイカサマ師でもなく、魔術師だ。
自分から言い出したわけではないので訂正するのも恥ずかしいが、良かれと思って周囲からつけてもらった通り名をからかわれるのは気分が悪い。
彼女の後見人も後見人だ。
お前の口はと呼ぶためだけに付いているのかと言いたい。
いや、実際に言ったこともある気がする。
一之瀬は、自チームのキャプテンの背中に隠れいーっと顔をしかめている悪魔を見つめた。
チームに私物を、お気に入りの女の子を連れ込んでいいのであればこちらもとっくに秋を召喚していた。
これはマークのキャプテン権限だよマークってほんとに隠さないよねと説明してくれたディランにも、二言ばかり言いたいことがある。
親友のわかりにくい暴走をなぜ止めず、むしろアクセル全開にするように勧めているのかとお小言を言いたくてたまらない。





「カズヤも寂しいんだったら連れて来れば良かったのにぃ、マキちゃん」
「秋だよ。生憎というか幸い秋はどこかの誰かと違ってとても奥ゆかしくてまさに大和撫子でね、どこかの誰かみたいに大味じゃないんだ」
「ふむふむなるほど、つまりカズヤは秋ちゃんとやらを誘う勇気がなかったと!」
「・・・もう我慢できない。マーク、今日こそ君の幼なじみの面被ったただの悪魔燃やしていい?」
「え、悪魔? なんだカズヤ、カズヤもエクソシストにはまっているのか。あれは夜観ると怖いから昼の明るい時間にみんなで観よう」
「よーし、俺の進化したフレイムダンス改ですべての元凶を燃やす。前へ出ておいで、俺と一緒にダンスしよう」
「もちろん答えはノー」





 カズヤはこれまでもこれからもお呼びじゃないんで結構ですと続けると、はマークの背中にますます身を寄せた。
目に入れても痛いという感覚すら感じなくなった重病人マークが、大事な幼なじみが怖がっていると曲解してをそっと抱き寄せる。
カズヤはストレスが溜まって少し苛々しているんだと、そこだけは的確な情報をに伝えている。
しかし惜しいかな、確かにストレスは溜め込んでいるが主な原因であるにそれを言っても意味はない。
一之瀬は更にストレスを増幅させるしかないいちゃつきを目の前で見せつけてくるマークとを、苛つきに任せて引き剥がした。
こいつら、俺が1人で寂しい思いしてるって知ってていちゃつきやがって。
土門もなぜ止めるんだ、こいつらは、特には害悪でしかないただの魔王なのに。
一之瀬の暴行に、は予想通りきゃんきゃんと非難の声を上げた。





「そうやってすーぐに羨ましがるー。魔術師やってんなら好きな女の子の1人くらいささっと連れて来ちゃえばいいのに」
「じゃあ訊くけどマークは何なんだい? なんでもないマークを騙して骨抜きにしてるの方が俺なんかよりもよっぽどペテン師だろうに」
「マークは王子様でしょ。白馬とか超似合うから。私マークに助けてもらえるんなら茨に指ぶつって刺されてもいいし、毒リンゴだって丸かじりにしてガラスの靴わざと落とす」
安心してくれ。俺はに茨は触れさせないし毒リンゴも食べさせない。靴だって俺が履かせてあげる。
 もしもが呪いにかかって犬に姿を変えられたら、毒の沼地に入ってでもを助けるために真実の鏡を取りに行くよ」
「マーク・・・! ねぇ、マークはどうしてそんなのかっこいいの? どうしてそんなに私のこと好きなの?」
と知り合ったら好きになるしかないじゃないか」





 くっついていたらいたで暑苦しくて苛々するが、剥がしたら剥がしたでうざったい。
一之瀬はマークのことが好きだった。
チームをよく統率しているいいキャプテンだ。
日本で知り合い共に戦った円堂のような他を惹きつける凄まじいカリスマ性はなかったが、堅実な性格のマークのことも好きだった。
だが、あれはいけない。
にとんでもなく、何かの病気のように取り憑かれているあれだけはいただけない。
神様は不公平だ。
よりにもよってのような性悪女にゲームメークの才能を与えるなんて、神様は自分に対してはとびきり厳しい。
一之瀬はマークやディランと次の対戦相手のデータを覗きこんでいるを眺め、深く息を吐いた。
見れば見るほど日本に置いてきた愛しい少女のことが思い出されてならない。





「ほーう次はイナズマジャパン! カズヤとアスカが居候してたとこでしょ、どうなの」
「マークに負けないイケメンがたくさんいるよ」
「うっそマジで? その人たち人外なんじゃなぁい?」
、失礼なことを言ってはいけないよ。が知らない世界には、きっと俺よりもすごいサッカープレイヤーもたくさんいる」
「でもすごいプレイヤーと戦ったらマークはもっともーっと強くかっこよくなるんでしょ? だったら最終的にはやっぱマークが一番かっこいいってことでビンゴ」
にそうまで言われたらやるしかないな。次の試合もよろしく頼むよ、
「任せてマーク。・・・ああ、カズヤ」
「今度は何だよ」
「こそこそするのいいけど、私も日本語喋れるしわかるの」
「・・・それで?」
「なーんにも知らないと思ったら大間違い。体大事にしてハニーにかっこいいとこ見せてあげること」






 ああ、これだから本当にこの子は扱いにくくてたまらない。
マークはどうしてとこんなにも親しく、そして使いこなせているのだろう。
マークのことしか考えていないように見えて、実はチームのことはすべて見通しているのだからそら恐ろしい。
さあ円堂、君たちはこのトンデモ大和撫子にどうやって勝つつもりなんだい?
腕を組み堂々と仁王立ちしてベンチからフィールドを見据えているを従えたユニコーンは、現れたイナズマジャパンへ鋭い視線を送った。






金髪碧眼は、白馬だけではなくじゃじゃ馬娘も乗りこなせるのです




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