俺の宝物を紹介します
我がいとこには、門外不出の宝物があるらしい。
しかもそれはつい最近できたものではなく、かなり年季の入った宝物だとか。
はじめは夕香かと思ったが、訪ねれば必ず現れ、そしてここぞとばかりに妹自慢をしてくるので彼女は同じ宝物でも門外不出ではない。
では何だろうか。
人に、というかいとこにすら見せたくないとっておきの宝物とはどんなものなのだろうか。
ここ数年の豪炎寺真人の疑問はそれだった。
隠しているものほど見たくなるのは人間の性である。
知的好奇心が旺盛だと言ってもらいたい。
「もしもし? 今からお前んとこ行っていい?」
『今から? ・・・駄目だ、絶対に来るな』
「絶対って・・・。・・・あ、もしかして可愛い彼女連れ込んでるとか?」
『・・・・・・とにかく駄目だ、いいか絶対だからな!』
まただ。
週末ちょっとサッカー談議をしに行こうと思って誘ってもすげなく断られる。
ちょっと前まではいつでも来いだったのに、引っ越して雷門へ転校してからの彼は付き合いが悪くなった。
まさかあの男、本当に夜な夜な彼女かクラスメイトだかを家に連れ込んでイケナイ事でもしているのだろうか。
ありうる、なぜなら彼は女子にすこぶる人気の超イケメンだ。
「イケメンは女の子も選り取りみどりか。今度取り巻きの1人くらい紹介しろよ」
『そんな子はいない。ふざけたことしか言わないんなら切るぞ』
「俺、茶髪セミロングでとにかく明るくて可愛い子がタイプなんだけど。修也と一緒の好みだから結構見つけやすいだろ?」
『安心しろ、見かけても絶対に真人には教えない』
へらへらとふざけた事ばかり抜かすいとこからの電話を一方的に切り、豪炎寺は深くため息をついた。
茶髪セミロングで馬鹿じゃないかというくらいに底抜けに明るくて、見た目だけは申し分ない子なら今隣にいますが何か。
ソファーに寝転がり寝巻のショートパンツから伸びた足をぶらぶらと揺らし、暢気にバラエティー番組を観ている幼なじみなら目の前にいますが何か。
豪炎寺はと知り合ってから一度も、彼女の存在を真人に教えたことはなかった。
家が近かった頃は真人が遊びに来る日は何やかやと理由をつけを外に出させず、雷門に来てからは今日のように真人を近付けさせない。
だから2人も互いの存在を知らないはずだった。
との会話でも真人の話題を口にしたことはないし、真人の会話でも幼なじみがいるとすらカミングアウトしていない、
ひとたび女の幼なじみがいるとでも言ってみろ。
好奇心旺盛な真人は会いたい見せろ喋らせてくれ、可愛いのか明るいのか俺のタイプなのか風呂には一緒に入ったのかと次々と質問と要求をぶつけてくるに決まっている。
は見世物ではないのだ。
アイドルでも何でもないを不必要に男に見せるつもりは毛頭なかった。
ましてや、の容姿が好みのドストライクの輩になど、たとえそれが親族であっても見せるわけにはいかない。
「どうしたの修也、誰かからお電話?」
「ああ。、足癖が悪い。足を宙でぶらぶらさせるな」
「足が長ーい私はどうしてもソファーからはみ出しちゃうんだもん」
「嘘をつくな。俺ですらはみ出さないのにどうして俺より細くて小さいが出るんだ」
「あーわかった。修也、私の美脚生足に見惚れちゃって挙動不審になってんだぁ」
「ならない。俺はただ、身だしなみとマナーの話をしてるんだ」
「どうだか。・・・あっ!」
突然声を上げソファーから身を飛び起きたが慌てて上着を羽織り鞄を漁り、玄関へと向かう。
やばい忘れてたと焦った声で靴を履き、外へ出ようとしているを豪炎寺は急いで呼び止めた。
こんな夜更けにそんな格好でどこに行くというのだ。
寝巻の上から上着だけで足はそのまま剥き出しとは、襲って下さいと言わんばかりではないか。
世の中物騒なのだ。下着もろくにつけない若い娘が外に出ていいわけがない。
防犯講習も今度受けさせるべきかもしれない。
「どこに行くんだ、」
「ちょっとそこのコンビニまで。予約してたCD取りに行くの忘れてた!」
「明日でいいだろう。こんな遅くにそんな格好で外に行くな、危ない」
「そこまでだから大丈夫だよ、ぱっと行ってさっと帰って来るからさ、不審者さんが出てくる間もないよ」
「不審者はいつどこに現れるかわからないから不審者なんだ。・・・俺が代わりに取りに行く。それでいいか?」
「えっ、でもそれじゃ修也危ないよ」
「ほら、やっぱり危ないっていう認識はあるんだろう。大丈夫だ、すぐに帰って来るからこのままテレビ観てるか寝てるかしてくれ」
渋るから予約券をひったくり、マンション近くのコンビニへと向かう。
やはりを外に出さなくて正解だった。
人通りのない夜道はどこもかしこも危険地域にしか見えない。
しかし、コンビニならの家の近くにもあるのに敢えてここを選んだということは、週末泊まりに来るのを前提としていたのだろうか。
泊まるのが楽しみだからコンビニに寄るのを忘れてしまった・・・とは考えにくいが。
コンビニで予約券と引き換えに初回限定版のCDを受け取る。
ヘビメタなのか洋楽なのかハードロックなのか詳しい区分はわからないが、おそらくはまず大型CD店でも平積みされていないであろうアーティストの作品だ、
のことだからアイドルグループのCDだと高を括っていたが、見事に予想を裏切られた、
いついかなる時でも人の期待と予想を裏切るのそれは、もはや神業とも呼べる領域に達しているのかもしれない。
本当に、いったいいつからこうなってしまったのだろう。
昔はごくごく普通の可愛くて明るいというだけの女の子だったのに。
どうしてですかと暗にの父に尋ねると、良くも悪くも昔のママそっくりだからと朗らかに笑われた。
そうか、遺伝ならば仕方がない。
「新発売の・・・・・・、買ったら喜びそうだな・・・」
CDのついでに新発売のお菓子も買って帰ろう。
明日の観戦のおやつにでもしよう。
お菓子には目がないならばきっと、いや確実に喜ぶ。
ほんのりと温かな気分で豪炎寺がコンビニを出た頃、はもう1人の豪炎寺少年と相対していた。
いとこが隠しに隠していた宝物は、それはもう可愛くて綺麗な女の子だった。
真人は豪炎寺家へ強行訪問をした挙句遭遇した少女を前に興奮していた。
女の子を連れ込んでいるのではないかと冗談で言っていたが、まさか事実だったとは。
しかも、自分の好みドストライクの明るい女の子だ。
少し頭か目が弱いのか、先程からずっとこちらを修也だと勘違いしているようだが。
「で修也、CDは?」
「え・・・?」
「ほら、CD頼まれてくれたじゃない。やっぱ外暗くて怖かったからやめたの?」
「そ、そうなんだ」
「そ。じゃあ明日行くからいいや」
「ごめん、えっと・・・・・・」
「ん?」
しまった、彼女の名前がわからない。
そもそも彼女はいとこの何になるのだろうか。
修也と呼ばわっているあたり相当の仲の良さだとはわかるが、恋人ということでいいのだろうか。
恋人のこの字も今まで聞いたことはなかったが、あのクールでストイックな奴にも遂に春が来たのだろうか。
しかもこんなに可愛い子と。
どうしよう、どこまでの関係なのかものすごく気になってきた。
手を繋ぐ・・・くらいではないだろう。
お泊まりをする仲なのだからキス以上もやっていそうだ。
1つの布団の中で身を寄せ合って暖ではなく熱を貪り合うとは、むっつりスケベか。
悶々といとことその恋人(仮)の中について考えていると、調子が悪いとでも受け止めたのかがずいっと顔を寄せてきた。
近い、ちょっと近すぎやしないか。
いや、毎週末ゼロの距離になってしまっている彼女にとってはこの10センチ足らずの距離も天の川レベルの長さなのかもしれない。
何にしてもどうしよう、いとこの恋人をいとこに化けたことをいいことに食い散らかしたくなる。
背徳感は時として何よりも刺激的なスパイスになるらしい。
「さっきからだーんまりでどうしちゃったの? 外出て風邪引いた?」
「そう、かな・・・?」
「そうなの!? やぁだ、だったら黙ってないで気分悪いってどうして早く言わないの! ほら、今日はさっさと寝る! ったく、医者の息子が不養生してどうすんの」
「・・・さ」
「さ?」
「寒いんだ・・・。い、いつもみたいに暖めてほしい・・・」
「いつもみたい? ヒートタックルで修也がセルフカイロすればいいでしょ」
「えっ・・・。いや、そうじゃなくて・・・」
駄目だ、もう我慢と理性の限界だ。
タイプの女の子、しかも生足を曝け出している子を前にして草食系でいられる男がいるか、いやいない。
よっぽどのベジタリアンでない限り、結局男は皆肉食系なのだ。
誰だってそのすべすべとした触り心地の良さそうな肌に吸いつき撫で上げ、赤く染まる頬やら体やらを見たいのだ。
真人はの肩を押すとソファーに押し倒した。
何が起こったのか理解しきれていないがきょとんとした顔でこちらを見上げてくる。
うわあ、汚れを知らない純粋無垢な瞳だ。
罪悪感も覚えるが、それ以上に興奮させられる。
「ん? 眩暈とか立ちくらみがするほどに具合悪いの?」
「熱くしてほしい。心の中まで、体の内側から熱くしてほしい」
「だったらサッカーしたらいいんじゃない?」
「俺がFWであんたがGK・・・。そうだな、サッカーやろう」
「あんた・・・? ・・・え、あんた誰、ひょっとして修也のお面被った別人さん・・・!?」
「いとこの豪炎寺真人です。はじめまして修也の恋人さん」
「は!? い、いと、え、そんな人知らない! ぎゃあ修也ヘルプ修也の自称いとこに襲われるう!」
「はいはい、ここマンションだからお静か「!?」げ、修也」
家の騒ぎを察知したのか、家主が部屋に飛び込んでくる。
ソファーで揉み合っているいとこと幼なじみを見つけた豪炎寺の顔色がさっと変わる。
人の家で何してるんだ・・・ではなくて、人の幼なじみに何をしているのだこのいとこは。
豪炎寺は真人を引き剥がすとを抱き起こした。
修也が3人と意味のわからない混乱をしているに俺は1人だと答え、なんとか正気に返らせる。
2人までならわかるが3人は違う。
あと1人、どこから連れてきた。
ははっと我に返ると豪炎寺を見つめた。
修也と尋ねられたのでそうだと力強く返事をすると、良かったあと言ってへにゃりと笑う。
「あの修也のそっくりさん、修也のいとことかほざいて全然反省の気配ないから一度警察に引き渡した方がいいと思う」
「・・・いや、いとこなんだ。真人って言って、まああんな感じだからに紹介しなかったんだが」
「マジでいとこさん!?」
「マジでいとこです。すまん修也、お前の彼女があんまり俺好みだったんでちょっと味見しようかと・・・」
「彼女じゃない幼なじみだ。そうじゃなくても味見なんかするな!」
「そうだそうだ、もっと言っちゃえ修也!」
「だからお前にのこと言わなかったんだ。言うときっとお前はこうするから・・・!」
「いやでも、こんなに可愛い子が生足出してくつろいでんのに襲わない修也の方がどうかしてるだろ」
「真人のその発想の方がおかしいと気付かないのか!」
似た者顔同志がぎゃんぎゃんと揉め、おそらくは自分を巡って争っている。
なんというか、幼なじみがこっちで良かったなあと心の底から安心してしまう。
普段は駄目な部分ばかり見えてついつい文句を言っているが、真人少年に比べたら彼は立派だ。
これが片付いたらありがとうの一言でも言っといてやるかな。
はついでだから今日泊めて、絶対に嫌だ野宿しろと押し問答を続けている2人を無視して、お目当てのCDをいそいそと開けた。
念のため言っておくが、もちろんゲームは未プレイである