白雪姫ダーリン




 今日は、風丸がいつにも増してイケメンできらきらと輝いて見える。
は手を繋ぎ隣を歩く風丸をちらりと見つめ、すぐさまぱっと前を剥いた。
かっこよすぎて直視できない。
いや、いつもかっこいいのだが、今日はこちらが照れてしまうくらいにかっこよく見える。
これはいったいどういうことだろうか。
風丸には必要ないと思っていたし頓着もしていなかったがまさか、巷で噂のイケメンUP!とやらを習得したのだろうか。
反則だ、あれは元々イケメンの男には必要ない。
は空いている方の手で頬を押さえた。





「ん? どうした
「う、ううんなんでもないよ! 風丸くん今日も超かっこよかったよ! あとお泊まりありがと、すっごく楽しみ!」
「俺も、といつもよりも長く一緒にいられて嬉しいよ。今日はを独り占めできるし」
「風丸くんならいつでも好きな時に独り占めしてくれていいのにー!」
「そうなのか? じゃあ明日も明後日もずっと独り占めしようかな」
「きゃー、風丸くんがいないと寂しくて生きられなくなるかも!」
「寂しくて死んじゃうなんてウサギみたいだなあ。寂しくなんかさせないよ、よしよし」





 ってハンバーグ好き?
うんうん大好き超大好き!
のほほんきゃっきゃと風丸家への帰り道を歩く風丸とを、電信柱の影から鬼道が為す術もなく見つめていた。




























 お客さんだからと先に入らせてもらった風呂から上がり、風丸の部屋へと向かう。
部屋に入ると既に布団が敷かれており、真っ白なシーツの誘惑に勝てずにごろんと寝転がる。
こら駄目だろと風丸が嗜める声を上げるが、一度突っ伏した布団は心地良くて顔を上げるのが嫌になる。
風丸は小さく笑うと、布団に寝そべるの濡れた髪に新しいタオルを宛がった。





「こら、ちゃんと乾かさないと駄目だろ」
「お布団濡れちゃうから?」
が湯冷めして風邪引くから。おいで、乾かしてやる」
「ほんと!? やったぁ、はーい!」





 ぴょこんと起き上がり背を向けて座ったの髪にドライヤーを当てる。
頭は毎日撫でているから触り心地は充分知っているはずだったが、濡れた髪は初めてなので少しわくわくする。
綺麗な色だなあと褒めると、背を向けたままがありがとうと嬉しそうに答える。
ああ、これでは顔が見えない。
せっかく独り占めしているのだから、どんなの表情も見ておきたい。
風丸はドライヤーを止め立ち上がると、の前に全身鏡を持ってきた。
美容院みたいだなと呟くと、ちょっと恥ずかしいかもとが答える。
恥ずかしいことなどどこにもないではないか。
鏡を見ながらであればも髪の跳ね具合などチェックできるし、こちらも髪を乾かしやすい。
手櫛で梳いてやりながらタオルで水気を取っていると、気持ちがいいのか眠いのかがゆっくりと目を閉じる。
可愛い、白雪姫やシンデレラが足元にも及ばないくらいに可愛い。
可愛いという表現しか見つからない。
『可愛い』は世界共通語にすべきだと思う。





?」
「んー・・・」
「おーい」
「むぅー・・・」





 眠たそうな返事しか返さなくなったに少し悪戯したくなり、の頬をちょいと人差し指でつつく。
ひゃあと声を上げ目を開けたはきょろきょろと左右を見回し、鏡の中で笑いを堪えているこちらに気付き振り返った。
いじわる駄目と非難の声を浴びせるに意地悪じゃなくて悪戯だと返し開き直ると、がむうと唸る。
そのまま俯いてしまったのでさすがにやりすぎたかと思い謝るべく顔を近付けると、が不意に顔を上げた。





「喰らえ、スペシャルタックル!」
「うわっ・・・と言いたいけど、俺まだ風呂入ってないからそれは後で受けるよ。せっかくさっぱり綺麗になったをまた汚しちゃ悪いし」
「風丸くん汚くないよ!」
「そんなことないよ。それに、ちょっと汗臭いかもしれない」
「そうかなあ、風丸くん爽やかいい匂いだよ?」
「ああ、それは部活終わった後半田が持ってた香水借りたから」
「なるほど。でも半田、意外なの持ってんだなー」





 しかし、香水をつけていたはずの半田からは風丸と同じ匂いはしなかった。
爽やかといえば彼もそうだが、とにかく風丸ほどではなかった。
風呂場へと向かった風丸を見送り、は布団に寝っ転がった。
きちんと整理整頓されている清潔感溢れる風丸の部屋は、ガサ入れをしようという気分にならない。
どちらかといえば、そこの本棚に無造作に置かれている風丸のアルバムを拝見したいくらいだ。
今日は色々あった。
急に半田がイケメンになったかと思えば水も滴るフツメンに戻ったり、風丸に突然テイクアウトされたり。
ときめきすぎて、心臓がどうかなりそうだ。
だからかもしれない、今日はとても眠たい。
風丸の帰りを待ってお返しに風丸の髪を乾かしてやりたいが、どうにも間に合わない気がする。
風丸くんまだかなあ、ゆっくりしてきてほしいけどもうおねむだなあ。
はもそもそと布団に滑り込むと、少しだけ大きい風丸から借りた寝巻き代わりのTシャツを握り締め目を閉じた。





























 部屋にがいる。
客人用の布団に潜り込み、すやすやと眠っている。
あれ、どうして俺の家の俺の部屋にがいて寝てるんだろう。
こうなるに至った過程を思い出そうと記憶を辿るが、と何を話して何をしたかは思い出せてもきっかけが見つからない。
部活が終わってと手を繋いで帰っている、その間の記憶がどこにもない。
どこに行ったんだろう、俺の記憶。
風丸はの枕元に腰を下ろすと、めくれている布団をに被せ直した。
がここにいることは事実だから、理由なんか思い出せなくてももう関係ない。





「可愛いなあ・・・。眠り姫と白雪姫ってこんな眠り方してたんだろうな」





 彼女たちは正確に言えば仮死状態だったが、とにかく眠るもとても可愛らしい。
の寝顔を独り占めできたことに風丸はふっと頬を緩めた。
寂しかったのか、ぎゅうとTシャツを握り締めているあたりなど可愛くてたまらない。
風丸は物音を立てないように自身の布団を持ってくると、の隣に体を横たえた。
Tシャツを握っている手をゆっくりと外すと、今度はこちらの手をぎゅうと握ってくる。
眠っているせいなのか、日中よりも若干暖かいの手がじわじわと熱を伝えてくる。
冬にこうして手を握れば、湯たんぽに頼らない快適な冬を過ごせそうだ。





「俺も髪乾かしてほしかったけど・・・、それはまた次にすればいっか」





 次のお泊まり会はいつにしようか。
来月、いや、来週でもいいかもしれない。
風丸はの頭を優しく撫でると、夢の世界にダイブして久しいの耳におやすみと囁いた。






昨日はお楽しみでしたね




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