女神像は傷つかない
毎日見尽くして、とうの昔に見飽きたはずの体をまじまじと見つめる。
昨日と今日で何も変わっていないはずなのに、違和感を感じる。
登校時も隣を歩いていたのに、おかしいと思い始めたのは帰りのホームルーム前だ。
学校にいる数時間の間に、の身に何かがあった。
だが、それが何かまだわからない。
豪炎寺は終礼と同時にと呼ぶと腕を引いた。
何なのよと口を尖らせながらもされるがままに立ち上がったの周囲から机と椅子をどけ、ぐるりと一周する。
何を勘違いしたのか、思い思いのポーズを取り始めたに豪炎寺は動くなと厳命した。
「じっとできないのか」
「何よう、先にモデル扱いしだしたのはそっちでしょ。ご期待に応えて修也お気に入りのグラビアアイドルとおんなじポーズしてあげてんだから感謝してよね」
「勝手に見るなと言ってるだろう!」
「だったら洗面台の下に入れたりしないでよ。いった!」
不慣れなポージングでどこか痛めたのか、がわずかに眉をしかめる。
だから余計なことをするなと言ったのに、いつもは人の忠告を聞かない。
豪炎寺はポーズを取ったまま硬直したの膝へ視線を降ろした。
朝にはなかった絆創膏が膝にぺたりと貼られている。
グラビアアイドルとは似ても似つかない体格のが前のめりになり膝に手を置いた、まさにその指が絆創膏にちょうど触れている。
見つけた、これだ。
豪炎寺はの体を直立に戻すと、しゃがみ込んで傷口を検めた。
「朝にはなかった。これは?」
「怪我した」
「どこで、消毒は?」
「体育会の練習で転んだけど、ちゃんと洗って絆創膏貼ってもらった」
「誰に? 保健室の先生か?」
「先生いなかったから、名前忘れたけどなんとか君って人に貼ってもらった。てかなんで剥がしてんの?」
「貼り直す」
脇に退けた椅子を引き寄せ、を座らせる。
サッカー部員に怪我はつきものだから、絆創膏程度は常備している。
数時間経った今でも触れて痛いということは、かなり派手に転んだのだろう。
転んだ拍子に別の箇所も痛めていないだろうか。
腕を捻ったりしていないだろうか。
確かめたいが、がまともに症状を告白できるとは思えない。
本人に膝以外の痛みの自覚症状がないのであれば、様子を見るしかない。
豪炎寺は丁寧に絆創膏を貼り替えると、の鞄を手に取った。
今日はサッカー部休むから。
そう伝えると、が首を横に傾げた。
「なんで?」
「怪我してるのに放っておけるわけないだろう」
「怪我は放っとけば治るもんだよ?」
「家まで送る」
「送るんなら部活終わるまで待ってるから、サッカーバカはサッカーバカらしくサッカーしておいでよ」
「そんな気分じゃない」
「ちょっと転んだくらいで気分落ち込むって、責任重大すぎるからやめてほしい」
「やめない」
修也の頭の方がよっぽど怪我してる気がする。
ぼそりと呟かれた言葉には聞こえないふりをしてを立たせる。
おかしな歩き方はしていない。
背負うなら背負うでトレーニングになりそうだが、筋力と同時に張り手ももらいそうだ。
豪炎寺は運動場へ歩き始めたの足元を見下ろした。
いつもよりも軽やかなステップだった。
「ねーねー、こんなポーズもあったっけ?」「知らないし見るな!」