クリスタル製パラレルワールド




 突然、未来から子孫がやって来たと説明されてもはいそうですかと納得はできない。
未来というのはこれから起こる出来事で、今を生きているこちらと同じ時間に存在することはありえない。
実は光よりもニュートリノの方が進むのが速かったという相対性理論を覆すようなことが実証されればまた話は別だが、そうでない限りはやはりどう考えてもおかしいとしか思えない。
タイムスリップをするのはアニメや漫画の世界だけで充分だ。
は80年後の世界からやって来たと自称する円堂のひ孫とやらを、胡乱げな目で見つめていた。
どこが80年後の人間なのか、80年後らしさがまったく見えないのですんなりとは認められない。




「だだだって、円堂くんとちーっとも似てないのにひ孫って!」
「でも、ひ孫ってことは今の円堂の血は6分の1しか入ってないんだろ? こんなもんじゃないか?」
「サッカーバカの円堂くんが結婚してるんだよ! 信じらんない、円堂くん誰と結婚するの?」
「あ、そういうこと言ったら未来変わるからノーコメントです」
「言えないってことはやっぱこの子パチモンかもしれない」
「そこはもうほっとけよ、




 王牙学園の圧倒的なまでの強さに怯え、スタンドで真っ青になりながら試合を見守っていたはもういない。
散々に痛めつけられベンチへ引っ込んだこちらを初めこそは心配し真一真一と呟いていたが、そんな殊勝なもとっくの昔にいなくなった。
まあ、があいつらの興味持つのもわかるけど。
半田は未来人とその助っ人たちを興味と疑念の思い半分ずつで接しているを見つめ、ふっと頬を緩めた。
本気で未来から来たとか言ってるんなら相当の天才かただの頭おかしいキチガイだよとは、ひょっとしたらこれから先で会うことになるかもしれない連中に言ってほしくない。
未来からはるばる助けに来てくれるまでに親交の厚い仲間たちなのだ。
ここでが迂闊なことを言ったばかりに未来が捻じ曲がり、敵対するライバルにでもなられたら一大事だ。
半田は、助っ人たちのプレイについていける自信がなかった。
というよりも、雷門中学生でもなんでもない異国のサッカー選手とは、話す機会さえないような気がしてならない。





「残念だな、俺たちの世界では君と会えないなんて」
「そうなの?」
「ああ。・・・でも、会えない方が君にとっては良かったかもしれない」
「へ?」
「君みたいに魅力的な女の子ともしも出会ってしまったら、俺は君に好きな人がいるとわかっていても横から奪ってしまいそうだから」
「わ、さらっとナンパされてる! 真一にはできないことやってる!」
「そんなもんやらなくたっていいだろ、別に」
「そりゃそうだけど、でもシチュエーションとしてはこう、は俺のだから手を出すなとか言ってみたくならない?」
「何だよ、言わなきゃあっちに靡くのかは」
「靡かないけど! もう、真一ってばそっけなさすぎる」




 わいわいぎゃあぎゃあと言い合っている仲睦まじい幼なじみたちを見守っていると、ふと心に隙間風を感じる。
あれ、何だろうか、この心にぽっかりと空いた穴は。
本当は満たされているはずなのに、彼らを、特にを見ていると心を作るパーツが1つ欠けているように感じる。
俺、上手く笑えてない気がする。
どうしてだろう、なぜ、彼女をずっと見ているのだろう。
一目惚れ? いいや違う、これはそんな漠然とした感覚ではなくてもっと、強いていうならば世界が。





「・・・違う、これは俺が知ってる世界じゃない」
「フィディオくん? どうしたの、ねえ、おーい」




 王牙学園も未来も過去も、すべてが色褪せて見えてくる。
ここはどこだ、俺が知っている世界はどこだ。
半田と並んで驚いた表情を浮かべこちらを指差しているに向かって、未来へ戻りつつあるフィディオは届かない手を伸ばした。






「・・・あいつ見てたらちょっとざわっとした」「あっ、それって焼き餅だよ、私が取られるかもって焼き餅妬いてんだよ」




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