あなたが射落としたのはどの子ですか
実力や才能がある者は、誰もが幸せに願いが叶うわけではない。
当方、フットボールフロンティア全国大会でもスタメンになれずベンチ止まり。
宇宙人を名乗るキチガイ討伐戦にも負傷のため同行できなかった、オーラのないサッカー部員である。
どこもかしこもぱっとしない奴に春も夏も訪れるわけがない。
周囲の刷り込みを完全に裏切り、半田は常春を満喫していた。
もっとも、春は今に始まったわけではない。
と出会ったその日から、半田は年中春を謳歌していた。
「でも、やっぱちょっとは世界で戦う俺を期待してたろ」
「ぜーんぜん?」
「何だよそれ。そこは嘘でも期待してたって言えよ」
「真一の実力は私が一番知ってるんだから買い被るわけないじゃん。それに、私は真一があっち行かなくて良かったって思ってるよ」
「それはそれで複雑なんだけど」
「だって真一がライオコット? あんなとこに行ったら私一人ぼっちじゃん。寂しいのもうやだ」
「・・・ごめんな、あの時は変なこと言って」
「嫌いになるわけないのに真一ってばとんでもないこと言うんだもん。思ってもないこと言うの禁止」
「わかったわかった。・・・ありがとな、俺やっぱじゃないとただの駄目男だ」
やっとわかったとかおっそーい。
ずっとといたからわかんなかったんだよ。
半田家のリビングのテレビの前に座りつつき合っていると、テレビ画面がイナズマジャパンの姿を映し出す。
今日は勝てるかな、勝ちに行ってんだから勝つんだよと勝利を祈り試合を見守る。
イナズマジャパンでもエースストライカーとして活躍している豪炎寺がシュートを決め彼がアップで映し出されると、はふいと画面から視線を逸らした。
なんというか気まずい。
世界にその名を知られつつある前途有望な少年、しかもイケメンに告白されたことが今でも信じられない。
彼は優勝して凱旋帰国したら、本当に再アタックしてくるつもりなのだろうか。
何度来てもはやらねぇよと宣言した時の半田は、それはもうかっこ良かった。
元々惚れていたが惚れ直した。
フツメンだから顔もぱっとしないとか、そんなハンデがどうでも良くなった。
よく考えなくても、顔なんぞどうとでもなるのだ。
可愛い女の子の隣を歩いていれば、半田もこちらのオーラときらきらエフェクトのおこぼれに与ることができるのだ。
「豪炎寺もやってんなー。・・・気になる?」
「べべべ別に!」
「ま、そりゃ気になるよな。豪炎寺男の俺から見てもかっこいいしサッカー巧いし、ファンクラブもあるって話だぜ?」
「焼き餅妬いたりする?」
「いいや? だっては俺のこと好きだし、俺もが好きなんだから妬く必要ないだろ」
「なるほど。でも、焼き餅妬かせてみたいかも」
「うわっ、悪い女。豪炎寺もなんでこんな奴好きになったんだか」
「真一?」
「冗談。金の斧の女神様よろしく、どんな俺も見捨てず拾ってくれるは世界一のいい女だよ」
「じゃあじゃあ、あのね」
は半田の肩に両手を添えると耳元に口を寄せた。
他に誰かがいるわけでもないのに耳打ちをすると、半田が間を置いた後に吹き出す。
そして笑いを堪えながらいいぜと答えると、試合が終わっていたテレビの電源を消した。
「ほんとにいいの?」
「それはこっちの台詞。いいに決まってんだろ、俺だってどんなだろうが両手で受け止めてやるよ」
「わ、真一かっこいい! じゃあ早速ダイブしまーす、ぼっちゃーん!」
「受け止めてやるしダイブしてもいいけど、勢いで俺押し倒すのはやめようなー。それはすっげぇ複雑だからなー」
「真一が知らない私その1は、いつもよりも積極的な私でした!」
通常でも充分積極的なのだが、それ以上となるとはどうなるのだろうか。
まあ、約束しちゃったんだし全部のを受け止めてやるか。
半田は暑くはないのか、すりすりと猫のようにじゃれついてくる積極的というよりも甘えたなの頭を愛しげに撫でた。
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