欺瞞だらけのアベレージ




 どこもかしこもぱっとしない、どこにでもいるような至って普通の中学2年生。
普通であることが個性と揶揄されるほどに、取り立ててこれといった特徴はない。
サッカー部に所属しているが、だからといってスポーツ推薦をもらえるほどの巧者でもない。
だから、彼がやっていることはすべて、世間一般の中学生ならば誰もがやっていることだと思ってもおかしくはない。
少なくとも、はそう思っていた。
思っているから、今こうして半田に身を委ねていた。
頭の奥を乱され、荒い息の下酸素を求め必死に呼吸する。
みんなやっている普通のことだと思えばこそ、背徳感も羞恥心もゴミ箱へ放り捨てられる。





「ねえ真一、訊きたいことあるんだけど・・・」
「なに」
「これってほんとに、普通のこと?」
「今更何言ってんだよ、





 本当に、心の底から何を今更と思っている。
半田は顔を上げると、の悩ましげに歪められた顔を見つめた。
『普通』と称されるのは好きでない。
自分のどこを見て、何を知って『普通』と評しているのか内訳を訊いてみたくてたまらない。
しかし、『普通』という嬉しくもなんともないステータスを利用し、楽しみを得ているのもまた事実だった。
自分の行動のすべては『普通』の範疇だと、周囲に知らせることができる。
誰もが自分を平均的な男だと思っているから、己がはったりや気まぐれでいくらでも平均を変えることができる。
他人は皆、平均的な自分を1つの指標として平均よりも少しでも優れているところを探し出し、自身がより優秀であると認識し悦に浸る。
流動的な基準に振り回され、そのたびに自らのステータスを確認する連中が滑稽でたまらない。
虚構の『普通』に共依存しているこの世界が脆くて浅はかで、笑いが止まらない。





「馬鹿だな、人の散々『普通』って言われてる俺が『普通』以上のことできるだけないだろ」
「そ、そっかそうだよね! だって、それが真一だもん」





 本当に馬鹿だな、も。
普通を自在に操る俺の手の上、体の下でいいように踊らされて本当に馬鹿で、そして愛おしい。
半田はぶつぶつと新しい『普通』のルールを叩き込んでいるに、にっこりと笑みを向けた。






俺が蹴るのはサッカーボールじゃない。基準を求めたがる連中が住んでる、緑溢れた丸い地球




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