ときめきは前払い




 中身がどんなに壊滅的で酷かろうと、どうしたって周囲を惹きつけてしまう見目麗しい悪友・・・の右。
引き立て役にしかなりそうにない、悪友の右隣で喋っている女。
おい聞いているのかと不機嫌な声で呼びかけられ、のろのろと視線を相手へと戻す。
俺、豪炎寺、悪友とその引き立て役。
豪炎寺の後ろには豪炎寺の幼なじみともう1人いて、俺は豪炎寺の顔を見て話を聞いているふりをして、引き立て役のを見ていた。
でもさすがは中途半端と言われる俺なだけはある。
俺にとっては計算しつくした、でも周りから見たら中途半端の域を出ていないらしい目のやり方は豪炎寺の鋭くておっかない目にあっけなく見破られ、そして今、どこを見ていたんだと詰られている。





「俺だって男なんだよ。むさ苦しい男の顔より女の子見てたいんだよ」
「それでこそこそと盗み見るように見ていたのか。変な目で見るな」
「いや、お前のお姫様見てたんじゃねぇし」
「ああ、そっちか」
「え、なんで納得してんだ豪炎寺。そこは普通『嘘をつけ男は誰だってあっちを見る』とか言うだろ」
「いや、半田ならえっと・・・・・・、・・・彼女を見る」
な、覚えてやれよクラスメイト」





 普通の健全な男子中学生は美少女を見たがる。
普通の女の子はイケメンと知り合いになりたがる。
俺は、俺自身は特になんとも思っていないけど周りの連中から見れば平均から抜け出せない普通の男子中学生らしい。
普通の男子が悪友の傍若無人ぶりについていけるものか、あれとの仲こそ俺が普通ではない証拠だ。
そう声を大にして言ってやりたい気もするけど、言ったところで世の中の大多数9割以上の男はもれなく悪友のような美少女が好きだから、どうせ俺の話なんて聞いてくれない。


 俺は普通じゃない。
普通の男子は美少女が好きだ。
これを命題とする。
俺は見た目だけは文句の言いようがない美少女の右隣のをたくさん見ていたい。
は特別可愛いわけではない、言っては悪いが普通の女の子だ。
隠しても仕方がないのでぶっちゃけよう。
俺はが好きだ。
これはおかしい。
普通と言われる俺は美少女が好きなはずなのに、普通の女の子に恋している。
つまり俺は普通ではないのだ。
は俺を普通に当てはまらない男にしてくれた。
・・・と、こんなことを言ったらは絶対に俺を嫌うけど。






「あー、たち何話してんだろ。さっきからちらちらこっち見てんだよ」
「どうせ俺の悪口に決まっている」
「俺は蒼月の話してんの。お前らほんと、もうちょっと話し合えば嘘みたいに上手くいくぞ」
「同じことを半田に言ってやる。どっちもどっちだ、半田も・・・・・・」
な」
「そう、も」





 あ、なんか今、豪炎寺がって呼んだ時ちょっともやっとした。
うわ、俺って全然関係ない奴にまで嫉妬するほどに蒼月に惚れてんのか。
やっぱりなあ、だってさっきから、いや、同じクラスになった時からずっと見てるもんなあ。
豪炎寺、やっぱの名前覚えなくていいや今すぐ忘れろ。
30秒も経たず翻意した俺の発言に、豪炎寺は意地の悪い笑みを浮かべた。






「でもやっぱ気付いてないだろうなー、ああ見えて鈍感だから」「どっちもどっちだと俺は思うが」




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