我ら帝国過激団




 自分の顔を見てから出直してこいと言いたい。
どの面下げてナンパしているのだ。
は、大してイケメンでもないにもかかわらず粋がって女子中学生狩りを敢行しているナルシストに苛立っていた。
どんなにかっこよく見せていようと、物心ついた時からイケメンには不足していない生活を送ってきたにとってやつはただの勘違い野郎だった。
美少女をナンパしたいのであれば、そちらもそれなりに顔か性格を整えてくるべきだ。
だらしなく気崩した、不良にもなりきれていない似非イケメンの似非不良に向ける笑顔など持ち合わせていないのだ。
だから、とっととそこから退いてほしい。
はナンパ野郎の脇をすり抜けようと体を動かした。





「おっと、どこに行くつもり? まだ話は終わってないよ」
「・・・・・・」
「照れちゃって、君って見た目どおりの可愛い子猫だね。ねえ、俺とお話して俺だけの子猫ちゃんになってよ」
「うっざい」
「あはは、声も可愛いね! 笑えばもっと可愛いよ、笑ってよ」





 好き放題喋るのは、聞き流している限り害はないのでまだいい。
だが、スキンシップを図ろうとするのはアウトだ。
見ず知らずの初対面の女の子がいくら可愛かろうと、腕をつかんだり肩を抱いたりするのは許せない。
婦女暴行罪かセクハラで警察に突き出してやりたい。
は、自らの肩に置かれた手を邪険に振り払った。
肩など、付き合いが長い幼なじみでもそうそう触ってこない。
誰の許可を得て触っているのだ。
馴れ馴れしくするな、気持ち悪い。





「怒っちゃった? ごめんね、君可愛かったからつい」
「謝りたいんならそこの交番行って自首してきて」
「あはは君、面白いね! もっと話してたいな、君と」
「あのね「君君って卵の黄身じゃあるまいし、名前で呼んでやったらどうだ、そろそろ」






 怒りが頂点に達し食ってかかろうとナンパ野郎へと顔を向ける直前、と男の間にぬっと第三者が割り込む。
がっしりとした体躯の長身の乱入者の背中をぼんやりと見つめていると、とんとんと横から肩をつつかれる。
すわ新手かと思わず身構えたは、つついた犯人の姿を認めわぁと声を上げた。




「お宅は帝国のイケメンさんで鬼道くんのお友だち!」
「良かった、やっぱり鬼道の友だちだった。ここはあいつに任せとけばいいから逃げようぜ」
「うんうん逃げる!」





 イケメンに連れられ逃げ出し、避難場所代わりの喫茶店に入る。
ありがとうイケメンさんと言って頭を下げると、イケメンは苦笑いを浮かべた。
苦笑する顔もイケメンだ。





「良かったあ、イケメンさんに助けてもらって。やっぱ鬼道くんみたいな紳士のお友だちは紳士なんだ!」
「イケメンイケメン言われると照れるから、いい加減名前で呼んでもらえるかな」
「あ、そういやお名前何ですか」
「佐久間次郎です。じゃあ、俺にも名前教えてくれる?」
っていいます。名前も知らない人助けてくれるなんて佐久間くんともう1人の人超かっこいい!」
「名前も知らない人についていくのもやめた方がいいよ、さんも」






 佐久間くんは鬼道くんのお友だちって知ってたから大丈夫だよー!
俺たちも、さんが鬼道の知り合いだってわかってたから声かけられたんだ。
パフェを口に運びながらわいわいと話し合っていると、お待たせという声を共に長身の男が現れる。
またイケメンだ。
はアイスがスプーンの上で溶けていくことも忘れ、新たなるイケメンに見惚れていた。
彼は確かGKのイケメンだ。
例によって名前に自信がないが、イケメンで鬼道の友だちならば名前なんて二の次三の次だ。





「さっきは災難だったな、えっと・・・」
さん。あ、こいつは源田っていってうちのGK」
「そうそうさん! 鬼道の友だちだったっけ? 鬼道、さんからのメール見るたびにニヤニヤしてるよ」
「そうなんだ! 鬼道くんのお返事いつもそっけないからお邪魔なのかと思ってた。ありがと源田くん、さっすがGKって感じの仁王立ちかっこ良かったー!」
「こいつ、威圧感すごいよな。ま、こういう時しか役に立たないんだけど」
「確かに、こんなに大きかったらお家のドアで頭とかぶつけちゃいそう」
「そう思うだろ? でも、実は髪型でだいぶ水増ししてる!」
「あー、そっちか! わかるわかる、修也もちょっと図体でかく見えるけどあれ、ワックスのおかげだもん!」






 こいつら、笑顔で無邪気にワックス愛好家の弱点ごっそり抉りやがって。
源田は注文したコーヒーに口をつけながら、きゃいきゃいと騒いでいる佐久間とを眺めた。
なぜだろう、自分だけとても場違いな気がする。
を喜ばせるためか、現場すぐのファーストフード店ではなくパーラーに入ったのも少し気になる。
まるでそう、こう言ってはいけないのだろうが、佐久間との周りだけきらきらしている。
お互いのパフェの味比べの食べ合いっこなど、鬼道の想い人とはまかり間違ってもやってはいけないと思う。
鬼道がもしここにいたら、弁解の余地なく制裁を受ける。
源田は、知らず知らずのうちに命がけの綱渡りをしていた佐久間に制止を求めるべく口を開いた。
うわぁすっごーいという華やかな声に遮られたのはちょうどその時だった。






「すっごーい、源田くんコーヒーにミルク入れないで飲んでる! すごいすっごい大人だ!」
「え・・・? そうか?」
「そうだよ! 私コーヒー苦くてお砂糖とミルク入れなきゃ飲めないもん。いいなー、大人だなー源田くん」
さんもそうなのか? 実は俺も苦いの駄目でさ、代わりに甘いには好きなんだけど」
「マジ? 私も甘いの超好き大好き! わあ、今度ケーキバイキングとか行こうよ! あっ、でも部活に響くから無理かあ・・・」
「行く行く! せっかくだから鬼道も誘おうぜ。ああいうとこって女子ばっかだから、さんいると入りやすい。源田、お前も来いよ」
「なんで」
「お前の男前さに女子見惚れるだろ。その間に俺たち、本日の限定スイーツとかごっそり取れるから。これも鬼道の恋路のためだ、協力しろ」
「どちらかといえば、佐久間の食欲のた「今度4人で行こうさん、メールは鬼道経由で」
「はぁい!」





 初めは緊張しているであろう鬼道が落ち着いてきたら、その時はお邪魔虫2人は退散して別テーブルに移動しよう。
それもこれもすべて、1人ではどうにもとの関係を発展させられていない鬼道のためだ。
2割、いや3割、本音を言えば4割ほどは自らの食欲を満たすための作戦だが、目的が同じならば有効活用すべきだ。
鬼道も可愛くて素敵な女の子を見初めたものだ。
これは応援しがいがある。
佐久間は源田と真面目にサッカー談義を始めたを見つめ、頬を緩めた。







「・・・ということがあってさ」「ほう・・・。では俺はまず、をナンパした無礼千万なクズを誅すればいいのか」




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