お試し中流家庭生活




 ゆうくんゆうくんと、うるさくて耳障りで腹が立つ。
豪炎寺は『ゆうくん』の話を延々と続けるにぼそりとブラコンと呟いた。
直後、どすんと背中を叩かれ言葉が伝わっていたと認識する。
事実を言っただけなのに、なぜ叩かれなければならないのだ。
ブラコンにブラコンと言って何が悪い。
思わずそう詰ると、今度は頬をぐにぐにと抓られる。
早く、の手が届かなくなるくらいに背が伸びてほしいものだ。
豪炎寺は頬に伸ばされたの手を邪険に払った。




「すぐに手を出す癖はまだ治らないのか。有人に言いつけるぞ」
「ゆうくん修也よりも私の言葉信じるからそんな脅し効きませんんー」
「・・・有人、帝国に行くならも連れて行けば良かったんだ」
「それは、ちょっと頭が足りなくて帝国行けずに木戸川通ってる私への当てつけですかこの野郎」
「そう聞こえたならそうなんだろうな。おかげで、俺がの面倒を見なきゃいけなくなった」
「もっとありがたく接しなさいよ。私ってば見ての通り可愛いから木戸川じゃ高嶺の花のさんって呼ばれてんの知らないの?」
「サッカー部の豪炎寺くんと付き合ってるから、どうあがいても手が届かないらしいな。これは立派な名誉毀損だと思う」
「まったくだ。うちのがお前などと付き合うわけがない」
「ゆうくん!」




 背後から駆け寄り、並んで歩いていた豪炎寺との間に割り込んできた少年には歓声を上げた。
おかえりゆうくん今日はどうだったと矢継ぎ早に尋ねてくるに笑顔を向け、ゆっくりと口を開く。





「決勝が近いから練習にも熱が入る。・・・負けるつもりはないぞ、修也」
「こっちこそ、帝国の連覇記録を止めてやる」
「すごいよね、ゆうくんも修也も1年生なのにもうレギュラーでしかもスタメン! やっぱちっちゃい頃から2人で一緒に練習してたのが良かったのかな」
「おかげで、決勝で最もマークすべき木戸川清修のエースストライカーの癖や実力は誰よりも知ることができたしな」
「それはお互い様だろう。は俺と有人のどっちを応援するんだ?」
「それが悩んで悩んでもう困っちゃう」





 家族がプレイする帝国を応援したいが、母校や幼なじみが敗退するのは嫌だ。
まだ小学生の春奈や両親は早々に帝国応援団になったが、こちらは身が引き裂かれる思いをしている。
うちに決まっている、いや木戸川だと不毛な言い争いを繰り広げている2人も結局はこちらの苦悩などわかっちゃいない。
むーんと悩んでいると、と名を呼ばれ我に返る。
何かと思い双方を見つめると、豪炎寺と愛すべききょうだいはにっこりと笑いかけた。





「「俺たちを応援してくれ」」
「へ? でも2人は敵同士じゃん?」
「片方だけ応援するなんて器用なことできるのか? 帝国を応援するのが嫌だが、有人単体を応援するのは許してやる」
「試合には夕香ちゃんとも来るんだろう? 夕香ちゃんの前で修也の足を引っ張るようなことは言えないし、その日だけは修也を特別扱いしてもいい」
「ゆうくん・・・、ゆうくんほんと優しい! じゃあ試合、修也はたくさんシュート決めて、ゆうくんはかっこいいゲームメークで木戸川の動き止めてほしい!
 でもって、どっちが優勝してもお祝いのケーキ作って食べよ!」
「試合前だから今は甘いの食べられないが、終わったら母さんと父さんに頼んでみよう。優勝祝いだからきっと大きなケーキを買うか作るかしてくれる」






 にこにこきゃっきゃとはしゃぐ家の幼なじみたちを見ていると、本当のきょうだいのように見えてくる。
仲が良すぎて、なまじ顔が似ていないから一見すると恋人のように思えなくもない。
有人、春奈と言ってるけどこんなシスコンに将来彼女ができる日は来るのだろうか。
好きなタイプはや春奈のような女子だと言い出しかねない。
も、こんなにシスコンなきょうだいがいたら彼氏作るの大変そうだな。





「いっぱいいっぱい応援するから、どっちが勝っても恨みっこなしだよ!」
「「もちろんだ」」





 どっちが優勝しても嬉しいんだろうけど、やっぱりゆうくんが勝った方が嬉しいかなあ。
は来たるべきフットボールフロンティア全国大会決勝戦を思い、へにゃりと笑った。






荒れ狂うシスコンとブラコンの嵐




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