軍服じゃなくって、制服を着ていた頃を想像してみよう。
どうせ中身は変わっちゃないけど。
Step:×× 幻の出会いでした
~やっぱり最悪だったけど~
クルーゼ隊に所属しているアスラン達ザフトレッドは、アカデミー時代でも1人を除いてはいつも一緒だった。
彼らは年齢こそ違えどもちろん同期である。
アカデミー始まって以来の最高点を弾き出し主席卒業したアスランを筆頭に、他の4人もずば抜けて成績が良かった。
時を共有して切磋琢磨した仲なのだ。
お互いを刺激しあって成績を伸ばすのは、いつの時代でもよろしいことである。
が、ただ1人、だけはアスラン達とはアカデミー時代に関係がなかった。
同じパイロット科に在籍していたのにもかかわらず、彼女と4人は顔すら合わせなかったのだから、世の中案外広いものである。
仮に彼ら5人に何らかの接点があったとしても、それはろくでもない事なのだろうが。
はアカデミーに行くと両親及び兄夫婦に宣言した時、それなりに反対をされた身だった。
それもそのはず、何のために大事な大事な嫁入り前の妙齢の娘をザフトアカデミー、しかも限りなく男性人口の多いパイロット科にやらなければならないのか。
確かにプラントでの主要式典などの一切を任されている、超ウルトラ級重要職務に就いている家が誇るお嬢様は、素晴らしい運動神経を持っている。
でも、だからと言ってわざわざ軍人になる必要はあるのだろうか、いや、ない。
のアカデミー入学事件は彼女の従兄であるアスランまでもショックのどん底に叩き落す、家の歴史の中でも最も衝撃的なものだった。
結果的には卒業後は家に戻るという本人の願いを聞き安心した両親が、笑顔で彼女を送り出したのだが。
そしてそのことはアスランには申告していない。
「今回のトップ層、女性が入ってますね。・さんですか、すごいですね。」
アスラン達は掲示板に張り出された試験結果の順位表を、それぞれ複雑な顔で眺めていた。
素直に彼女を褒めているのは、当時はまだ黒いオーラが決して多くはなかったニコルだけである。
イザークなどは露骨に顔をしかめている有り様だ。
「女が赤を纏うなんぞどういうことだ! ディアッカ、貴様女に負けるような腰抜けだったのか!?」
「いやぁ、ちょっと手抜きしちゃってさ。
しっかしすげぇな、って言えば俺はあの家しか思い浮かばねぇけど。」
ディアッカの何気ない言葉にアスランはびくりと体を震わせた。
まさかのことなのか、あの子本当に入学してしまったのか。
嫌な汗をかき始めるアスランだが、そんな汗かいてももう手遅れである。
「でも家のお嬢さまってそんな名前だったっけー。
ちょっと違くなかったかな、エザリアとかじゃなかったっけ。」
「それは俺の母上の名前だ! こんな女と間違えるな!!」
へらへらーっとした口調で話し、かつ名前も忘れてしまったラスティの言葉にイザークは鋭いツッコミを入れる。
傍から見ると、彼らの言動は漫才としか見えていない。
そう、本人が登場するまでは。
「そんなところに固まってたら邪魔なんだけど。」
冷たい女性の声がラスティのすぐ後ろから聞こえた。
突如割り込んできた声に驚き振り返ったラスティだったが、少女の顔を見て怪訝な顔をする。
「ねぇ、君ってもしかして 「知らない女の子の悪口言ってる暇あるんなら、さっさと次の講座行けば?」
彼の言葉を途中で遮り、少女は掲示板の前に仁王立ちしているイザークの背中に話しかけた。
イザークさえその場から2,3歩横に移動すれば、順位表は彼女の目にしっかり入るのだ。
「なんだと? ・・・俺にものを言うとはいい根性しているじゃないか、女の癖に。」
女など相手にするにも足りないと思ったのか、イザークは彼女の方に体は向けども、ろくに顔を見ずに居丈高に答えた。
しかし少女は彼の挑発に乗ることも反論することもなく、淡々と言葉を継いだだけだった。
「その・があなた達の知ってる家のご令嬢だったら、彼女なんて思うでしょうね。」
「ねぇ、だから君ってもしかしなくてもあの 「ラスティ!!」
またしても台詞を中途半端にカットされ落ち込むラスティだったが、そんな彼を気にしているほどこの場に余裕はなかった。
挑発したはずが逆に挑発されたイザークは、怒りで顔を紅く染め上げているし、ニコルは僕は傍観者ですよと言わんばかりに、にこにこと眺めているだけだ。
ディアッカも彼女の顔を見て思い当たる節があったのか、非常に曖昧な笑みを浮かべている。
アスランはわかってしまった。
イザークを挑発しているのはあろうことか本物の家のご令嬢であり、彼の従妹であるなのだ。
わかってしまったからこそ、彼はの正体に気づいたらしいラスティの台詞を強制終了させたのだった。
彼はに素早く近寄ると、周囲に聞こえないぐらいの小声で言った。
「ごめん、俺の知り合いが馬鹿言って。でもここは抑えてくれ。ばれたらまずいんだろ?」
「・・・あの人誰だか知らないけど、私こんなに侮辱されたの初めて。
でもいいわよ、ここはアスランの顔を立てて退散してあげる。」
アスランの必死な言い方にわずかな同情を覚えたは、怒りを収めてすたすたと去っていく。
もちろん掲示板の方を振り返りもしない、見事な去り方である。
が社交場に顔を出さないからこそまだ穏便に済んだことで、これがそうでなかったらなど、考えただけでもおぞましい。
彼女の姿が小さくなったころ、今度はぱたぱたとと同年代の少女が駆けてきた。
アスラン達の前で止まり、ものすごい勢いで頭を下げる。
予想だにしない少女の行動にぎょっとする5人だったが、彼女の話を聞きさらに目を剥く。
「さっきは友人がすごい剣幕ですみませんでしたっ。あの、彼女気が立ってたんです。
なんか何使ってもいいから教官を倒したら得点って試験ありましたよね。
それで彼女そこら辺の棒切れ1本をくるくるしただけで倒しちゃったんです。
でも教官そんなやり方認めないとか言って・・・。」
心底困ったような顔をして話す少女だったが、アスラン達はあの華奢な体のどこに大の男、しかも教官を倒す要素があるのかと思いぞっとした。
あの時イザークが下手に動いていたら、今頃彼はにこてんぱんにやられていたかもしれない。
アスランは従妹の計り知れないたくましさに感心しながらも、気を取り直しての友人に言った。
「俺達も悪かったんだ。こいつが謝っていたと彼女に伝えてくれないかな。」
「・・・この人がですか?」
謝る様子など全く見えないイザークを胡散臭げに見つめる少女。
別に彼女じゃなくても、いや、イザークファンの子以外なら誰だってそんな目で見る。
「あれ、シホ? そんな所にいたら馬鹿にされるわよ、早く行きましょ。」
「! 機嫌直ったの?」
「いつまでもぐずぐずやってらんないでしょ。てかあんな事に私の時間割いてらんない。」
「同感。・・・なんか気に障ること言ったでしょ、あなた。
でないとがばっさり人を切り捨てることなんてありえないもの。」
そう言うとまたぱたぱたと廊下の向こう側にいるの元へと駆けて行く少女。
取り残されたアスラン達の間には、妙な沈黙が続いた。
「・・・なんか。」
ディアッカがぼそりと呟いた。
「俺、あの子だけは敵に回したくないと思った。だってあの子やっぱ 「ディアッカ。」
言葉を続けようとする彼をアスランは制し、至極真面目な顔で周囲の友人達に提案した。
「俺達は・なんかに会ってない。俺らが知ってるのは、この紙に載ってる彼女の名前だけだ。
今あったことは忘れよう、いや、きれいさっぱり忘れろ。」
この日を境に、アスラン達の結束力はより強いものとなり、近い将来の5人まとめてクルーゼ隊配属の決定打になったと言われている。
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