聖夜に舞い降りるのはピンク、緑、それとも銀色の天使?
何にしたって何事も起こらないはずがない。














Step:××  デートに誘ってみました
            ~元婚約者と行こうコンサート~












 天候が管理されているプラントの冬は寒い。吹雪になる日もある。
厳寒からようやく解放された年末も迫ったある日、は外へと出かけた。
行き先は特には決めていないが、とりあえずザラの家は予定に入れておく。
行けば何かと楽しいし、軍の役職などを抜けばただのよく似た従兄妹だ。
もっとも隊でも彼らに公私の区別をつけるというような素振りはあまり見られないのが現実なのだが。













「さっむ・・・。早いとこアスランの家であったまろ。」










コートの襟を掻き合わせるとは早足で歩き出した。すると突然背後から呼び止められる、

















? こんにちは、今日も寒いですね。」



「ニコル。・・・どこかに出かけてたの?」













彼の後ろの大きな黒い車が目に入る。中から彼の母親らしき若い女性が会釈するのが見えた。
直接会った事はないはずだが、とてもよく似た、まるで姉弟のような親子であると聞いている。
も車に向かって軽く頭を下げた。
ニコルがなにやら紙切れを取り出し、彼女に差し出した。彼の口から白い息が出てくる。












「あさってあるコンサートのリハーサルに母と行ってたんです。
 よかったらも聴きに来てください。」







渡されたチケットをちらりと見ると、確かにそこにはピアノコンサートと書いてある。
どうやらゲストに誰か来るようだが、その顔まではよく見えなかった。
日付は24日、クリスマスイブの夜だった。











「24日ね。予定はないし、お父様達はどこかに出かけるし・・・。
 わかったわ、必ず行く。ニコルも頑張ってね!」






そう言うとニコルは安心したかのようにほっとした表情になった。
それからまるで、今思い出したかのような口ぶりで言った。








の服、綺麗ですね。もちろんも可愛いですけど。
 本当にあのアスランと従兄妹同士だなんて信じられません。」








用件を言い終わったか、ニコルはでは、と言って車の方に戻って行った。
取り残されたはもう一度コートの前を強く握ると、そのままザラの家へと向かった。
寒くてたまらなかったのだ。




















































 「様、お久し振りでございます。」




「ええ久し振り。アスランは今いますか?」












ザラの家はどこか堅苦しい。の亡き伯母の夫パトリックの役職のせいか、どことなく温度が低い気がする。
わいわいとメイド達と気軽に談笑している家とは大違いだ。
それでもは知らなかった。彼女が来ることでこの家に暖かさがほんの少し戻る事を。
案内されなくともザラ家の屋敷の構図ぐらいは覚えているだったが、されるがままにアスランの部屋の前まで誘導される。
中からはハロの声がやたらと聞こえてくる。
そういえばハロ持ってくるの忘れた、と今更思い出したがもう遅い。
彼女を連れてきたメイドがドアをノックする。










「アスラン様、様がお見えになりました。」







すぐさま扉が開く。中から出てきたのはアスランと無数のハロと、そしてラクスだった。







、外は寒かったろ? さ、中に入って。」









お邪魔します、と一応一言言ってから中に入る。
相変わらずだだっ広い部屋だが、今日は色とりどりのハロが跳ねているので少し狭くさえ感じる。
ラクスがにこやかにに挨拶した。










、お久し振りですわ。お元気そうで何より。」


「ラクスも。この間もテレビで観たよ。でもこんな所でハロと遊んでていいの?
 クリスマスコンサートとかあるんじゃないの?」







プラントのアイドルであるラクスがこのシーズン暇なはずがない。
クリスマスコンサートだか、ニューイヤーコンサートだか知らないが、さして愛情を抱いていない、
不本意の婚約者アスランに構っていていいのだろうか。
の心配を余所に、ラクスはもう終わりましたわ、と言い、彼女に1枚のチケットを差し出した。









「ラクスがイブの夜にコンサートやるんだって。なんとニコルと共演らしい。
 ニコルの腕前は凄いと思ってたけど、まさかラクスととはな・・・。」



「そうですの。まさかアスランのニコルさんの音楽センスがわかっているはずがないでしょうけど、彼とても上手でした。
 だからも来てくださいな。」









にこにこと効果音のつきそうな笑顔ではは受け取らざるを得ない。
ラクスのコンサートだ。しかも全席自由席ときている。
ファンにはたまらないだろうに、そんな貴重なチケットを1枚も多くがめてしまった。
これは意地でも誰かもう1人、一緒に行く人を誘わなくてはならなくなった。




















































 が、の思いとは裏腹に、イブの夜というのは皆予定がいっぱいらしい。
やれ恋人とデートだの、家でパーティーだの、なかなか相手が捕まらない。
そこうしているうちに23日、つまり前日になってしまった。
もはや手を打ち尽くしたが今やっている事は散歩である。
少し肌寒いが、ずっと部屋の中にいるよりはこっちの方が身体もなまらずに済む。
そう思いぶらぶらと歩き回っていると、見慣れた2人を発見した。
茶色の金髪と銀のおかっぱ、この妙に目立つ組み合わせがディアッカとイザークである事は言うまでもない。
ここはもうどちらかと行くしかないと腹を括ったりゼルは2人に声をかけた。
笑顔で迎えるディアッカと、不機嫌そうな顔で見てくるイザーク。これも予想の範囲内である。
はかくかくしかじか、事情を説明した。話している途中でイザークが横槍を入れた。












「何をぐちゃぐちゃと言っているんだ。要は行けばいいんだろうが。
 こいつはその日は予定が入っているらしい。チケットを寄越せ。俺が行ってやる。」



「うっそ。イザークついて来てくれんの?」



「貴様のためじゃない。ニコルの渡したチケットが余ってでもしてみろ。
 その話を断った俺にどんな被害が及ぶか。」













容易に予想できる事だった。誰も新年早々ジュール家にイザークのお見舞いになど行きたくない。
ディアッカがニヤニヤとデート?イブの日に? をからかっていたがそこはあえて黙殺して段取りを手早く決める。
まるで戦闘前の作戦の打ち合わせのように味気もなければ色気もない。緊迫感がないだけましだ。
少しして、が淡く微笑んで言った。









「じゃあ明日会場前で。ディアッカ、寂しいクリスマスを楽しんできてね!!」


「楽しくねぇよ・・・。」





ディアッカのぼそりと呟く声が風にかき消された。




















































 「お嬢様がイザーク様とコンサートだなんて・・・。
 いつもよりも若干力を込めてみました、いかがですか?」






プラント随一のセンスの良さと賑やかさを誇る家メイド軍団の団長が尋ねてくる。
もとよりに文句はない。いつだって彼女の好みの衣装だ。





「ばっちり。ありがとうみんな。まぁそんなに張り切るようなものでもないし、
 他に行く人いなかったからね・・・。」





それから短い間メイド達とラクスの話をひとしきりして外を出た。
雪が降ってきそうだ。空ももう薄暗い。
イザークの事だから、たとえ時間通りに着いても遅いだのなんだのと文句を言うかもしれない。
そう思い、急いで待ち合わせ場所に行く。いた。
あまりにも美しすぎて、容易には近づけないオーラを発している青年が。















「お待たせ、イザーク。待った・・・だろうけど、私だって時間前に来たんだからね。」



「5分ぐらいしか待っていない。行くぞ。」








愛想のかけらもない表情でそう言うと、すたすたと歩いていく。慌てて後を追う
ホール内に入ると、アスランらしき人物が目に入ったがイザークはこっちだと言うと。ほとんど彼と正反対の場所に座った。
見心地も抜群だし、熱狂的なラクスファンといった人々とも離れているようだ。










「楽しみだね。イザーク、ラクスと面識あんの?」


「あまりない。挨拶ぐらいなら何度かぐらいだな。
 お前は・・・、あるからチケットをもらったんだろうな。」








辺りが暗くなり、ざわめきが消えた。優しいピアノの音色が流れてくる。
それに乗るラクスの歌声。どことなく切なさ漂うその歌と伴奏は、双方の特徴を高め合って、より美しいものへとなっていた。
楽しそうにピアノを弾くニコル。その隣で歌うラクス。
ステージ上に2人の天使が舞い降りたかのようだった。









(すごいな、2人共・・・。)













 そうしてずっと聞き入っていた。やがて時は過ぎ、コンサートは終了した。
客席から絶え間なく沸き起こる拍手の嵐。もイザークも素直に感動していた。























































 「あー、雪降ってるー。どおりで寒いわけだもん。」








外は雪がしんしんと降っていた。イブの夜に雪。なかなかロマンティックなシチュエーションである。
近くの公園に大きなツリーがあり、そこは恋人達で賑わっている。









「あんなに1カ所に大勢の人がいたら興醒めだがな。いい場所がある。行くか?」








イザークがに尋ねる。彼が言うのだ。よっぽどの『いい場所』なのだろう。はこくりと頷いた。
用意していた車で小高い丘のふもとまで行く。ここは確か、ジュール家の別荘の1つだった気がする。
家の鍵を開け、2人は中へと入った。人気のない家の最上階へ行くと、そこに屋根へと上がれる階段があった。
先に上へと行ったイザークが手を伸ばし、を引き上げる。
そこから見えた景色には声を上げた。















「すごい・・・。雪が光って・・・、街全体がツリーみたい!!」



「いい場所だろう。この季節しか見れんからな。寒さを我慢すれば、ここ以上の眺めはない。」







自慢げに言うイザークだが。は何も答えない。
むっとして彼女を見やると、その水色の瞳はきらきらと輝いていた。顔は嬉しさでほころんでいる。
不意にが彼のほうを向いた。目が合う2人。









「イザーク、本当にありがとう。私イザーク誘ってよかった!
 また来年も連れてきてよ!」



「それは構わんが・・・。その頃も俺達は破談中か?」

「あ・・・。」







すっかり忘れていたという感じでがうつむいた。
イザークはそんな彼女を見て苦笑した。
来年もまだこんな奴との縁が切れていないだなんて、なんて自分は運が悪いのだろう、とこの時2人は思ったとか思わなかったとか。














































 「イブの夜にイザークと2人で無人の別荘に行ったぁ!?
 お前ら何そんなヤバい関係築いてんだよ!?」





「でもすごくきれいだったのよ?ずっと見てたいくらいに。」

「それはさすがに困るからな。遅くなって家の方々が心配されないように家まで送っていっただけじゃないか。」



「ありがとね、イザーク。」






後日、2人っきりで別荘に行ったとディアッカからの話から漏れ聞いたアスランが、イザークを倒そうと種割れを起こしたそうだ。







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