「はい? 婚約? 私と誰が?」






 、16歳。今日の今、彼女は婚約者のいる身になった。
そしてこれが、誰も予想だにしない騒動の幕開けの瞬間である。














Step:00  花嫁修業は戦艦でします
            ~戦艦に行ってきます~












 の住む家は、俗に言う名門とか、名家と言われる家系で、家といえば、知らない人はいない。
そしてこの主人公であるもそんな家に育った少女である。
似たような家と婚約するのもすでに分かりきっていた事だった。
が、いざ婚約しなさい、と言われてみると、さすがに動揺は隠せない。
珍しくうろたえる娘を前に、母は言った。






「いきなりの事で驚くでしょうけど、それはあちらも同じ事よ。
 まぁ、私から見てもあなたは若奥様っていう感じじゃないけど・・・。」



「お母様、それはフォローにはなっていません。
 それに婚約で驚いたのもあるけど、
 私、明日になったら軍人生活始めるんですけど。」






明らかに実の母親にまで、結婚は向いていないと思われている彼女の職業はなんと軍人だった。
といっても、特におかしい事ではない。
実際に彼女の従兄だって(エース)パイロットとしてどこかの隊で働いているし、
聞けば今度彼女の入隊する隊も良家の息子達がわんさかいるという隊である。
明日の今頃にはもこの中の一員になっている予定である。




ここまで来れば、性格といい気性といい、いったいどんな爆弾娘かと思われるだろうが、
この少女、比較的見目の良いコーディーネイターの中でも稀に見る超絶美少女だったのである。
青というよりも紺に近い肩の上まで伸びた艶やかな髪に、
空――――、彼女の住んでいる所は人工的に作り出されている空なのだが、
空の色を連想させる水色の瞳。
元来日焼けをしない体質なのか、真っ白な肌。すらりとした容姿。
その声も限りなく澄んでいてにこやかに談笑していればたいていの男性の心をがっちりと掴んで離さないだろうという、
アイドル並みの美しさの持ち主である。
それに加えて家の令嬢という肩書き付きなのだから、こんな女性は滅多にいない。
いや、彼女の知る限りもう1人似たような境遇の少女がいるのだが、彼女は婚約者持ち、
しかも本職がアイドルなので、数に入れない事にしておく。






が、こんな彼女になぜ今日の今日まで縁談の「え」の声もささやかれなかったのか。
理由は主に、




「軍人の嫁はちょっと・・・、何かあったら大変だし・・・。」



というものだった。もっとも本人にしてみても、そのように渋るところに嫁ぐ気などさらさらない。
また、彼女の両親も我が娘の性格を存分に知っていたため、縁談などの話にも消極的だったのだ。






そして今回の婚約話。なんと相手は軍人だった。
しかも明日からが行く軍艦に勤めているらしい。
何の仕事をやっているのかまでは知らなかったが、この話を承諾した時、の両親は思った。








「あの子も同じ軍人の嫁なら、何とかなるんじゃないかしら・・・。」
「共通の職業を持つという事は、彼女にとっても悪くないのかもしれない。
 それにこの家はもう継ぐ者が決まっているわけだし・・・。」









には年の離れた兄が1人いた。
特に特記すべきような事もない、まさか軍人でもない、いたって普通、
容姿にしてもおよそ兄妹とは思われないような、平凡な顔の平凡な兄である。
それでも温和な性格で、人当たりも良かったので、早々に他の家から嫁をもらって、
の家の後継者として正式に決まっていた。
つまり、彼女は何をしようが、ほとんどフリーなのである。
だから、彼女の両親も一通りのマナーと礼儀を身に付けさせると、後は結構おおらかに育ててみた。
その結果がこれである。
もちろんその事には後悔していないし、自身も今の境遇に満足している。







が、この度の婚約に関しての両親の思いは見事な誤算だった。

















 「いい、。向こうに着いて落ち着いたら一応相手の方と仲良くなっておくのよ?」






出発当日、母はに向かって今日何度目かの約束事を話していた。






「わかってますって。えーっと?ジュール様だっけ。
 イザーク・ジュール様。どんな人だろ。
 アスランの友達とかだったら手っ取り早いんだけどな~。
 あ~、でもアスランどこの隊にいるとか私知らないし。」






そんな軽口を叩くだったが、やはり緊張し始めたのだろうか、
徐々に真剣な顔つきになって、





「お父様、お母様、私、行ってくるね。
 一兵士として、立派に仕事、全うしてくるから!!」





普段滅多に見る事の出来ない娘の真剣な表情に両親は軽く涙ぐんだ。
はそのまま巨大な家に背を向けた。
軍人、ザフト、パイロット・・・。
忘れてはならない婚約者・・・。
彼女は軍艦へと飛び立っていった。


















 艦内に入った矢先、は窮地に陥った。
・・・道に迷ったのであった。









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