毎日毎日一緒に遊んだあの日あの時。
今思えば、当時が一番幸せだったかもしれない。














Step:10,5  それは私の親友です
            ~少年少女の出会う星~












 本当はコペルニクスなどには行きたくなかったのだ。
幼い、まだ6歳の幼児に過ぎなかったはそう思っていた。
大好きな両親や兄と別れ、なぜだか従兄にあたるアスランと一緒にあの地へ行くなど、考えもしなかった。











「いやっ。ザラのおじさまなんか、きらいっ!!」






そう言ってアスランの父であり、伯母の夫にあたる男を困らせ、嘆かせたことだってあった。
それでも何とか彼女をなだめすかして、コペルニクスにやって来たのはもはや奇跡としか言いようがない。










ごめんね。ぼくがわがまま言ったから・・・。」


「わるいって思ってるんなら、なんであっちでそう言わないのっ!?」





の気の強さに年齢は関係なかったようだ。
そんなこんなでコペルニクスについた早々、思い切りに怒られるなど多少のトラブルがありながらも、
無事にたどり着いたアスランとは、 そこでいたずら好きの運命の女神によって、2人の親友と出会う事になる。

















































 桃色の道を2人の子どもが駆けている。
よく似た紺髪の彼らだが、それは身分を隠してこの地で過ごしている幼いアスランとである。













っ、早くしないとキラがおそいっておこるだろ!?」


「そんなこと言わないでよっ、私だって・・・!!
 もうっ、少しは気を使ってよっ!!」







2人が向かっているのはもう少し先の桜に木下で、一心に花を見つめている親友の元だ。
茶髪に紫色の瞳をしたその、一見少女と見まごうばかりの少年はなにやらしきりに木の上に向かって呼びかけ続けている。
隣にやって来た2人はもとより眼中に入っていない。










「ごめんね!! だから、ゆっくりおりてきて! あぶないからっ!」


「「?」」









 初めて聞くその名前に2人は当然首を傾げる。
というのが人間なのか、はたまた犬か猫なのかを思ったアスランは、木の下へと移動する。
といきなり、きゃあっという可愛らしい叫び声と共に、茶色と言うには少し濃いめの髪の色をした1人の女の子が降って来た。
反射的に彼女を抱きとめるアスラン。
確かな重みを感じて腕の中へと目をやると、大きな真っ黒な瞳とばちりと目が合った。
少女の澄んだ瞳に写る自分の顔。彼女のその瞳の美しさに思わず見惚れていると、くいくいと服を引っ張られた。
腕の中の少女が言う。










「ありがとう。あのね、ずっとこうしてると重たいから、おろしてくれる?」







重みなどすっかり忘れ果てていたアスランは慌てて、けれどもゆっくりと彼女を地面に立たせた。
そしてけがはない? と優しく尋ねる。
少女、というにはさらに幼い彼女はふるふると顔を横に振ると、アスランの隣で心配そうに眺めているに向かってにっこりと笑い、








「私、っていうの。えっと、キラのおうちのとなりに住んでる。
 おなまえ、なんて言うの?」



と言った。姿だけでなく声も可愛らしく、話し方まで従兄妹のとは違い穏やかそのものである。
アスランは急にドキドキしだした心臓に驚きつつも、自分の肩ぐらいしかない彼女の高さにかがみこんで優しく言った。






「ぼくはアスラン。あっちの女の子は。ぼくのいとこなんだ。」



するとの元へ行き、にっこりと微笑んで言った。





「はじめましてってきがるに呼んでね。
 これからよろしくね。キラの友だちなの。」





一目見た瞬間にお互いこの人達とは仲良くなれそうだと思った3人だった。
どんどん親睦を深めて行く彼らの傍で、ずるいよみんな、せっかくないしょにしてたのに、とキラが怒っていたのは仕方がない。







































 それからはほとんど毎日4人で遊んで暮らした。
は2つ年下だったが、彼女もまたコーディネイターだからなのか、とても賢くて、
彼女が幼年学校に入ってからも普通に楽しく過ごした。
そんな日が何年か過ぎて、達が12歳、が10歳になった頃だった。
ある日、が実家からニュースを運んできた。









「お兄様が結婚されたんだって。」




が嬉しそうに言うと、もおめでたい事だね、と微笑む。
成長するにつれてどんどん美少女かしていく2人で、その人気ぶりも凄いのだが、
周りのキラとアスランが他の男には指一本触れさせまいとする勢いなので、
そのおかげかこの年まで2人に悪い虫はついていない。アイドル独占もいいところである。









 「結婚、か・・・。ねぇ、アスランはどんな結婚願望持ってる?」




にやりと笑ってキラがアスランに尋ねた。
いきなり話を振られて戸惑った彼だったが、やがてしみじみと寂しそうに笑ってから、






「父上が決めた、好きでもなんでもない相手と結婚させられるのかな。
 優しくて、笑顔も素敵で、僕の事理解してくれる人と結婚したいのにね。」




と語った。とても12歳の少年が話すような事ではない。






「そんな事ないよっ。アスランも好きな人と一緒になっていいんだよっ。
 早くそんな人、見つかるといいね!!」





がアスランの傍に行って励ますように言う。
優しくて、笑顔も素敵で、自分の事を理解してくれている彼女に言われて、アスランはそうだよな、と素直に喜ぶ。
そしてその傍らには、まったく相手にされず素直にいじけるキラ。
が、気を取り直して姿勢も正しくすると、キラはアスランとの間に座っているをまっすぐに見つめて言った。











 「僕は、みたいな可愛いお嫁さんが欲しい。」


「え!?」




真顔でそう言われ、本気で驚くだったが、ばかばかしいと思ったがキラの一世一代の告白にもかかわらずケチをつける。







「そんなのたとえよたとえ、だいたい、キラにはもったいないし。」


「・・・、ちょっと黙っててくれる?せっかく一世一代の大告白したのに!!」


「でもその言葉、確か先週も聞いた気がするけど・・・。
 ほら、『一世一代の僕の告白!』とか言って。」




にまでダメ出しされ、にはコケにされ、だがキラは俄然やる気が出てきた。
そして高らかに宣言する。






「いいよっ。僕はがうんって言うまで、いくらだってプロポーズするからっ!!
 みたいなお嫁さんは絶対にいらないよっ!!」




大人気ない発言にため息をつくアスランと、これからの先行きが不安になって思案顔になる
はキラなんてこっちからお断り、と言ってから淡々と言った。









「相手と相性合わなかったらまず無理じゃない。相性合う人とでないと、私きっと耐えられない。
 結婚生活なんてもってのほか。そんな人と結婚するだけ無駄よ。」





笑いながらが、それもそうだねと同調する。
するとすかさずキラが、





と僕って相性抜群だよね!!」





と早速アピールを始める。
結局の結婚願望はこれから先も聞けずじまいだった。
そしてこの数ヵ月後、は突如姿を消し、アスランともプラントへと帰り、4人は離れ離れになる。
3年後、再びがいない状態で再会した3人は、皮肉にも戦場で敵同士だった。

















































 「・・・てなこともあったわね~・・・。」





 アスランと2人で久々に他愛ない話をしていたが、いつの間にかコペルニクス時代の思い出話になっていた。
行儀作法を学んだにもかかわらず、かなり行儀の悪い頬杖をつきながら、は当時を懐かしむように言った。
あの時のの結婚願望聞きたかったわね、という彼女にアスランは苦笑した。
現実は甘くない。自分は父の決めた、好きでもなんでもないラクスと婚約させられているし、
にもまた、あれほど嫌がっていたのにまったく相性の合わないイザークという婚約者がいる。
そして今は敵味方を分かれているキラも、意中の相手本人が行方不明という有様である。








「夢なんて、儚くて叶わないもんなのかな。」




あまりにも消極的な従兄の発言が気に入らなかったのか、は頬杖をやめると眉をしかめた。
かと思うと、急にいたずらっぽく笑ってテーブルから身を乗り出し、声を潜めてアスランにささやいた。









「優しくてー、笑顔も素敵でー、自分の事を理解してくれる人だっけ?
 アスランさ、の事好きだったよね。ま、わかる気ももするけど。」




ちゃんと知ってたんだからね、と得意気に言うに向かってアスランはああ、と素直に答えた。
キラのように、なにふり構わず好き好き言っていた訳でもなかったし、誰かに気付かれるまでは、
いっその事このまま心のうちにしまっておこうとも思っていた感情だった。






「早くやキラと、また昔みたいにいっぱい遊びたいね。」

「そうだな。早く・・・。」




の言葉に導かれるように、かつて、幼く、淡い恋心を抱いていた少女の面影を思い浮かべるアスランだった。







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