毎日毎日遊びにやって来る戦友。
婚約者との仲は上手くいっているのだろうか。
Step:×× 友人2人は婚約者
~和菓子VS婚約者様~
家の訪問客があった。アスラン・ザラである。
彼は休戦後オーブに滞在していたのだが、大切な大切な可愛い従妹に会いたくなって、プラントへお忍びで戻ってきたのだった。
突然の訪問を受け、はとても驚き、その嬉しさから彼に抱きついた。
彼女が人に抱きつくのは直らない癖なのだが。
「、変わってなくて安心したよ。元気だった?」
「もちろん! アスランも元気そうで良かった!!
連絡くれれば外で待ってたのに。」
「そんな気を使わなくてもいいよ。
それよりも、今日は2人でどこか出かけようよ。」
どこにでも連れて行ってあげるよと言うアスランの言葉に、は素直に喜んだ。
そしてはっと思い出す。
そうだ、今日はイザークと会う約束になっていた。
の脳内でアスランとイザークを載せた天秤が動き出した。
イザークとは週に1、2度しか会えないし、この日を延ばせば彼と2週間会わないことになる。
しかしアスランは、次にいつ会えるかもわからないのだ。
「今日イザークと会う予定だったんだけどいいや。
アスランとは滅多に会えないしね。」
笑顔でそう言って、イザークにキャンセルの連絡を入れているを見て、アスランは満足していた。
従兄が婚約者に勝利した瞬間である。
結局その日、とアスランは水族館に行き、楽しい1日を過ごした。
イザークは不機嫌だった。
から連絡があって話を聞いてみると、今日はアスランが来たから会えないと言うのである。
これが婚約者への扱いか、とイザークは心の中で毒づいた。
間違っても声に出して彼女に言ったりはしない。
そうなれば最後、取り止めのない喧嘩が2人を待ち受けているからだ。
アスランがと一緒に笑いあいながら、自分の事も笑っているような気がした。
週に1度しかないとの日を潰されたイザークは、次の週に訪れるであろう、と会う日を待つことになった。
数日後、イザークは家へ通信をしてみた。
を呼び出すように頼むのだが、画面の中のメイドは困り果てたように言った。
「それが・・・、お嬢様最近どこへ行くとも告げられずに外に出てらっしゃるんです。
イザーク様ご存知ありませんか?」
「いや・・・、そうか。ではまた日を改めて連絡しよう。」
の居場所を知らないかと聞かれても、彼女に会ってすらいないイザークにわかるはずがなかった。
しかも彼女がいないのなら、次に会う日程も決める事ができない。
が帰ってきたら連絡を入れるようにと言付ければそれで問題は済むと思うのだが、悲しいかな、
イザークはなぜかその考えに達することはなかった。
そうして月日は過ぎていき、イザークとは2週間以上会わないことになった。
は決して失踪した訳でも、イザークに喧嘩を吹っかけているわけでもなかった。
彼女が向かう先はいつも同じ場所だった。どこであろう、ディアッカのいる別荘だ。
なんのためだか1人別荘暮らしをしているディアッカの所は、にとって憩いの場だったのである。
「ディアッカ様、様がお見えです。」
「またか? よ、。毎日毎日よく飽きないな。」
すっかりエルスマン家のメイド達とも顔見知りになっているはにっこりと笑いかけると、
彼女の大好きな和風庭園の見える縁側へと行き、そこに座り込んだ。
「だって好きなんだもん。ここ、落ち着くし。
和菓子だっけ、これすごく美味しいんだもん。私も作ってみよっかな。」
「好きって言ってくれんのは嬉しいけどさ、お前イザークはどうしたんだよ。
毎日俺の家来て入り浸ってんだろ、もう2週間近くこうしてるぜ。」
ディアッカはがここを訪れるようになってから、いつイザークにこの事がばれるか気が気でなかった。
様子から見て、がイザークと会っていない事は明らかだった。
しかしそれでも彼がを追い出そうとしないのは、実は彼自身も暇を持て余していたからである。
軍人だった相手に身体を動かしていると、筋力が衰えそうにもない。
「そういえば最近会ってないかも。
あ、それ私にちょうだい。好きなのよ、これ。」
「そりゃそうだろうな・・・。しっかしよく食うな。
しかもそれ俺の分だし。作れよ自分で。レシピ渡すぜ?」
綺麗に整えられた庭園を背景に、ディアッカとはお茶を飲みつつお菓子を食べつつのんびりと過ごしていた。
1週間と何日か過ぎたある日、通信してようやく現れた婚約者の美しい顔にイザークはほっとしていた。
「、久し振りだな。」
『うん。』
「今度会えないか? なるべく早く。」
『いいわよ。あ、この前いきなりキャンセルしちゃってごめんね。』
「いやいい。じゃあ決まったら連絡する。・・・あまり家を開けるなよ。」
『うん? あ、じゃあね。』
なんと味気ない会話だろうか。
話題の提供をしない自分もそうだが、この前のキャンセルとはもう3週間近く前のことである。
との疎遠さばかりが目立った声だけの会話だった。
「でーきた!! ん、美味しい!!」
は自分の作った和菓子の出来にそこそこ満足していた。
色合いが淡すぎるが、初めて作ったにしては上出来だろう。
は手早くそれらを箱に詰めると、玄関に向かって長い廊下を歩き始めた。
「お嬢様、どちらかへお出かけですか?」
「えぇ。ちょっとエルスマン様の別荘まで。
帰りはいつもと同じぐらいかな。」
メイドに行き先を告げるとは外へ出て行った。
大きな扉が閉まる音がしたその時、イザークからの通信が入る。
『嬢は?』
「たった今、エルスマン様の別荘にお出かけになりました。」
『なに? わかった、ありがとう。』
自分がエルスマン、と言った途端に画面の向こうのイザークの顔色が変わった気がしたが、メイドは気にしないことにした。
お嬢様のお友達は、変わった人が多いのである。
ひっくり返せばまともな人がいないとも言う。
「ディアッカ様、お客様です。」
「あ~、またか。よっ、。和菓子作れ・・・、イザーク!?」
例のごとくまたがやって来たと思ったディアッカは、いつもの調子で玄関に顔を出した。
しかしそこに立っていたのは紺髪の美少女ではなく、銀髪の美少年、イザークだった。
腕組みをして仁王立ちしたまま、イザークは至極不機嫌な声で久し振りだな、と言った。
「よ、イザーク。ど、どうした? まあ上がれよ。」
「ここでいい。・・・最近が俺の所に会いに来ないんだ。
今日で3週間を過ぎた。俺の婚約者がどこに行っているか、ディアッカ、知ってるか?」
明らかにが自分の所に入り浸っているのを知って聞いている、ディアッカは思った。
なんて答えよう、いや、今日が来なければとりあえずこの場は収まるんだ。
てかどうして今頃になってがここに来てるって知ったんだよ。
どうあがいてもどうにもならないのに、ディアッカはイザークの前で立ち竦んでいた。
「ディアッカー、ちゃんと作ってきたわよ、和菓子!!」
外から元気のいい声が聞こえてきた。
間違いない、あれはの声だった。
イザークはゆっくりと後ろを振り向いた。
あと2、3歩でイザークに届く、という所では足を止めた。
「イザーク、遊びに来てたの? じゃあ私は帰ろっかなー。
あ、これ2人で食べて! じゃあ!!」
そう言うとはイザークの前を通り過ぎてディアッカに箱を押し付けると、スカートを翻してだっと走り出した。
が、イザークが逃げようとするの腕を引っつかむ。
「、久し振りだな。」
「そうね~、2週間ぐらいかな。」
「3週間だ。ここで何をしていたんだ?」
「ディアッカとお茶とお菓子を食べてたの。
こうね、入り浸っちゃうのよね、この空間って。だから・・・。」
「話は俺の家で聞こうか。」
イザークはそう言うとを引きずって車に乗せた。
1人玄関に取り残されたディアッカはへたり込んだ。
また寿命が縮んだかもしれない。
イザークの部屋に連れて行かれ、は尋問を受けるかのような緊張感を持ってソファに腰掛けていた。
テーブル越しには不機嫌な顔をしてこちらを見つめてくるイザークがいる。
「なぜ俺に会おうとしない。ディアッカの方がいいのか?」
「違うけど・・・。だってイザーク忙しいし、私と会ったらまた疲れるかなって。」
「馬鹿か。俺は貴様と会うことで疲れを取ってるんだ。」
「へぇ・・・。あ、でもイザークに会わないのはそれだけじゃないのよ。」
「なんだ。」
は何か言いかけて口ごもった。
先を言うようにイザークが促すと、一気に言った。
「だって和菓子美味しいんだもん!! だからついつい入り浸ってしまって・・・。」
「待て。俺への興味は和菓子以下か?」
まさか、とは彼の言葉を否定するとうっとりと語りだした。
「毎日毎日出してもらえるお菓子が違うし、あのなんとも言えない甘さがいいのよね・・・。
私あの味にはまっちゃってから、ディアッカの家に遊びに行くのが日課になったの。
別にディアッカそのものに興味があった訳ではなく。」
イザークの体内でディアッカやつあたりバロメーターがものすごい勢いで上昇している。
を虜にした和菓子への嫉妬も含まれている。
そんなにに毎日毎日食べさせて、太ったらどうしてくれるのだろうか。
「・・・。太らない程度にしておけ。
それからディアッカの家には近づくな。家のメイドにも行き先ぐらい告げていけ。」
「了解ー。」
その翌日、ディアッカがイザークに過去に類がないすさまじいやつあたりを加えていた。
目次に戻る