暑い夏には海に行こう!
日焼け対策はしっかりとね。
Data××: 海に行きました
~スイカと並んでこんにちは~
今年の夏はどこかに行きたいな。
イザークは愛しい愛しい婚約者の言葉を聞き、本から目を離した。
滅多におねだりをすることがない彼女だ。
これは非常に珍しかった。
「どこか行きたい所があるのか?」
「うーん・・・、海とか行きたいかも。
行った事ないよね、イザークとは。」
「そうだな・・・。じゃあ今年はジュール家のビーチで過ごすか?」
の顔がほころんだ。
そして、いきなり携帯で電話を掛けだす。
アスラン? という声が聞こえ、イザークの眉間に皺が刻まれる。
海に行くのにどうしてアスランと連絡する必要があるのか。
まさかあいつもくっついてくる気か?
しかしはイザークの心情などどこ吹く風といった様子で、アスランとの会話を続ける。
「うん、そう。も連れて来て。
来る人? えっと、まだ誘ってないけどディアッカは呼ぶわよ。」
「ディアッカも呼ぶだとおっ!?」
突然叫んだイザークを、が睨みつけた。
携帯を耳から外し、いいじゃないの別にと窘める。
イザークにしてみれば、全然良くない。
「じゃあ詳しいこと決まったらまた連絡するから。
じゃあね。」
「・・・、何人呼ぶ気だ・・・。」
「アスランととその彼氏とディアッカ。
もしかしたらキラとラクスも来るかも。」
予想外の多さに、がっくりと肩を落としたイザークだった。
アスランから海に行こうと告げられた時、シンとは全く正反対の反応をした。
シンは顔を輝かせ行きます絶対! と即答し、はえ・・・、と戸惑ったのだ。
「私水着持ってない・・・。」
「今度が一緒に買いに行こうと言っていたぞ?」
「俺すっげー楽しみ。な、!」
サイズがどうとかとぶつぶつと呟いているの腕を掴み、満面の笑みで喜びを表現するシン。
は彼の顔を見て、ようやくにこりと笑った。
「そうだね。海と言えばスイカ割りだよね!
私、美味しいスイカの見分け方知ってるよ!!」
「すっげー、さすが!!
じゃあアスランさん、スイカは俺らにお任せということで!」
「あ、ああ・・・、よろしく・・・。」
スイカ割り、と聞いてアスランに妙な不安がよぎった。
何かとてつもなく大変なことを忘れている気がした。
そしてそれに気が付いた瞬間、アスランは急いでイザークに電話したのだった。
ジュール家のプライベートビーチは久々に賑わっていた。
今までほとんど使われてこなかった地である。
イザークもここを利用したのは一度か二度ぐらいしかない。
「・・・イザーク、スイカ割りの棒は考えただろうな。」
「ああ。俺は危うく凶器を用意するところだった。」
アスランはスイカ割り用の棒を手に取った。
本来ならばそこそこに硬度のある生木を使うべきなのだが、ここに棒術の達人がいるのでそうはいかない。
うっかり目隠しをした彼女がその類まれなる運動神経と、棒術スキルを駆使して人間に棒をぶち当てた場合、海が赤く染まる可能性があるのだ。
アスランもイザークも、もちろんディアッカもかの棒術の恐ろしさは身に沁みて知っているので、それはそれは真剣に代替品を選んだ。
そして選びに選んだ結果、今回は比較的殺傷力の少ないであろう竹を使用することにした。
後は、無事にスイカのみが割れることを祈るばかりである。
「、その水着可愛いな!」
「あ、ありがとう・・・。が一緒に選んでくれたの。」
「本当に可愛いよ、。」
「うん、ありが・・・。・・・キラ!?」
背後からの声に、とシンは同時に後ろを振り向いた。
そこには、笑顔のキラとラクスがいる。
といっても、ラクスはと発見すると、一目散にそちらに突撃したのだが。
シンはを庇うようにキラとの間に割り入った。
しかし、その必要はなかった。
がキラをこちらに来いと、手招きしたのである。
「何、。」
ラクスも加えた3人で、なにやら話し合っている。
それは面白そうですわ! というラクスの声と、僕だったらそっちを狙うよと言うキラの声が微かに聞こえる。
「何話してるんだろ、3人とも。」
「さぁ? どうせロクでもないことじゃね?
それより、水が気持ちいいよ!」
ぐいぐいとの腕を引っ張り海へと導くシン。
強引な彼に戸惑いながらも、苦笑しつつ水遊びに興じるだった。
イザークは海にも入らず、水着姿すら拝ませてくれないとぼんやりと眺めていた。
パラソルの下に座ってアスランやシンたちの様子を見ているだけだ。
イザークはなんとなく彼女の隣に座った。
「何もしないのか?」
「イザークこそ。アスランとビーチバレーでもしてきたら?」
「俺はそもそもと一緒に来るつもりだったんだ。
アスランたちはおまけに過ぎん。」
「私も、海はおまけなんだけどね。」
ま、いっかと言って立ち上がると、はイザークに笑いかけた。
いつの間にか上着を脱ぎ捨てて水着姿になっている。
予想通りの美しい均整の取れた肢体だ。
「よく似合ってる。」
「ありがと。素直なイザークに、これあげる。」
は上着のポケットからネックレスを取り出した。
イザークの腕に両手を回す。
よく似合ってる、と耳元で囁いたをすかさず抱きしめる。
直に触れる肌の感触がなんとも心地良い。
イザークは名残惜しげにを離すと、そっと首元を見やった。
水色に光る小さな宝石がきらめく。
「私のとお揃いなのよ?
お誕生日おめでとう、イザーク。」
「・・・ありがとう。
・・・今年は忘れなかったんだな。」
「当然。ケーキも焼いてるからね。
後でみんなでお祝いしましょ。その第一弾がスイカ割りなんだけどね。」
イザークはが指差した先にある、丸いスイカに目を遣った。
あれでどう俺の誕生日を祝うというのだ。
というか、なんなのだ彼女のその異様なまでのやる気は。
素振りなんぞしおって。
「・・・おい! その棒は使うな!
あれを使え!!」
「えーなんでー。竹じゃ駄目よ。
安心して、私が一撃でスイカをぶちのめ・・・、いえ、叩き割るから!!」
「やめろ! おいディアッカ! あれを止めろ!!」
イザークは堪らずアスランたちとビーチバレーに興じているディアッカにSOSを求めた。
するとディアッカではなく、キラがにっこり笑ってイザークに近づいてきた。
この際もう誰でも良かった。
イザークはキラに助けを求めた。
「お前の幼なじみを止めてくれ! あれは「ビーチバレーで負けたチームが、スイカと並んで生き埋めだよ。」
「な、何ふざけたことを言っているんだ貴様はっ!
相手はだぞ、脳天が割れるぞ!?」
「でも竹でしょ。竹じゃいくらだって、僕らの頭は割れないよ。」
イザークは無言でを指差した。
キラの視線が、の手の中の、いかにも硬い武器に固定される。
わー、相変わらず綺麗だなぁとか、人物をじっくり鑑賞している余裕など与えられない。
「・・・うん、条件はみんな一緒だよ。
誕生日に恋人に頭殴られるってのも、いい思い出になると思うよ。」
数十分後、2人の青年に罰ゲームの命が下った。
はくすくす笑いながら、恋人の頭にできた小さなたんこぶに氷を当てた。
あのスイカ割りは本当におかしかった。
生き埋めになったシンは、それでもあんたは人間かぁっ、とか叫んだ直後に棒に打たれたのだ。
彼の頭を打ったのは、だった。
キラに、それがスイカだよと言われたから信じて棒を振り上げたのに。
でも、とは思った。
「シンは私で良かったと思うよ・・・、うん。
イザークさんなんて・・・。」
「俺もそう思う・・・。
実際、そんなに痛くないのに膝枕してもらって、逆に嬉しいし。」
2人は、もう一組の男女に思いを馳せた。
「痛いっ、痛いぃぃぃぃっ!!」
「これでも手加減したんだけどなー・・・。」
はイザークの頭で見事に膨れ上がったたんこぶを眺めて言った。
さすがに、ちょっと痛いよねと申し訳ない気分にもなる。
だが、たまには彼にも痛い思いをしてもらわなくては。
そう思い直すことによって、は罪悪感を完全に消した。
「・・・。俺の頭が治るまで、ここに寝泊りしてもらうからな。」
「はいはい、ったく歳とってもわがままねぇ。」
加害者と被害者ではあったが、2人の絆はかち割れていなかった。
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