未成年がお酒を飲むのは法律で固く禁じられています。
うわ、まともなこと初めて言ったかもしれない。














Data××:  ありきたりなネタでいいですか
            ~酒は飲んでも食われるな~












 無機質な、というよりも生活感など何ひとつとしてない隊長室に、来客を告げるブザーが鳴り響く。
連日の勤務とそれに関する部下の報告書に目を通していたイザークは、ややうっとうしげにモニターを眺めた。
こんな遅くに誰が何の用でやって来たというのだ。
今の時間はプライベートタイムである。
ボルテールを自動操舵にしていたら民間の宇宙船と衝突したとか、そんな有事ではないと基本対応したくない。
私的な時間に仕事をこなしてはいるが、人に邪魔される謂われはないのである。





「誰だ」


「あっ、もしもしイザーク? ねぇ今暇?」





 暇なわけあるかと心中で呟くものの、それを口に出して言うはずがない。
重ねて言うが、今はプライベートタイムである。
軍内では上司と部下という関係にすぎないが、プライベートではれっきとした婚約中の関係にある。
彼女が今この時間に自分の元を訪れるということはすなわち、恋人として訪ねてきたということである。
腕は立つが報告書となるとどうにもイザークを疲れさせてしまう部下としてではなく、だ。






「忙しいなら別にいいわよ。じゃあ「全然忙しくしていないから、俺の返事の前に自己完結してその場を去ろうとするな





 早々に立ち去ろうとするを引き止めるべく、イザークは猛スピードでドアを開いた。
すると目の前には愛しい愛しいとディアッカがいる。






1人じゃないのか」


「おいなんだよ、俺はお邪魔虫って?」


「今更気付いたのかいつも言っているというのに。邪魔だ、もっと空気を読めディアッカ」


「いいじゃない別にディアッカが1人や2人いようと。どうせ余っちゃうんだから」





 は勝手知ったように部屋に入ると、テーブルの上の書類を適当に床に落とした。
せっかく決裁していた書類がはらはらと落ちる光景にイザークは眉を潜めた。
そして、がテーブルに置いたボトルを見るとさらに眉間に皺が寄る。





「・・・、それは?」


「お母様が送ってくれたの。お友達とどうぞって言われたからイザークとディアッカと酒盛りを」


「明日仕事は?」


「イザークはお休みでしょ。私も休みにしちゃった。でもディアッカがいるから平気平気」





 何を根拠に平気宣言をしているのかイザークはわからなかった。
聞いてみたところで大した理由もないのだろう。
しかし、と思った。
いくら明日が休みだとはいえ、酒盛りはまずいだろう。
自分は隊長、ディアッカはこれでも一応副官、だってジュール隊にその人ありと言われるエースパイロットだ。
こんなことが外に漏れたら、信頼がガタ落ちしてしまう可能性もある。
そもそも、は酒を飲めるのかという疑問もあった。
いいとこ出身のお嬢さまの癖して社交界にも滅多に出ない、上司との付き合い上の飲み会もない。
いったいどこで酒の味を覚えるというのだ。
というか、仕事場に酒を送ってこないでください(未来の)お義母様。





「美味しいのかどうかわかんないんだけど、飲まないんなら料理に使うしかないからねー」


「待て。お前どんだけビンテージもんのワインを使うつもりなんだよ」





 一足先にボトルを開けたディアッカが、酒に関してはとんと無知なを窘めた。
これだから世間知らずのお嬢様は強烈なのだ。
いつだってどこだって常人の思考とは真逆の考えを持っている。
はディアッカに促されるようにグラスに口をつけると、美味しいと歓声を上げた。





「イザークこれ美味しいよ。ほら、日頃の疲れをぱあっと発散したら?」


「あまり飲みすぎるなよ? というか、酒飲めたんだな」


「いや、今までお菓子の時ぐらいにしか味見しなかったけど」


「へぇ、その割には結構いけるじゃん。もしかして酒豪だったり」


「やっだー、んなわけないでしょー」





 平時と変わらずにこにことディアッカとくだらない話で笑っているにイザークは安堵した。
見たところ悪酔いをしている様子はない。
やたらとがぶ飲みをしている(というかさせていない)わけでもないし、人並みには飲めるのだろう。
そうとわかれば、今度からのデートの際のディナーも選ぶ範囲が広がるというものだ。
たまにはこういう夜もいいかもしれない、とイザークはひとりごちた。






「じゃ、俺明日もあるから今日はもう寝るわ。家の奥様にありがとうって伝えといてくれな」


「ん、おやすみディアッカ」





 3人中ただ1人、翌日もまともに仕事が入っているディアッカが退室した。
邪魔者がいなくなると、後はイザークとの2人きりだ。
軍服を着てはいるがなかなか趣も出てくる。
イザークはテーブルの向かいに座っているを見つめた。
グラスを片手にぼんやりとしている姿は妙な色気があった。
そう、ぼんやりと一点を見つめ頭がうつらうつらと・・・・・・。





「おい、?」


「・・・・・・」


「ここで寝るなよ





 グラスを取り上げて肩を揺さぶる。
さっきまであんなに元気にディアッカと喋っていたのに、この変貌はどういうことだ。
まだ自分とはろくに話していないではないか。
酔ったのか、やっぱり酔って挙句に眠気を催したのか。
やや大きめに名を呼びかけると、は一言眠たいと呟いた。





「なんか無茶苦茶眠たいんだけど・・・」


「酔ったんだろうな。部屋まで送るから帰れるか?」


「えー、どうせ明日休みだしこのままイザークと寝るよもう・・・」






 イ ザ ー ク と 寝 る よ 。





 形よく整った赤い唇から漏れた突然の誘い文句にイザークは硬直した。
さらに追い討ちをかけるかのように、が彼の胸にしなだれかかった。
半ば眠りかけたからだが倒れようとした時、たまたま進行上にイザークがいたというだけなのだが、悲しいかな。
男という生き物はこういう緊急事態に陥ると、ある意味乙女チックな妄想しかできなくなるのだ。
成り行き上当然のごとくが自分を求めていると勘違いしたイザークは、お休みカウントダウンの始まった恋人をベッドに連行した。






・・・、お前にしては珍しいな・・・」





 抵抗も何も言われないのは同意の証だとこれまた勘違いしたイザークは、の真っ白な首筋に唇を這わせた。
酒によっているせいか、いつもよりも若干肌が熱く感じられる。
んんぅとあくび交じりに漏れるの声は、イザークの耳には甘美なものにしか聞こえない。
脳内妄想と勘違いは、どうやら彼の耳まで侵食してしまったようである。





「誘ったのはだからな・・・?」






 きっちりと着込まれた服に手をかけても、嫌も早くもなんとも反応がない。
不審に思って顔を見ると、水色の瞳はしっかりと閉じられている。
しかもぐっすりと寝入ってしまったようで、健康的な規則正しい寝息も聞こえてくる。
イザークは今まさに服を乱そうとしている自身の手を見やった。
寝ている女性を襲うほど鬼畜ではないし飢えてもいないと自覚している。
ましてや彼女は目立たなかったとはいえ、しっかり酔っているのだ。
どの段階から酔いが回ったのかは定かではないが、イザークはついさっきということにした。
そうでも頭に叩き込んでおかないと、いつになく積極的な彼女の言葉も酔っ払いの戯言になってしまう。
それは嫌だった、いつもそっけない彼女だからこそ嫌だった。






「嫌われて困るのは俺だからな・・・、・・・また生殺しか」






 ボルテールに来て、婚約者同士になって何回目であろうか。
大変身体に悪いイザークの長い長い己の理性と戦う夜が始まった。











































 翌日、イザークの部屋のベッドから起き上がったは部屋の酒臭さに顔をしかめた。
床を見ると、空のボトルとイザークが転がっている。
昨日はディアッカがいなくなったからのことをよく覚えていないが、ベッドにいたのだから勝手に眠ってしまったのだろう。
布団まで被せてくれて自分は床で寝るなんて、イザークのこういうところはやはり紳士だと思う。
事実は全く違い、自棄になったイザークが夜のお供にではなくて酒を選び、焼きがまわってそのまま眠って朝になったのだが。
は床に倒れているイザークに布団を被せた。
こうやって見ると殺人事件の事件現場のように見えなくもないが、被せた直後にイザークが身体を起こしたので現場はただの隊長室に戻った。






「おはようイザーク、なんだか昨日は私すぐ寝ちゃったみたいでごめんね? しかもベッドにまで運んでくれるなんてさすがイザーク、お優しい」


「・・・昨日、なんっにも覚えてないのか?」


「うん、ディアッカが部屋出てったまではわかるんだけどねぇ、そこから先が全然わかんなくて。私寝たんでしょ?」


「明日は休みだから俺と寝るって言ったのも、覚えてないのか?」


「やだもう朝から何言ってんの。言うわけないじゃない、なんでイザークと寝なきゃいけないのよ。狭いじゃない」







 寝る前のお酒ってのもありよねぇ、今度またお母様に言ってお酒送ってもらおっかなとのたまうに、全力で止めてくれと否定したイザークだった。






目次に戻る