8.愛の余韻
「ねぇ、母さんはどうやって父さんと出会った?」
1人息子の質問に、リゼルは食器を洗う手を止めた。
死んだ父のことを尋ねることなど滅多にない。
勇者オルテガという、父でありながらもどこか遠い存在に彼なりにいろいろと思うところがあったのかもしれない。
もっとも、父子仲は至って良かったのだが。
「そうね・・・。初めて会った時、お父さんは迷子になってたわ」
「迷子・・・。それってあんまりかっこよくない」
「仕方ないわ。だって私が住んでた所に来たことがなかったんだもの」
「旅の途中で会ったってこと?」
出会いって案外あちこちに転がってんだなと呟くリグに苦笑する。
勘が鋭すぎる性質もあり、他人とは少し距離を置いて接する彼だ。
おそらくは旅の先々でも街の人々との会話の主は、ライムやバースたちに任せているのだろう。
「それからいろいろあって、リグが生まれたわけなんだけど・・・」
「だけど?」
「・・・リグ、またフィルと喧嘩したの?」
「え? ううん、してない。なんで?」
「だってリグ、こういう話訊いたりしてこなかったじゃないの」
「そりゃそうだけど・・・。なんか今度夫婦の日みたいのがあるらしくてさ。
それで気になったから訊いただけ」
でも話を端折りすぎて訳わかんないしとぼやくリグに、リゼルはまた笑いかけた。
そのうち、話す時が訪れるだろう。
馴れ初め話を一度に聞かせるなんてもったいない。
次はこちらから話を切り出してやろうと決めたリゼルだった。