1.イカサマ屋とハッタリ屋
どんと肩がぶつかり、ちょっとだけよろめく。
ごめんねお嬢さんと爽やかな青年が謝罪して、また歩き出す。
日本ではすみませんだけで終わるのに、さすがはイタリアだ。
お嬢さんまで付いてくるとは気分がいい。
「でもどうせなら可愛いとか綺麗なとかいった形容詞も欲しかったなー」
「とか呑気にぼやいてる場合じゃねぇだろ、綺麗で可愛いお嬢さん」
「お、ロマー・・・じゃない、ロヴィーノ」
ほらと言われて手渡された財布を見つめる。
あ、これは私のお財布だ。
あれ、いつの間にロヴィーノが持ってたんだろう。
拾ってくれたのかな。
「ったく、あんな野郎に見惚れやがって・・・。無一文になったらどうすんだよ」
「あ、中身が空っぽだ・・・」
「はあ!?」
財布を真っ逆さまにして振ってみても、硬貨一枚出てきやしない。
お前がぼさっとしてるからだろと怒られる。
うーん、そんな事言われてもこれは元々ダミーだからなぁ。
「どうすんだよ・・・。せっかく取り返してやったのに・・・」
「ありがとうロヴィーノ。でも大丈夫、こういうこともあろうかとこれはダミーのお財布。
初めから中身は空っぽなんだよ」
「・・・お前ほんと、やな女神だな」
「でも、そんなやな女神のために取り返してくれたロヴィーノは何だろうね」
黙りこんだロヴィーノの腕にぎゅっと抱きつく。
はあとため息が聞こえるけど、これは諦めのそれなんだろう。
今更素直な女の子になんかなれやしない。
「さっきの人、かっこよかったけど私のこと可愛いとも綺麗とも言わなかったんだよ。
正直者だよね」
「あいつの目が節穴なだけだろ。しかしナンパするんならスリは止めろって話だよな」
「そうだよねー。やっぱりロヴィーノがいいな、ナンパしてスリからスリし直して取り返して」
「・・・褒めてるのか?」
難しい顔をして首を傾げたロヴィーノに、私はもっと強く抱きついた。
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