お題・3
3.背中に隙は無いけれど



 戦士たるもの、敵に背後を奪われるようなことはあってはならない。
それはあくまでも対魔物の時はである。
日常生活ではそんな危機意識を持つ必要はない。
それでも体が反応してしまうのは、もはや職業病だ。




「ライム」

「あっ」

「・・・・・・ライム・・・?」




 後ろから声を掛けられ、嬉しくなる。
けれども肩あたりに触れられそうになり、とっさに身を翻す己の反射神経の良さには泣きたくなる。
別に危険な人物ではないのだ。
心を許している相手だというのに、なぜこうも身構えてしまうのか。



「・・・ごめんなさいハイドル。ちょっといつもの癖で・・・」

「わかっている。わたしこそ。背後を襲うような真似をしてしまった」

「・・・どうしてこうなっちゃうのかしら」




 はあとため息を吐くと、ハイドルは苦笑した。
戦う身なのだから、このくらい反射神経が鋭い方が安心する。
自分だってきっと、ライムに同じ事をされたなら同じような反応を返してしまうだろう。
彼女の悩みはわかるのだ。
わかっているからこそ、善後策を講じる必要があった。




「ライム」

「はい?」



 ふわりと、前から抱き締めてみる。
なるほど、これならば慌てることもないし、妙に神経を研ぎ澄ませておく必要もない。
相手の顔も見えているし、なによりも、何をされるのかわかっているから対処の必要もなくなる。
ただ少し、いや、かなり彼女には恥ずかしい思いをさせることになるのだが。




「今度からこうすることにしよう。嫌か、ライム」

「嫌じゃないけど・・・・・・。あんまり人前ではしないでね」



 こんなに紅くなってる姿、誰にも見せられない。
ライムは真っ赤になった顔を隠すべく、ハイドルの胸に顔を埋めた。





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