9.間違った酒の嗜み方
ごろりと床中に転がっている酒壷に思わず顔をしかめる。
これでもかというほどに漂う酒の臭いに口元を押さえる。
何だ、この地獄は。
は酒壷をところ構わず蹴り飛ばしながら道を作ると、地獄を生み出した元凶であろう男もついでに蹴飛ばした。
親類だからこそできる芸当である。
赤の他人が蹴飛ばそうものならば、たとえ彼が泥酔状態であっても問答無用でぶん殴られていただろう。
「ぶっ倒れるまで飲み明かして、なーにが歓迎会よ。ばっかじゃないの!?」
「おお、お前か。新しくまた持って来てくれたのか?」
「持って来ません! ったく、こんな痴態、諸葛亮様に見つかったらまた叱られるってわかんないの!?」
「なに、これも正義という名の絆を深めるためには欠かせぬ宴だ」
相当酒が回っているのか、訳のわからないことばかりほざく兄をもう一度、先程よりも強く蹴飛ばす。
助けてくださいお嬢様と急使をもらい、駆けつければこの様である。
酔って全裸になっていないだけまだ良かったと言うべきなのか、火照った体に冷水を思いきり浴びせるべきだったのか。
は集まった人々の中に愛する男性がいないことを確認すると、すっと右手を上げた。
「皆、桶の準備はできていますね? 責はすべて兄が取ります。この酔いどれどもの目を覚まさせてあげて」
血気盛んに戦場を駆け巡る馬超軍の猛者たちの頭に、一斉に桶が被せられる。
こうでもしなければ、奴らは延々と呑んだくれ続けるのだろう。
多少の荒療治は必要なのだ、後の責任は全て大将が負えばいい。
「いい歳してふざけてんじゃないの。これ以上乱痴気騒ぎ起こすんなら、兄上の絶影は私がもらうからね」
とどめとばかりに馬超の耳元で大声を上げる。
唸り声を上げたきり沈没してしまった兄を放り捨てると、馬家が誇る麗しきじゃじゃ馬姫君は、大股で酒宴の席から立ち去った。
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